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百十八話 二次会と結婚初夜

 宴も終わり、私達もまた屋敷の自分の部屋に帰る。

 はずだった。

 何故か、ユリナとマサキに呼ばれて、私達は彼女たち二人の部屋にいる。


「普通、初夜は二人だけじゃないのか?」

「だったら毎日初夜だし、私達」

「ちょ、ゆりな、そういうのはもっとこうさ!」


 マサキがユリナを押し倒して、口を手で封じていた。

 私はこの場所にいていいんだろうか。


「帰ろうか?」

「いや、ちょっと待って、ジェシカ! ストップ! って、ストップって分からないか!」

「止まれってこと?」


 学のない私でも、さすがにそれぐらいは前の言葉から察することは出来る。


「うん、そそ!」


 立ち上がりかけていた腰を椅子に落ちつけた。

 ユリナは苦しかったと言いながら、全然そんな風には見えない表情で起き上がる。


「それで何で呼ばれたんだ?」

「二次会に決まってんじゃん」


 マサキも起き上がり、近くに置いてあった鎖を手に持って、テーブルに巻き付ける。

 そのまま持ち上げて、優しく床に置かれた。

 器用な真似も出来るのだなと感心しかない。


「ニジカイってなんだ?」

「え、ええー……っと」

「二次会っていうのは親しい人たちだけでやる飲み会? みたいなやつ」

「……ゆりな、合ってるの?」

「意味としてはこんなものよ」


 意味は分かった。

 けど、親しいで私は合っているのだろうか。


「レティシアとかの方が、意味としては合っているのではないか?」


 グラスを用意しているマサキと、お酒の栓を開けようとしているユリナの動きが止まり、二人は目を見合わせた。


「レティは親しいよ。けど、今やアタシの親だし?」

「親同伴はちょっと、嫌」


 確かに、今やこの二人の親だ。

 けど、それならばやはり親を呼ぶ方が自然だ。

 私の村でも結婚を祝うパーティーはあった。

 そこでは、村の親しい人って言っても、大体ほとんどの人が集まっていたわけだし。

 その時にはこういうことはなかったはずだ。

 私が知らないだけで大人たちはやっていたかもしれないけど。


「この世界のやり方は知らない。私達、こことは別の世界から来た人だし」


 それは聞いた。

 その時付けられた力が神様からの授かりもの(ギフト)

 彼女たちもまた数奇な運命に手繰り寄せられた者たちだ。

 

「私たちのところで、成人した子供の集まりに親同伴は絶対ない」


 マサキも横で頷いていた。

 そんな言い切ることなのかと雰囲気で押されてしまう。

 ユリナがグラスにお酒を注ぐ。


「これが私達の常識だから」


 ユリナがグラスを一つ持ち、私に向ける。

 それを受け取ると、二人もそれぞれグラスを手に取った。


「それにジェシカにアタシたちの世界の飲み会のやり方を教えてあげる」


 マサキがニッと歯を見せる笑みを見せた。


「じゃあ、二人とも、かんぱーい!」

「はいはい、乾杯」

「か……え?」


 全然分からない。

 ユリナとマサキがグラスを当てて、音を打ち鳴らしている。

 その後に私の方に二人がグラスを向けてくるのだが、どうしたらいいのか理解できない。


「そのまま私たちのグラスに当てて、飲めばいいの」


 ユリナに言われて、二人のグラスに順番に当てていく。

 その度にガラスの澄んだ音が部屋に響く。

 言われた通り当てると、二人がグラスに口をつけるのを見て、私もグラスに口を付けた。


「変わってるな」


 半分ほど飲んだところでグラスから口を離す。

 

