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百十一話 一夜明けた朝

「おはよう、真咲」


 彼女が目を覚ますのをじっくりと眺めていた。

 早い時間に目が覚めてしまって、眠れず、そのままでいたのだが、これは役得だと思い、彼女の寝顔をずっと眺めていた。

 穏やかな寝顔。

 夜に起きた様子もなし。

 寝ぼけた瞳が徐々に開いていくが、まだ瞳はまだ開き切っていない。


「……はよ」


 どこか夢現な様子で私に返事をした彼女の頬を片手で優しく包む。

 半開きな唇に優しく私の唇を重ねる。

 まだ反応が薄いから、からかいも含めて、舌で口をこじ開けて、歯をなぞる。

 そこで、真咲の体が跳ねたから、びっくりして舌を引っ込めた。


「びっくりした」

「あ、アタシの方がびっくりしたし」


 真咲のことは夜の間に詳しく知ることが出来たのだが、この子本当に色恋沙汰やそれに連なるアダルトなことに耐性がない。

 確か、こっちに来る前はまだ高校生だっけ。

 彼氏もいないし、ネットや雑誌に人伝の情報では無理があるか。

 私もテクニシャンというわけでもない。

 ただ、彼女よりも長く生きていたわけだし、そういう経験があったわけだったので、リードしてあげたのだが、結構かわいい声を出してくれた。

 

