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百八話 変わる関係

 ガレオンたちからの報告を聞いて頭を抱えそうになった。

 被害の大半はあの消滅させる力を持つ男が暴れた痕跡である。

 早く殺してしまえれば良かったのだが、あの男の神様からの授かりもの(ギフト)ははっきり言って強力過ぎた。

 ユリナの神様からの授かりもの(ギフト)も喰われるぐらいの力なのだから、あれだけで済んだのが行幸なぐらいだと思った方がいいかもしれない。

 しかし、派手に壊されたものだ。

 どれだけのお金がかかるのか。

 畑の被害は、帝国の進行ルートに合ったもので、踏み荒らされたものばかり。

 折角これからという時にやられたのはたまったものではない。

 あとは孤児院の方も多少荒らされてはいたが、そっちは軽微で掃除すれば使えるようになるということらしい。

 畑と家の修繕が当面の問題か。

 あとはあの消滅の力が使った男と私が通ってきた道も整備した方がいいかもしれない。

 結構穴を開けられたような気がするし。


「とりあえず、通信が行える神造兵装でもなんでもいいから、持っていないかどうか捕らえた団長さんに聞いてみましょう。ないなら、殺した方の団長たちの荷物の中にないかどうか探すことね」


 従者たちが頷いた。


「アンナは隣の領イアルラ領ね、この屋敷を立ててくれた職人さんたちのところへ行って修繕を頼んできてもらえるかしら?」

「はい、それでは」

「明日でいいわ。アルフレッドはポートリフィア領に行って、当面の食べるものを発注してきてもらえるかしら?」

「ええ、よろしいですが、ポートリフィア領よりもレザード様を頼るのがよろしいのでは?」

「レザードね、確かに確実にはそうかもしれないけど、あの子に頼むと高くつくのよね。今は他に使いたいから、ね」

「そうですか、なら、交渉のほどお任せください」


 アルフレッドが一礼するのに合わせて、頼んだわと言っておく。

 ガレオンやマリアはどうしようか。

 冬であれば、ウサギと鯨を狩ってきてほしいのだが、今は時期ではない。


「マリア、あとで聖女様にお手紙を書こうと思うから、王都まで届けてもらえるかしら?」

「もちろん、任せてください」

「さすがに小言の一つも言っておきたいし、この領で帝国の侵攻を抑えたのだから、勲章の一つでもいいからもらえないと割に合わないからね」


 お飾りの聖女様になってないならいいけど。

 そうなっているなら、あの子に言わず、直接乗り込んだ方が早いわけだが。


「ガレオンも付いて、王都の様子を探ってきて頂戴。いいかしら?」

「やり方は?」

「暴力以外なら何でもいいわよ。酒場で飲んでもいいし、問題にならないようなら好きにしたらいいわよ」

「良い条件だ。乗った」


 各自やることが決まったところで、解散という形になり、それぞれ執務室から出て行った。

 私はもう少しだけここで書類の整理をしておこうと思ったところで、ユリナが入ってきた。

 マサキのところにいると思っていたので、珍しいと思い、見てしまった。


「どうしたのかしら、何かあった?」

「何も、夕方になったから帰ってきただけ」


 そう言って、ソファに腰を下ろすと、力を抜いて、背もたれにもたれかかった。

 彼女の黒髪をじっくりと観察すると、うっすらと赤が混じっていることに気が付く。

 元々あったのならいいけど、私の影響であればそれはちょっと申し訳なく感じてしまう。

 私の視線に気が付いたのか、ユリナがこちらに視線を向けてきた。


「何かついてるの?」

「いいえ、あなたの髪の色を見ていたの」


 彼女は魔族になった。

 人の血が濃い魔族であり、魔族の血が混じった人間。

 どちらで見た方がいいのか分からない。

 ただ、言えるのはこの世界で唯一の血のつながりを持った人ということだろう。


「私のこと後悔してるでしょ。もし、こうなるのを知っていたら、私の舌や歯を治したりしなかった?」

「……そうね、もう少し慎重にはなっていたでしょうね」

「私はそれでも、治してもらうけどね」


 ユリナの顔に表情はない。

 どんな思いをしているのかそこから読み取れない。


