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百三十六話 精霊と昔話

「えーっと、どこの誰でしょうか?」


 入ってきた女性は目尻の下がった優しそうな目に、肩まである茶髪。

 そして、焼けた肌。

 帝国の人だ。


「元帝国軍、パトリシア・ホーネスと言います」

「帝国軍人さんがどうしてここに?」


 真咲が相手しているのを放っておけばいいのだが、そうもいかない。

 筆を掴む手は止まったまま、相手をじっと見つめる。


「私の身が呪われていると、ここにいる元帝国の人に聞きました。本当に呪われてるのでしょうか?」

「うん、ちょっとだけ呪われてるかなー」


 真咲はなんとなしそう言うが、パトリシアと呼ばれた女性は目を見開いて驚いている。

 それもそうだ。

 普通に過ごしていただけなのに、そんな事態になっているなんて思いもしないだろうから。


「それは、この契約のせいでしょうか?」

「全然。そっちはレティのでしょ? えーっとパトリシアさん? が呪われているのは帝国で使われてることごとくが精霊さんたちを使ったものだからかなー」


 パトリシアさんが首を傾げる。

 なるほど。

 イーラさんは確か、何が使われているのか知っていた。

 しかし、知らないのが一般的なのかもしれない。


「んーと、精霊さんってまぁ、どこにでもいるんだけどね、こうやって」


 真咲が鎖を操り、空中に顔サイズの水球を作り出す。

 そして、それを凍らせて、燃やして、蒸発させる。


「ね?」


 真咲は得意気に微笑むが、パトリシアさんは驚いて目を見開いている。

 自然現象とは言わないが、それに近いものを自在に操れるのだ。

 驚くのは当たり前だが、真咲にとっては日常動作のように行えること。

 それがどれだけ人の人智を超えた者なのか、彼女は理解していない。


「普通はこうしても精霊さんたちは怒ったりしないんだけどね、無理矢理縛り付けられて力を使わせられたりすると怒って、悲しんで、負のエネルギーみたいなの振り撒いちゃうんだよね。それが呪い。パトリシアさんを蝕む呪いの正体」

「そんな物どこに使ってあるんですか?」


 怯えたような表情をしている。

 そんな恐ろしいものを何も知らないで使っていたんだ。

 そうもなるだろう。

 ここでそういうものが持ち込まれたら、真咲がまず許さない。

 そして、今の真咲を殺せるものは、レティシアでも無理。

 聖剣や聖槍を持つ二人でも無理だ。

 あれは真咲からしたら精霊が力を貸してるものらしい。

 精霊に力関係があるのは真咲を見れば分かる。

 彼女は精霊たちの中でトップだ。

 その下にもまだまだ力を持つ精霊たちはいるのだが、そういう力のある精霊が力を束ねているとか言っていた。

 どうして、それが魔族を殺す神性を得ることになるのか分からないのだが、精霊の力であるなら、人の体は殺されても、魂まで死ねないって言っていた。

 そして、正しく殺せるのは神様からの授かりもの(ギフト)を持つ者。

 それも私やあの消滅する力といった神のような奇跡を振るえる者だ。

 神様からの授かりもの(ギフト)は正しく神の力。

 さすがに神の力には抗えないんだとか。


「えーっと街灯とか、日常的に使うもの大体。あとは城壁とかも埋め込まれてるかも。とりあえず、帝国製の物は大体使われてると思ってもいいよ」

「……私の呪いは解けるのでしょうか?」

「うん、時間はかかるけど解けるよ。帝国に帰っちゃったら、無理だけど」


 どうしてそれが分かるのか聞かないあたり、パトリシアさんは正しい。

 それを聞いたら、私が口を挟んでいる。


「どれぐらいかかるのですか?」

「それはさすがに分からないよ。アタシは見えるだけだし、体の呪いが邪魔でちゃんと見えないし」


 真咲が苦笑いを浮かべる。

 誤魔化した。

 彼女なら魂が呪いで汚染されているのかも分かる。

 ま、初対面の相手にそこまで胸襟を開くことは出来ないだろう。

 私は無理だ。


「マサキ……様、また会いに来てもよろしいでしょうか?」

「あー……アタシ、普段は畑にいたり、領内うろうろしてるから、会えたらでいいならだけど」

「はい!」


 随分真咲のことを熱心に見つめている。

 惚れたのか?