「そう?」

「あぁ、変わってる」

「お酒のある女子会の時はこのやり方だから」


 ユリナが勝手に決めてしまう。

 大体こういうのを決めるのはこの女なのだが。

 グラスを煽り、残っていたお酒を飲み干す。

 テーブルにグラスを置けば、ユリナが勝手にお酒を注ぐ。


「おい」

「今日ぐらいいいでしょ」


 ため息をつき、グラスを手に取る。

 マサキは何を嬉しいのかずっと笑顔だし、意味が分からない。


「そういえば、今日ジェシカもちゃんとドレス着てたじゃない」

「見えてたのか」

「もちもち、後で声かけようと思ったらずーっとアタシたちのこと避けてたじゃん」

「当たり前だ。あれだけ散々バカにされたんだ。見せるつもりも最初からなかった」


 そうだ。

 今日、私は胸元に腕が透けてる材質の黄色のドレスを着ていた。

 二人には見られたくなかった。

 どんなことを言われるか分かったものじゃないからな。


「あー……あの時はね、ごめん。けど、今日のはすっごい可愛かったよ」


 マサキが身を乗り出して、こちらに迫る。

 迫られた分だけ逃げようとして、椅子が思うように動かずに体だけ逸らして何とか逃げようとした。


「あれはジェシカがヒールになれてなくて、変な歩き方してるのが悪い。槍を置いて、髪を伸ばしたらこの村の若い男に人気が出そうな位良かったから」


 ユリナにそう言われるとは思ってなかった。

 これはもしかして、そう言う事なのか。


「……私をからかっているのか?」

「そんなわけないでしょ」

「違う違うって! 見惚れるぐらい可愛かったんだってば! マジで!」

「私の真咲がこう言ってるんだから、信じてあげなさいよ」

「だったら、信じてもらえるように普段の言動から気を付けるんだな」


 マサキは嘘を吐くのが苦手だ。

 それはもうこの付き合いでよく分かっている。

 ユリナは分からない。

 この時ぐらいは、話半分でも信じてあげよう。

 可愛い、か。

 子供の頃に言われて以来だ。

 ここに来てからは特に言われたことはない。

 私がいつも作業着を着て、髪も短くしているせいだろうか。

 男性たちの中に混じって作業しているせいかもしれない。

 それに私には勇者という称号がある。

 そのせいでこういうからかうことも言われたりはしない。

 ユリナが言う通り、そう言った女性らしい幸せを求めてもいいかもしれない。

 けど、それは私の目的を果たしてからだ。

 魔王の討伐。

 それがなしえないなら、私はきっと後悔を背負い生きていくことになるはずだ。

 だから、それはもしかしたらの話だ。

 ありえない未来の話。

 変に沈黙してしまったと思い、一度咳をする。


「そう言えば、二人にはちゃんと言ってなかったな」


 からかいもする。

 冗談も言う。

 声を上げて笑い合う。

 私は二人の親友に一番の笑みになるように笑い、向けた。


「結婚おめでとう」


 二人は一度顔を見合わせる。

 しかし、すぐに二人とも私に笑みを返してくれた。


「ありがとう、ジェシカ」

「ありがと! 嬉しいよ! ジェシカ」


 マサキが勢いよく抱き着いてきたが、何とか受け止めた。

 この二人は女神様のことを恨んでいる。

 だから、二人のためには祈らない。

 私が二人へと願う。

 いつまでも、末永く幸せで合ってくれ、と。


 ▼


 三人で瓶を一本開けたところで、お開きにした。

 私は今いつものように真咲と一緒にベッドで横になっていた。

 服装だけはいつもと違い、下着だけになっているが。

 アルコールが回って、全身が熱い。

 マサキも少しだけ頬を赤くしているあたり、酔っているのだと思う。

 部屋は仄かに明るくしてある。

 そうしないと真咲が起きた時に怖がるからだ。

 真咲の精霊を操る力で、鎖の先端に火の精霊だったかを宿して明るくしてあるらしい。

 理屈は分からなくもないが、真咲にしか出来ない事だ。

 そんな真咲は、少しだけ瞼が下がってきている。

 結婚初夜だというのに、そんな簡単に寝てしまうのか。


「ねぇ、真咲」

「んー……?」


 眠ってしまいそうな真咲の耳元まで顔を寄せる。


「とても似合ってた。ドレスも可愛かった」


 そう呟くと、真咲の体が硬直するように固まった。

 いきなり、変な動きをするから結構驚いて、顔を離してしまった。

 真咲の顔が動いてきて、目が合う。

 酔いのせいで赤い、だけじゃない。

 さっきまで頬に朱が刺している程度だったのが、今や顔を真っ赤にしているのだから。


「と、突然、そういうの言うのは反則」


 口を尖らせながら言う真咲に思わず笑ってしまった。


「な、何で笑うの」

「だって、私言ったし。感想は後でって」

「それはそうだけどー……」


 まだ何か言いそうな口に私は口を重ねる。

 真咲も嫌がることなく、私の口付けを受け入れてくれた。

 ゆっくりと口を離すと、また真咲は口を尖らせてしまう。

 何をそんなにも不機嫌になっているのだろうか。


「アタシだって、ゆりなのことそう思ってたし……」


 可愛いことを言ってくれる。

 だから、私は彼女の頬に返事の代わりに軽くキスをしてあげた。


「アタシたち、本当に結婚しちゃったんだね」


 そう言って眺める左手の薬指に付けられた指輪だった。

 赤い水晶が付いた指輪。

 見たことのない色だ。


「そうね、役所もないから、面倒も手続しないで楽でいい」

「確かに、ってあれって紙書くだけじゃないの?」

「さぁ? 知らないけど」


 視線を指輪から、真咲の方に向き直すと、真咲も私の方を見ていた。

 ゆっくりと手を伸ばして、抱き締め合う。


「過去のアタシにあんた女の子と結婚するよって言っても絶対信じてくれないだろうね」

「同感」


 私は真咲よりも信じないだろうな。

 それほどまでに私の頭は固い。

 ここに来る前の私は彼のことで頭がいっぱいだったのだから、尚更だ。


「ゆりな」


 熱い視線を感じて、見つめていると真咲から顔を寄せてきた。

 けど、自分からはしない。

 私がしてくれるのを待っている。

 ちゃんと言えばいいのにと思うが、きっと恥ずかしいのだろう。

 だから、私が顔を近づけて、口づけを交わす。

 最初は触れ合うだけの優しいもの。

 今日は真咲の方から求めるように、口が開き、舌が口を濡らしてきた。

 そんなにせっつかなくてもちゃんとしてあげる。

 そう思いながら、口を開き、彼女の舌と私の舌を絡み着かせる。

 涎が垂れてしまう。

 私のが垂れそうになると、彼女が器用に掬おうとする。

 どれだけ時間、二人で絡ませていたのか分からない。

 自然と口を離した時には二人して肩で息をしていた。


「これ以上は声、聞かれちゃうよ」

「じゃあ、止める?」


 私がそう聞くと、真咲は悩みだした。

 分かっている。

 体に火が着いていることを。

 私だってそうだ。

 だけど、無理強いしたくはない。

 そして、悩み抜いた末の結論として首を横に振った。


「シーツでもマクラでも噛んで聞かれたくないなら我慢、ね?」


 真咲が頷きで返してきた。

 それなら、結婚初夜なのだ。

 私も欲望に、昂る体は完全に火が着いている。

 遠慮はしない。

 私の口元はきっと嫌な笑みを浮かべているだろう。

 いつものように真咲の体のあらゆる箇所を触るところから始めたのだった。


 結論から言おう。

 声を我慢する。

 真咲にそんなこと出来るはずがなかった。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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