「私は魔族になって良かったって思ってる。真咲にもジェシカにも置いていかれてたわけだし、これぐらい強くならないと野望も果たせないし」

「復讐かしら?」

「そうよ。まだ変えたわけじゃないし」


 問題を先送りするのは私の趣味ではない。

 出来るだけ迅速に解決するべき問題だ。

 そのために口を開く。


「ユリナ、あなたは私の血で魔族になったわ。私の眷属であり、スカーレット家の末席に身を置くことになるけど、それでいいわよね?」

「良くないって言ったら?」

「そうなの、って返すだけよ。ただ、私の血が入っているから、拒んだところで駄々をこねているだけに見られるだけね」

「選択肢はないわけだ」

「そうね……そうよ。けど、悪い話ばかりじゃないわ。私の家ものだと知れば、魔界では誰かに絡まれることもないし、人間界よりも豪華な暮らしができるわね」


 ユリナが口元に笑みを浮かべた。

 私も笑いかける。


「魔界に行く手段は?」

「私たちが全部潰して、封印したから無理ね」


 二人で笑い合った。

 人間界に魔族は五人だけしかいない。

 あとは私たち魔族に気が付かない人間ばかりだ。


「私の娘として迎えるから、王国がもしあなたたちの存在に気が付いて迎えを寄越してきても、公式に抗議が出来るわね。それに私たちがいない間はあなたに領主代理を頼めるわね」


 私の言葉に何か感じるものがあったのか、ユリナが考え込む。

 彼女が言葉を発するまで私は待つ。

 そして、ゆっくりと彼女が口を開いた。


「血が入ってなくても、一族に迎え入れたりすることはあるの?」

「そうねぇ……珍しい場合の話ね。私の一族ではなかったことだけど、他の家では確かあったはずだわ」


 彼女の考えていることが読めたような気がする。

 ユリナは自分優先に物事を考えているという体なのだが、私から見たら人のことを優先して物事を考えている。

 この時もきっと、そうなのだろう。

 自分のことは後回しにして、人のことで損得勘定を動かしているはずだ。


「ねぇ、レティシア、この世界って同性婚って認められてるの?」

「この大陸では珍しいわね。希少価値が大分高いわよ」


 過去にあったことがあるのは、この大陸ではなく耳長たちのいる大陸だった。

 里を追い出されて、山奥に二人仲良く暮らしているところに少しばかりお世話になったことがあるぐらいだ。


「マサキのことよね? 同情で結婚するの?」

「そんなことでするわけない。あのバカはもう諦めちゃってるし、変な虫があの子を傷つけるのなら私がもらう、それだけよ」


 彼女の顔を見つめるが、表情を隠してしまっている。

 マサキであれば、分かりやすいのに、ユリナの顔を読むのは難しい。


「何かついてるの?」

「いいえ、好きにしたらいいわ。もちろん、邪魔はしない。上手くいったら、領を上げて祝福しましょうか」

「恥ずかしいからいい」

「いいじゃない。それにこう暗いことがあったのだから、領のみんなへのストレスの発散として一席設けるつもりでいるから、そのついでよ。明るい話題は多いほど、いいの」


 それなら、とユリナは言ったが、続けて、上手くいく保証はないけど、と自信なさげに呟いた。


「マサキにその話はいつするの?」

「今日の夜」


 さすがに急すぎて、構えてしまう。

 ユリナは分からないが、マサキはそういう場やタイミングとか夢見てそうな気がするが、それを考慮しないというのはどういうことだ。

 マサキのことをよく知らない人が伝えるのであれば、何も思わなかった。

 けど、ユリナが言う事だ。

 ユリナとマサキの絆を知っているからこそ、訝しんでしまう。


「マサキ、どこか悪いのかしら?」

「いたって体は元気そのものよ」


 話したいことは済んだと言わんばかりにユリナは立ち上がった。

 そして、何も言わないで出て行こうとするその背中に声をかけると、立ち止まる。


「上手くいくことを願ってるわ、私の可愛い娘よ」

「上手くするわ、ご当主様」


 私に笑いかけて、ユリナは扉を出て行った。

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