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百六話 血の暴走

 アルフレッドに言われて、駆け付けた屋敷の前はもう戦闘は終わっていた。


「ガレオン、こちらはもう終わりましたか?」

「あぁ、終わったには終わったが、大事なもんがまだ残っている」


 首を傾げて、周りを見渡す。


「レティシア様は?」

「あそこで食事中だ」


 ガレオンが顎で示す先を見つめると、レティシア様が膝を付いて、両手に敵の死体を持ち、味わうように血を吸っていた。

 私が良く知る少女の姿ではなく、成人した女性の顔立ちになっていて、その血を飲む姿はどこか色気が漂う。

 もしかしたら、いつか言っていた吸血種が使えるという催眠効果のある何かを周囲に振り撒いているのかもしれない。


「お嬢は血を吸い過ぎた。つっても、毎日のように血を吸ってんなら問題はねぇんだけど、お嬢の場合は、久々だ。抑えが効かなくなってやがる。今は目の前の餌に夢中だからいいが、あれが終わればどう出るかさっぱり読めねぇ」

「それなら私が来た意味がありますね」

「魔王様と戦った腕を見せてくれるってか?」

「必要があれば」


 くくく、とガレオンが喉を鳴らして笑った。


「ま、今回はお預けだ。俺が相手させてもらうけどな」

「それでは、私は?」

「後ろからでも前からでもいいからお嬢の頭か心臓にその聖剣様をぶち込んでやれ」


 ガレオンのことだからサシの勝負に手を出すなとか言いそうだったが、言わないのが意外で驚いていた。


「割り込んでもいいと?」

「たりめぇだよ。ここじゃあ、満足に勝負できないからな。本気出したら、屋敷がぶっ飛んじまう」

「なるほど。合点がいきました」

「あと、向こうに行ったちっこいのも呼んで来い。あれでも勇者でその聖剣みたいなの扱えんだ。役に立つだろう」


 役に立つかどうか分からないが、連れてきた方がいいかもしれない。


「魔族にとっちゃあ、お前ら二人の武器は天敵だからな。お嬢の体がどれだけ硬かろうが、サクッといけるだろうよ」

「そう事が簡単に進めばいいのですが」

「なるようになるさ。ダメだったら、全員ここで仲良く死のうぜ」

「本気で戦わず、そうなってもいいのですか?」


 ガレオンなら、それは死んでも死にきれないのではないか。

 私からはそんな生き方をしているように見える。


「そうなったら、そうなったらだ。ま、今回は何とかなるだろうよ。なんせ、魔族の天敵の勇者様が二人もいるんだからな」

「あの子は勇者見習いですよ」


 レティシア様が周りを見回している。


「終わったようだな」

「ええ」

「この騒ぎもこれで終わりだ。とっととあのちっこいの呼んで来い」

「分かりました……ご武運を」

「戦いじゃあるまいし、いらねぇよ。そんなもの」


 ガレオンが気のないように手をひらひらと振って、早く行けと促す。

 だから、私はそれに従って、ジェシカのところに向かった。


 ▼


 血を飲めば飲むほど、乾きが酷くなる。

 殺した敵、ジェシカたちが殺した敵、全ての死体から血を飲んだような気がするがまだ足りない。

 まだまだ全然足りない。

 千年の渇きを潤すにはもっと多くの血が必要だ。

 鼻を鳴らせば、まだまだ血の匂いはしている。

 新鮮な血の匂いだ。

 よだれが出てしまった。

 はしたない。

 舌で涎を掬い、飲み込む。

 血、血、血、血。

 近くに一つ、遠くに三つ。

 どれからがいいか。

 やはり近くがいい。

 喉が渇いて乾いて仕方ないから。

 我慢が出来ない。

 近くに転がる男に手を伸ばそうとしたところで、ガレオンに手を掴まれた。


「お嬢、もうやめておけ」


 どうして邪魔をするんだろう。

 私の従者なのに。


「その手をどけなさい」

「残念だが、それは聞けねぇな」


 従者のくせにどうして、私の渇きを潤すのを邪魔するのか。

 従者、従者、そうだ、契約だ。

 従属の契約。

 あれがあるのにどうして邪魔をするのか。


「私の邪魔してもいいのかしら?」


 ガレオンが喉を鳴らして笑う。


「お嬢、俺とあんたの契約はあってないようなものだぜ? 俺とお嬢の契約は一緒にいる。たったそれだけだ。邪魔するなってのはもちろん入ってないからな」


 怒りがこみ上げてくる。

 今すぐに追加してやろうか。

 私はただ渇きを潤したいだけなのに。


「……そこを退きなさい」

「無理だな。お嬢を通すわけにはいかない」

