百三十五話 王都へ
「レティはどこに行ったの?」
「王都。陛下にこの前捕まえた帝国の人を手土産に謁見してくるって」
レティシアの代わりに私が執務室の机について、書類を整理している。
しかし、量が多い。
いつも何かやっていると思っていたが、こんな量の仕事をしているとは思ってもなかった。
取引、工事、収穫量、他にも様々な物が積まれている。
私もまだ覚えることが多いとは思っていたが、これは予想よりも多い。
「誰が一緒に行ったの?」
「アルフレッドさん」
「だけ?」
「だけ」
真咲はソファに寝転ぶようにして、リラックスした体勢を取っていた。
リラックスしすぎではあるが。
真咲に手伝ってもらうことは最初考えていたが、私がレティシアの手伝いをするようになった初日にもう諦めた。
地頭は悪くないのだが、どうやら机に縛られるのがだめらしい。
子供かと突っ込んでしまった。
「アルフレッドさんだけって珍しいね」
「確かに、いつもあの四人がセットみたいなところあったし」
真咲といつも通りの身もない会話をしているときに、ガレオンさんが入ってきた。
「おい、客だぞ」
「レティシアから誰かが訪ねてくるってことは聞いてないのだけど?」
「お前じゃない、マサキの方だ」
「え、アタシ?」
真咲が勢いよく体を起こした。
「おい、入れ」
そうして入ってきたのは見たことない女性が入ってきた。
「えーっと、どこの誰でしょうか?」
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アルフレッドに馬車の御者を任せて、ゆったりと王都までの道を目指す。
マサキを使って、王都に行くのも考えたのだが、私達が王都に目指す姿を人々に見せる目的もあった。
私とアルフレッドは寝ないでも大丈夫なのだが、馬はそうではない。
しっかりと休ませてあげないとダメになってしまう。
だから、わざわざ街に立ち寄って、宿を取る。
そして、街に立ち寄ったら必ず、捕まえた男を伴って街中を練り歩く。
それを繰り返して、七日目。
もう少しで王都に辿り着く。
この森を抜ければ、最初にアユムと出会った平原がある。
対面にはずっと捕まえた男が座っているが、喋らない。
私も喋る気はない。
私の興味は手元にあるアユムが残した魔術書にしかない。
そして、本のページを捲ったらところで馬車の速度が徐々に落ちて行った。
馬車の小窓を開けて、アルフレッドが声をかけてきた。
「レティシアお嬢様、お客様が訪ねてきておりますがどのような対処をいたしましょうか」
「殺さなければ、どうとでも。いい手土産が増えるわね」
「ええ、そのようで」
アルフレッドが小窓を閉めた。
「あなたのお仲間は仕事熱心ね。あなたのことを助けに来たみたいよ」
私が声をかけると男は顔を下げた。
間諜なのだから、黙って仲間を見捨てればいいのに、とは思う。
普通は見捨てるだろう。
見つかっては元も子もない。
私だってそうするだろう。
帝国の間諜は動かせない。
けど、帝国に通じている者たちだったら、どうだろう。
ポートリフィア領の領主のような者たちだ。
この男もその情報を持っていた。
だから炙りだしてやろう。
連絡手段を知っているこの男には随分活躍してもらった。
さて、どれぐらいの人数が釣れたのか楽しみでならない。
▼
人数にして十人ほど。
馬車にいるのは我が主。
馬車を傷つけられるのは私のプライドが許さない。
手袋の端を引き、皺を伸ばす。
「さて、悠長に敵の方の包囲待っていては、いくら時間がかかることやら……こちらから参らせていただきましょうか」
御者台から飛び出して、一番近くにいた男の頭を掴んで、地面に叩きつける。
とりあえず、動けないようにした方がいいのだが、手を潰すか、足を潰すか。
迷う。
足でも手でも両方潰さないと確実ではないだろう。
手だと逃げられるかもしれない。
だったらどこがいいだろうか。
跳ね上がる体を見ながら、しばし考えた後に、背の骨を折ると体が麻痺して動かせなくなるとユリナ様が言ってた気がする。
ちょうどいい。
今ここで試してみようか。
跳ね上がった男の足を掴んで裏返すように再度叩きつける。
そのまま背中にかかとを落とせば、骨が折れる感触がした。
このまま二十人相手もしてもいいのだが、時間がかかるのは目に見えている。
そのまま男の頭を掴んで引きずっていく。
人間の体は何とも軽いものか。
五人ほど固まっている男たちに向かって、投げつける。
「な、なんだ!?」
そのような声を出さなくてもこちらから出向くのに。
一息で固まった集団に辿り着く。
投げた男は動かない。
これはちょうどいい。
一人は足を払うようにして砕く。
もう一人は腰をかがめ、下から顎をかち上げると、下顎が上顎にめり込む。
二人の男が切りかかってくるが、ナイフを掴み、砕く。
そのまま二人の頭をぶつけて、よろけたところを一人ずつ丁寧に木に背中からぶつけた。
最後の一人は逃げ腰になっていたので、一歩近づく。そのまま背中を見せて逃げようとしたので、背中を踏みつけて、もう一度強く踏みつければ、簡単に骨が折れる感触が伝わってくる。
「ふむ、あまりにも弱い。手ごたえがなさ過ぎる」
罠だろうかとふと考える。
しかし、いくら何でもこれは弱すぎる。
ただの荒くれ物を雇ったにしては質が悪すぎる。
残り四人。
手練れを雇ってくると思っていたのに、残念な気持ちしかない。
そもそも私たち魔族が人間界で力を振るえばこのようになる。
もう心躍る戦いというのはどれほどしていないのか。
いつか、またそのような戦いが出来ればと思っているのだが、魔族の相手は魔族にしか出来ないということだろう。
さて、残りの数人の対処に当たりましょうか。
気配がする方に私は歩みを進めた。
謝辞
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