「おはよう、真咲」

「お、おはよ……ゆりな」


 顔を真っ赤にしてシーツで半分顔を隠してしまう。


「一人でシーツ取らないでよ」

「ごめ、ごめん……」


 そう言って、シーツを緩めてくれる。

 だから、私はシーツを上げた。

 薄暗いシーツの下には彼女の裸体が見えた。

 私も服を着ていない。


「早く起きて行かないとレティシアよりも遅くなりそう」


 そう言って、彼女を抱きしめる。


「そんな、に寝てたかな……アタシ……あんまり遅いとレティに心配かけちゃうし、行かないと」


 顔には心配を浮かべているのだが、真咲が私を抱きしめ返す。

 彼女が好きなのかは分からないけど、真咲は夜の間もずっと私を抱きしめようとしていたし、それが見える時には私も応じてあげていた。

 私と真咲の間に愛情があるのかは分からない。

 だって、私は真咲の気持ちを聞いたことないから。

 だけど、プロポーズをやり直してほしいというのだから、全く私に気持ちがないってことはないだろう。

 真咲の気持ちは大事なのだが、今はいい。

 この関係に愛情がなくても、それは私たちでいずれ築けばいい話だ。

 彼女の瞳を見つめる。

 虹色の瞳は、光の角度でその色合いが随分と変化を見せる綺麗な瞳だ。

 金色の目は、闇夜に浮かぶ月ような輝きを放っている。

 体をすり合わせれば、お互いの傷に引っ掛かりを覚える。

 私たちの体は綺麗な傷一つない体ではない。

 だから、その傷痕同士をこすり合わせるように体を動かす。

 私が顔を近づけると、自然と真咲が目を閉じる。

 ゆっくりと唇同士が合わさるだけのキス。

 それを何度もしていく。

 最初は私から、徐々に真咲の方から求めて、私の唇を捧げる。

 どちらが満足したのか分からないけど、真咲から離れていくので私もそれに合わせて顔を離す。


「……起きなきゃ」

「一日ぐらいサボっても問題ないじゃない?」


 私がそう囁くと、真咲が起きようとした動作を止めてしまう。


「夜までずっとここで私が楽しいこと教えてあげようか?」


 追撃すれば、彼女は耳まで真っ赤にした。

 初心で可愛い反応だ。

 それを楽しんでいると、彼女が起き上がる。


「そ、それは、いいかもだけど、やっぱり、良くないから! 行かないと!」


 声を裏返しながら、そう宣言する。

 私はふふと笑う。

 裸で起き上がり、そう宣言する真咲の姿が面白い。


「そうだね、それならちゃんと服を着て行った方がいいわね」


 私も起き上がり、落ちていた下着を手に持ちながら、彼女の手を見る。


「ねぇ、真咲、手大丈夫?」


 彼女が首を傾げて、手を見た。

 けど、それ以上の動きはしない。


「怪我とかしてたっけ?」

「……いいえ、何でもない。気にしないで」


 何にもないのであれば、問題ない。

 それならもう終わった話なのだから。

 だから、彼女の落ちていた下着を拾って渡した。


 ▼


「そういえば、真咲には私の義母さんを紹介してなかったわね」


 いつもの革鎧の格好になった私たちは部屋を出て、廊下を歩いていた。


「え、ゆりなのお母さんってこっちに来てたの?!」


 真咲の言葉は無視して、廊下を進む。

 彼女は肌の出る格好を嫌がるというか、避けている。

 だからか、革鎧の毎日のように着ている。

 稽古がない日でも、だ。

 肌の露出がほぼない格好だから、彼女としても気持ちが楽なのだろう。

 食堂に辿り着き、扉に手をかける。


「もういるはずだから、紹介する。私の義母よ」


 そう言って、食堂に入っていくとレティシアが大きなお皿の上に乗っている一口サイズのお肉をナイフとフォークを使って、さらに細かく切っているところだった。


「おはよう、義母さん」

「お、おはよう、ございます……?」


 真咲は背を伸ばして、綺麗なお辞儀をした。


「おはよう、二人とも。どうしたの、マサキ」

「へ……? あれ、レティ……?」

「ええ、そうよ?」


 私に視線が集中した気がするが、私はもう笑いを堪えられなくなっていて、漏れてしまっていた。


「ユリナにからかわれたわね」

「ゆーりーなー!」


 真咲が顔を真っ赤にして私に詰め寄ってくる。

 ひとしきり笑って、呼吸を整えさせてもらう。


「からかってないじゃん。ある意味で私の義母に当たる存在だし? これから一緒に過ごすパートナーを紹介しに来たんだけど?」

「ちょ、ゆりな! そんな、言っちゃ、ハズイから!」


 真咲が私を止めようとしているけど、無駄。

 だって、真咲のことはもうレティシアに伝えてあるんだから。


「知ってるわ。昨日の夜は随分楽しんでいたようだし?」

「ええ、それはもう。今日の夜もそのつもりだから、よろしくね。お義母さん」

「ゆ、ゆりな! そんな、も、もーっ!」


 真咲が慌てふためく様子が面白くて、レティシアと二人で笑い合った。

 それからは席に着けば、アルフレッドさんが朝食を持ってきてくれた。

 こっちに来てから、この人たちに私たちは甘えっぱなしだ。

 朝食を頂きながら、真咲の目のことや伝えるべき事だけをレティシアに報告していく。

 そこで私から一つレティシアにお願いしをした。


「ねぇ、レティシア。もし、真咲が死んだら、その精霊が見える目、私に頂戴」

「理由は?」

「聞かなくても分かるでしょ。仮に精霊になるんだったら、見えないと困る。私は真咲と一緒にいると決めた。だから、どんな姿になっても一緒にいたい。それだけ」


 レティシアが最後の肉の欠片を口に含む。

 そうして、ゆっくりと咀嚼して、ナイフとフォークを置き、ナプキンで口元を拭いた。


「いいわよ。けど、ユリナ、あなたの今の寿命は精々が人の倍程度よ? それでもいいのかしら?」

「真咲が精霊になったら、その時はもっと血を頂戴」

「いいのかしら、本当に」

「うん、もういい。自棄になったわけじゃない。けど、人にこだわる理由もなくなったから、いい。温泉いっぱいの血を私に飲ませて頂戴」


 おどけて伝えると、レティシアは少しだけ悲しそうな顔をしたがすぐにいつもの笑みを浮かべた表情に戻る。


「分かった。その時になったら教えなさいね」


 レティシアの言葉にうなずいた後に、私は真咲と向き合った。

 一つだけ二人で決めていたこともある。

 二人で席を立ち、レティシアの席の隣まで歩いていく。

 そして、アルフレッドさんたちがしていたように膝を折り、頭を下げる。


「レティ、私を、ううん、私たちをレティの一族に加えてほしい」

「私を正式にあなたの娘として迎えてほしい」


 レティシアがどんな顔をしているのか分からない。

 けど、私たちはもう決めたことだ。

 この世界が嫌いだし、憎い。

 それでももう元の地球には戻れない。

 だから、この世界で生きていくために居場所を作らないといけない。

 私たちが生きていくため、そして、真咲を守るためにも大きな後ろ盾が必要なのだ。


「いいのだけど、最後に確認するわ。本当に良いのね?」


 私も真咲ももう答えを出している。

 だから、迷わない。

 二人で示し合わせたわけでもないが、


「「はい」」


 声が重なった。


「いいでしょう。サイトウユリナ、スカーレット家当主としてあなたを正式に娘として迎えましょう。そして、その配偶者でもあるセキグチマサキ、あなたも我がスカーレット家の末席に加わることを認めるわ」


 レティシアが足を差し出す。

 作法なんて知らないけど、やれということはなんとなく分かる。

 レティシアの足を手に取り、足の甲に口づけをする。

 私に続いて、真咲も同じように口づけをした。

 足を引っ込めたのを確認して、レティシアを見れば、彼女は笑いを堪えているようだった。


「そこまでしなくてもいいのよ、二人とも」


 私たちの視線に気が付いたのか、レティシアは堪えるのをやめて、鈴のような笑い声をあげていた。


「最低な義母」

「も、もう、レティ!」


 私たちの抗議も気にしないように笑い続けていたが、ひとしきり笑えば気が済んだのか止まった。


「それじゃあ、あなたたち、今夜……いいえ、明日の夜に村の人たちを呼んでささやかだけどパーティーをしようと思うから、その時に報告しなさい」

「え」


 真咲が素っ頓狂な声を上げているが、もうレティシアの中では決まっている様子で話は進んでいく。

 私は知っていたことだし、やらないとは言ったのにやることになっている点だけは抗議したいが驚きはない。


「ドレスも貸してあげるわ。あとで好きなものを選びなさいね」

「ちょ、ちょっと待って、レティ! アタシたちまだ指輪だって、用意してないし!」

「指輪? どうして?」


 この世界ではそういう習慣がないのか。

 

「私たちの住んでいた地球だと、結婚式で指輪を交換するって習慣? っていうのかながあったの」


 レティシアは興味深そうにする。

 この吸血鬼は本当に私たちの世界のことが気になるらしい。

 これからたんまり話す時間もあるわけだし、いつか聞かせてあげてもいいだろう。


「それなら、私からプレゼントするわ」

「いやいや、そんな、だって」

「可愛い娘の晴れ舞台よ? 私からのお祝いだと思って受け取りなさい」


 断ってもきっと、レティシアのことだから、最後には受け取る流れにしてくるだろう。

 真咲がレティシアに口で勝てるわけもないし。


「それなら、甘えるかな。真咲もいいでしょ?」

「まぁ……本当にいいのなら……」


 煮え切らない様子だが、それでも最後は分かってくれる。

 私たちの返答に満足したのか、レティシアは席を立った。


「何か用事でもあるの?」

「ええ、大事な用事よ」


 レティシアが食堂の出口の方まで歩いていく。


「大事な戦後交渉を始めてくるわ」


 レティシアはそれだけ言うと、食堂から出て行ってしまった。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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