 なら釘を刺しておいた方がいいのかと思ったが、彼女の視線には恋慕という色ではない、別の熱が籠っているのに気が付いた。

 どちらかと言えば、信奉とかそういう感じの熱だ。

 真咲が神として担がれる。

 想像するだけで笑えてしまう。

 彼女はそんな狭苦しいところに押し込められる人物ではない。

 本気で彼女を信奉するのであれば、それはそれで釘を刺すことにするか。


「それでは失礼します」


 腰まで折る綺麗な礼をして彼女は執務室を出て行った。


「変わった人だったね」


 真咲が私に笑いかけてきたが、自分が何をしたのかさっぱり理解していないらしい。

 私がそうであったように、彼女の優しさは無自覚に人を救う。

 それに対して、彼女は見返りを求めない。


「そうね」


 書類に目を落として、再び戦いに戻ることにした。


 ▼


 屋敷の庭で激しい金属音が響く。

 まだ一度も攻撃を与えてないどころか、領内の鍛冶が失敗作だと言っていた片刃になってしまった剣を巧みに操り、全て弾かれる。

 鍛冶師からは鋼の比重を変えてみたら出来たものであるが、折れやすく使いにくいだろうと言っていたが、どうだ、全く折れる気配がない。

 こっちはレーデヴァイン、神の槍を使っている。

 それもこの世界では使われているようなものではない未知の物で、その硬さはこの世界の物を凌駕しているはずなのにだ。

 槍を回し、相手にこちらの攻撃を弾かせるのと同時に返しの刃で攻撃を行っているのだが、上手くいかない。

 地面に突き刺して、相手の真下と真後ろに槍を出現させるのだが、読んだように前に出てくる。

 構えている。

 しかし、速度は遅い。

 これからいける。

 加速して、一瞬で相手が避けた槍に足を付く。

 突けば――目が合った。

 思考の加速。

 誘っている。

 体がまだこちらを向いていない。

 ならば、私の方が先に攻撃が届くはず。

 はずなのだが、その未来が見えない。

 だから、相手の上を前宙の要領で飛び越えながら、槍を振るう。

 衝撃が手に伝わる。

 やはり読まれていた。

 この女は気もないのにこうして気軽に呼んでくるのが困る。

 どれだけの研鑽を積んだらここまでの実力者になれるのか。

 しかし、何故折れないのか。

 まだ持つのかと苛立ちが募る。

 槍が弾かれれれば、そのまま相手を距離を取るために飛ばされてしっかりと着地するが、両手に槍を持つ。

 そして、片方を投げつける。


「そんな小細工通用しませんよ」


 分かってる。

 だから、投げた槍は簡単に弾かれる。

 弾かれたが、私がそこから飛び出す。

 いつかやられたやり方だ。

 狙いはどこに?

 決まっているここしかない。


「はあああああああああああああああああああ!」


 渾身の力を込めて、しっかりと腰を入れて槍を叩きつけた。

 最初の槍を弾いた剣の鎬。

 ここしかない。

 大丈夫。

 大丈夫だ、しっかりと当たっている。

 それならば、私のレーデヴァインが負けるはずがないんだ!

 その思いにレーデヴァインが答えてくれたのかは分からない。

 しかし、アンナが持つ剣はあっさりと真っ二つに切れた。


「少しは力が付いてきたようですね」


 切られた剣に興味なさそうに、あっさりと鞘に戻して、切られた先は指で挟んで持った。


「私の質問に一つ応えてくれる、でいいんだな?」

「そうですね」


 もう聞きたいことは決まっていた。

 しっかりとアンナを見据える。


「魔王を倒した後、勇者は共に倒れたと私はずっと聞かされているし、詩にもある。それに王都でもそのように記録されている」

「……」


 アンナは何も言わない。

 だから、勝手に続けさせてもらう。


「私が知っている歴史は間違っているということだ。だから、教えて欲しい。魔王を倒した後、どう歩んできたのか、を」


 アンナが鼻で笑う。


「それは質問ではないのだけど?」

「かもしれない。だけど、魔族が約束を違えるのか?」

「言うようになりましたね。いいでしょう。けど、長いので中に入りましょうか」


 アンナに付いて行くと、部屋に案内された。

 部屋に入れば、椅子と机が用意されて、お茶も用意される。

 全部用意されるのに時間がかかるせいで、しっかりと部屋を見ていたが物が少ないせいか生活感がしない。


「それでは、そうですね、魔王を倒したところから話しましょうか」

明後日とし明々後日はコミケ参加と帰宅でありません

ご了承ください


謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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