百二十話 真実を教えましょう
夜になって王城でも侵入が困難と言われている外壁箇所まで、アルフレッドとマサキと歩いてきた。
聖櫃というのが神造兵装で作られたものではなく、術式で組まれたものであるならば、私がやりたいことが可能かどうか確かめるためだ。
「どうかしら、マサキ」
マサキは術式については分からない。
けど、精霊のことに関してはこの世界では今のところ一番詳しく、最高の使い手である。
外壁を触っているマサキの目がずっと光っている。
「精霊さんたちがいっぱい活発に動いてる。網目みたいに……すごい」
彼女の目にはどういう風に映っているのか私に知る術はない。
ただ、必要なことを聞けばいい。
「どこから精霊たちを活性化させているか分かるかしら?」
「うん。魔力っていうのはアタシには全然分かんないけど、その流れに沿って動いてるからよく分かるよ」
上出来だ。
これが出来るのならば、私の計画は進めることが出来る。
「入れそう?」
「うん、大丈夫だけど、何するの?」
「その部屋にいる女の子と話して、ここに落としてくれたらいいのだけど、中にいる子がいなくなったら聖櫃は維持出来ないのよね?」
「そうだね。精霊さんたちが分散しちゃう」
「マサキなら代わりになれる?」
「魔力はないけど、精霊さんたちを動かせるから多分、かなー。あんま自信ないな。アタシがお願いするとみんな張り切っちゃうんだもん」
照れくさそうに笑っているが、そんなこと出来るのは私の知る限り彼女だけだ。
誇ってもいい技術であるが、彼女としては出来て当然とでも思っているのだろう。
末恐ろしいわね。
「これ渡しておくわ」
アルフレッドが一つの透明なベルを取り出した。
振り子の部分だけ赤く染まったガラスで出来たような綺麗なベル。
それをマサキに手渡す。
「これは?」
「振り子に私の血を吸わせてあるのだけど、そこに血を吸わせたものだけに届く鐘の音が鳴るベルよ」
「これも、神造兵装って奴?」
「ええ、私が持っていたものの一つよ」
使い道は限られていて、今までは倉庫の奥底に眠っていたものだ。
「それの使い道を教えてあげるわ」
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吸血鬼が去っていったが、私の気は収まらなかった。
なんであんなにも言われないといけなかったのか。
どうして勇者様は止めてくれなかったのか。
不満は多い。
夕食は食べ終わり、聖櫃の外にも誰もいない。
中に設置してあるベッドでゴロゴロと枕に顔を押し付けて、今日の不満を少しでも拭おうとしていいた。
それにも少し飽きて、何か飲もうかと思い、使用人を呼ぶためのベルを手に取ろうとした時、床から女性の顔が生えているのに気が付く。
「きゃ――――!」
「お願い、叫ばないでっ」
私が悲鳴を上げようとしたところで、生えているところから腕が生えて、そこから伸びた鎖が私の口に巻き付く、悲鳴を封じられた。
「怪しい人かもしれないけど、怪我とかさせるために来たわけじゃないから、お願い、悲鳴だけはやめてねっ」
言いながら上半身が浮かび上がり、手を合わせて頭を下げた。
黒髪に一房だけ虹色の髪色を持つ不思議な女性。
左右の瞳の色も違う。
肌の色は母様に似ている。
「悲鳴上げないなら外すけど、上げないよね……?」
心配そうにこちらを見てきたので、うんうんと頷いておく。
そうして、するすると意志を持つように外れていく。
全部外れたところで大きく息を吸った。
「突然来ちゃってごめんね」
「ど、どうして、この中に入ってこれるんですか!」
「わわわ、大きな声出さないでっ」
慌ててベッドいる私の口元を抑えに駆け寄ってきた。
「ええっと、入れる理由だよね。えっとねぇ、何ていうか説明難しいんだけど、うーん……」
そうして、散々悩み抜いた後に、
「精霊さんたちにお願いしたりできるので、ここまで連れてきてもらった」
ニッと歯を見せて笑った。
意味が分からない。
今日は意味が分からないことが多すぎて、頭が爆発しそうだ。
「アタシは関口真咲。聖女様、だよね? あなたのお母さんにはちょっと縁があるの」
「え、どういうことですか?!」
私が喰いつくと、マサキという女性はちょっとだけ困ったような笑みを浮かべる。
「それはちゃんと教えてあげる。アタシの知ってることと、教えてもらったことだけどね」
マサキさんはベッドに腰掛ける。
「聖女様はここで日本人が召喚されているの知ってる?」
「はい」
「どこで何してるのか知ってる?」
「母様から国のために働いてくれていると聞いています」
見たことはない。
全部伝え聞いたことだ。
ニホンジンというのも聞いたことがある単語であり、神様からの授かりものもその単語の意味は教えてくれなかった。
「国のために働いている、かー。合ってるけど、間違ってるんだよね」
「どういうことですか?」
マサキさんの方に身を乗り出すと、そっとマサキさんが私の肩を押す。
「まま、落ち着いて。ちゃんと説明するからさ」
マサキさんが一度天井を仰いだが、すぐに私に視線を向けてくる。
覚悟はいいか、と。
もうそんなものはとっくにできている。
私はしっかりとマサキさんを見つめ返した。
「それじゃあ、教えてあげる。アタシが知っている王国の真実、アタシたちのこと、あなたのお母さんのことを」
謝辞
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