「私に勝てると思ってるのかしら?」

「今のお嬢なら、俺の方が強いぜ?」


 ガレオンの手を振り払う。

 そして、向き合った。

 ニヤニヤと笑みを浮かべている。

 身長はさほど変わらない。

 狙うは魔石。

 爪を伸ばして、魔石を掴もうと両手を向ける。

 しかし、ガレオンの両手に阻まれてつかみ合いになってしまった。


「私に力比べで勝てるの?」

「今のお嬢なら、な」


 力は拮抗している。

 けど、私の武器は今や爪だけではない。

 翼を広げて、先端を爪のように尖らせて、ガレオンの体を襲わせた。

 ダンッとガレオンが地面を強く踏むと、地面から氷の柱が出現して、私の翼を貫き、凍らせていく。

 無理に動かそうとすれば、ただ破れて、威力を減衰させれるだけ。


「余裕がなさそうだぜ、お嬢」


 ニヤついた笑みを浮かべていた。

 私はつかみ合いになっている手に力を込めて、爪を伸ばせば、肉に食い込む。

 そのまま腕を粉砕してやろうと力を込める。

 力を込めるのだが、それ以上押し込めない。

 血が足りないせいだ。

 私の全力ならこんなことは絶対に起きないのに。


「わりぃな、お嬢」


 ガレオンが力を込めれば、指が関節とは逆方向に動き、手の肉にガレオンの手が食い込んでいく。

 骨は砕かれて、手首の方まで肉のまま捕まれる。

 けど、そんな怪我私にとってはわけもない。

 すぐに治る。


「すぐには治させねぇよ」


 掴んでいるガレオンの手事、凍っていく。

 さらに地面に縫い付けるように氷の柱が足を貫通して凍り出す。


「こんなもの足止めになると思ってるのかしら?」

「なるさ。それにもう俺の役目は果たしてる」


 どういう事だと言おうと口を開いたところで、背中から衝撃が襲った。

 何があったのかと顔をしてに向けると、自分の胸部に剣の切っ先が生えていた。

 血が上ってきて、吹き出す。

 どういうことだ。

 私の体は並の剣では貫けるはずがないのに。

 剣が引き抜かれて、今度は正確に心臓を貫かれた。

 分からない。

 頭が働かない。

 血が。

 大事な血が溢れてしまっている。

 これでは、私の渇きを潤すことなどできなくなってしまう。

 誰だ、邪魔をするのは。

 後ろだ。

 後ろにいるやつのせいだ。

 後ろを振り向けば、アンナがいた。


「あら、あなたも私の邪魔するの?」

「いいえ、レティシア様が愚行を犯す前に止めているのです」


 何が、だ。

 千年の渇きをやっと潤せるのだ。

 これ以上の物はないはずなのに、なぜ止めようとするのか。


「今手にかけようとしているのは、レティシア様、あなたの大事な領民の一人であり、守るものの一人なのです。それを手にかけてしまったら、あなたはきっとここにいられなくなる。誰も貴方を領主だと認めてくれなくなる。だから、私は、私たちはあなたたちを止めるのです」


 勇者みたいなのことを言う。

 剣が突き刺さっている場所の回復が遅い。

 この剣は普通じゃない。

 手に掴もうとしたが、掴んだ手のひらが焼けるように熱い。

 剣が突き刺さった胸部、そして、口からはとめどなく血が流れていく。

 傷が治らない。

 動こうにもガレオンの拘束がきつくて、振りほどくことが出来ない。

 血が。

 大事な血が。

 なんで、大事なのだろう。


「私は」


 なんで血を求めていたんだろう。

 渇きのせいだ。

 潤いが欲しかった。

 そうだったのだろうか。

 吸血種なのだ。

 血を吸うことは生命活動そのものだ。

 違う。

 私はそのために血を吸ったのではない。

 足元に血が溜まる。

 私は。

 私は渇きのため。

 違う。

 私はこの場所で、何かを。

 力を戻すために血を吸った。

 そうだ。

 私はここを守るため、力を取り戻すために血を吸ったのだ。

 喉が渇く。

 そんなのはこの千年ずっとだったではないか。

 血が流れて行けば、意識がクリアになっていく。


「アンナ」

「はい、レティシア様」


 もう必要はない。

 全身の力を抜く。


「ジェシカ、頭を」

「死にはしません。レティシア様の魔石は私の剣の下ですから」

「分かった」


 目を閉じると、次の瞬間には意識が途絶えた。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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