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十一話 尋問

 夜遅くになって、ゆったりとした足取りで従者のみんなが帰ってきた。

 馬に夜通し走らせるのはなかなかに酷なことだろう。

 後でしっかりと労っておこう。

 馬車から降りてきたみんなを出迎える。


「おかえりなさい、みんな」


 そうして、四人は膝をついて、頭を下げた。

 そして、一人知らない男。


「只今戻りました。遅くなりまして申し訳ございません」


 アルフレッドが代表して口を開く。

 彼らの中でこういう時に口を開くのがアルフレッドという風に決まっているらしい。

 私が知らないうちに決まっていた。従者同士仲がいいのはいいことだ。


「少しも待ってないから大丈夫よ。それでその男は?」

「はい、私たちが帰ってくる際、追跡してきた輩の頭目だというものです」

「あらあら、きな臭い話になってきたわね。それで?」

「ええ、貴重な情報源になるかと思い、こうして連れてきた次第であります」


 そう言って、視線をその男に向けた。

 ボサボサな髪に、ぎらついた瞳、細い体をしているが、しっかりと体に筋肉は付いている。体に付いた傷からこういう仕事は長年やっていたのだろう。

 瞳が死んでいない。

 まだ諦めていないようで楽しみだ。

 さて、それにしても素直に話してくれるものかしらね。


「ねぇ、貴方、口を開くことを許可してあげるわ。それで貴方の、いえ、貴方たちの方がいいかしら? 貴方たち雇い主はいるの?」

「……」


 口を開かない相手。

 だんまりを決め込まれてしまった。

 それはそれで、口を割らせる楽しみが出来た。


「ええ、いいのよ、いいのよ。話したくないのであれば、そのまま黙っていても全然構わないのよ」


 あぁ、いけない。

 久しぶりにこういうことをするのに楽しくなってきてしまった。

 口元の笑みを抑えないといけないわね。

 こんな笑み領民たちが見たら、きっと怖がってしまうだろう。


「さて、どうやって口を割ってもらおうかしらね」


 そう言って、手を叩くと影がその男を取り押さえる。

 組み伏せられ、四肢は伸び、うつ伏せに寝かした。

 影を操る力、影に潜る力、影の中に物を収めておく力。

 どれも私が長い時をかけて、洗練することで扱えるようになった種族の力。

 戦いにも、生活にも役に立ち、こうして使い方を変えれば人も拘束出来てしまう。


「貴方、痛いのは嫌よね? それとも痛いことをされるのが好き?」

「こ、この化け物めっ!」


 影に拘束された男が暴れて逃げ出そうとするけど、しっかりと抑えられてちょっとやそっとの力では抜け出せない。


「ねぇ、知ってるかしら? 指ってニ十本もあるのよ。どうしてか教えてあげるわ」


 そう言いながら、男の前にしゃがみこんで、一本いかつい小指を摘まむと、そのまま指の可動域を超えて反対側まで曲げてしまった。


「あああああああああああああああああああああああああ!!」


 男の声が静かな夜に響き渡る。

 久しぶりに聞いた悲鳴だ。


「少し五月蠅いわね。もう村のみんなは寝静まっているのよ?」


 そう言って、次は薬指を持ち上げて、可動域ギリギリまで曲げたりを繰り返していつ曲げるのかを相手に見せつける。


「ええ、いい子ね。それじゃあ、そのまま誰が雇い主か囀ってくれないかしら?」

「っ!」


 我慢した。

 唇を噛んで我慢した。

 まだ遊べるってことね。


「ええ、ええ、いいわよ。我慢強い子は好きよ」


 そう言って、薬指を反対側に曲げた。

 曲げたつもりだったが、楽しくて力加減を失敗してしまって、ちぎってしまった。


「うがあああああああああああああ!この、この化け物どもっ!」

「あら、ごめんなさい。勢い余って千切っちゃったわ」


 憎しみが籠り、ランランと輝く瞳はまだ生を諦めていない。

 あぁ、ずっと人間に迷惑をかけないように生きてきたけど、こうして遊ぶのはどうして心躍るのかしらね。

 千切ってしまった指を放り捨てて、次の指に差し掛かる。

 ただ、指を折るのだけではバリエーションがないと思って、爪を剥ぎ取ってみた。

 男は血が滲みそうなほど、歯を食いしばって耐えていた。

 あぁ、なんて健気なのだろう。

 しかし、あんまり声を出されて、村人たちに不審がられるのもあまりよろしくはない。


「アルフレッド、目を閉じないようにさせてくれる?」

「はい、レティシアお嬢様」


 アルフレッドが男の顔を掴んで無理矢理上に向かせる。そして、瞼を指二本で押し上げた。


「大丈夫よ、何も怖くないわ。これで終わるのだから」


 男の瞳から光が消え去った。



 男だった肉の塊が転がっている。

 手や足は本来では曲がらない方向に折り曲げられていて、人とは思えないぐらいコンパクトサイズになってしまった。


「ポートリフィア領領主カーディル・リール・ダード、ねぇ」


 男が吐いた人物。

 夜の帳は破られて、日が昇り始めている。


「レティシアお嬢様、どのようにいたしましょうか」

「確かな証拠もないし、工事が遅れているだけだから、まだ何もしなくてもいいでしょう」

「本当にいいのかよ、お嬢」

「今はまだね」


 こちらから手を出したくはない。

 アユムがここに来たらそれこそ事だ。


「ポートリフィア領じゃなければ大丈夫そうなのよね?」

「ええ、さすがに別の領地にまでは手は回らないかと」

「なら、アユムに文句の手紙につけ足して書いておくわ。あと、それを……そうね、北の山の方に捨てておいてくれないかしら?」

「分かりました、レティシアお嬢様」


 そう言って、アルフレッドが肉の塊を運んでいくのを見て、私は影からいつもの机を出す。


「さて、どんな文にしようかしら」

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