百五話 対決、女子会メンバー
ジェシカ嬢はもう前に進む準備は出来ている。
あとは私を見て迷っているユリナ嬢だけだ。
「先に進みなさい」
「けど……」
「レティシア男爵が道を切り開いてくれています。今を逃したら次の好機がいつ分からない。先に進みなさい」
傷口からの出血のせいで、まともに動けはしない。
しかし、この戦乙女たちを守れたのであれば、私の役目としては上々だろう。
「うん、ありがとうございます、モーリッツさん」
一礼して、ユリナ嬢は駆けていく。
「おい、おっさん。見せてみろ」
ガレオン殿が声をかけてきた。
「レティシア男爵と一緒に行ったのではないのですか?」
「お嬢は一人でいいってよ。俺は屋敷の守りだ。それより、おっさん、傷の具合見せてみろよ」
ちょうどの鎧の継ぎ目に剣が入り、切られてしまった。
その部分を上げて、見せる。
「俺ぁ、医者じゃねぇからよ。あとでちゃんと見てもらえ。とりあえずの応急処置だ」
「私、痛いのは苦手なので優しくしてもらいたいのですが」
「良薬は苦いっていうからな、応急処置ってのは痛みを伴うものだぜ、おっさん」
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血を吸った吸血鬼の動きは、私が考えているよりも恐ろしい動きをしていた。
私がユリナを守りながら進んでいるけど、吸血鬼は制限なく動いているせいか、無茶苦茶だ。
首を捻ったと思ったら、鎖帷子越しにも噛みついて、吸血しながら次の目標にどんどん向かっていく。
それに吸血するたびに力が増しているのか、どんどんスピードが上がっているように見える。
羽もどんどん巨大化していっている。
先端は鋭利に尖り、囲って来ようとする敵兵の鎧を貫通して突き刺さり、そこからも血を吸いだしている。
先にこいつを始末した方がいいのではないか。
思わず、そう考えてしまうのだが、早くマサキの下に駆け付けるならこいつの力は不可欠だ。
しかし、暴れっぷりがやはり化け物だ。
「ユリナ、もう大丈夫なのか?」
「……ええ」
ユリナが沈んだ顔で答えたが、本当に大丈夫なのか。
戦いとは技術や力も大事なのだが、精神力も大事なのだ。
ここ一番、死を覚悟しないといけない場面などは精神力が弱ければあっさりとやられてしまう。
「体も最初の比べて随分軽くなってる。もっと急ぎましょう」
ユリナが私の前に出る。
大丈夫なのかと思ってると、敵を跳び越すほどの跳躍をして、肩に手を置いて勢いをつけて飛んでいく。
その敵が振り向こうとしてところを吸血鬼の羽が突き刺さり、たちまち干乾びる。
「あら、ユリナに置いていかれたの? 勇者の足も大したことないわね」
いつの間にか、私よりも見た目大人になったレティシアが怪しい笑みを浮かべて、霧のように消え去った。
あの吸血鬼はこちらを怒らせるのは本当に上手だ。
私の足はこんなものではない。
ただ、ユリナに合わせていたにすぎない。
本気で駆ける。
ユリナに一瞬で追いつき、追い越す。
「もう少しだ」
「分かってる!」
ユリナもまた速度を上げる。
それはもう人の運動能力をはるかに超えた動きなのだが、本人は分かっているのだろうか。
そうして、敵の集団を二人で飛び越えていくと、鎖を操り血を流しているマサキがいた。
「真咲!」
ユリナがマサキの前に立つ。
マサキの見た目は少し見ない間に随分変わっていた。
左目は虹色に光、前髪も一房同じように虹色に光っていた。
「あれ、ゆりな、どうしたの?」
「戦いにきた。違う、私の神様からの授かりもので終わらせに来た」
一度口を閉じたあと、開く。
「目の前の男の首を刎ね飛ばせ」
ユリナが命令すると、確かに男の首は一瞬霧飛ばされたように見えた。
しかし、次の瞬間には元に戻っていた。
どういうことだ。
「さっきからそれなの。他にも神造兵装っての持ってるらしくて!」
だから、マサキは苦戦しているのか。
敵に攻撃が効かない。
いや、効いてるはずなんだ。
ただ、致命傷を与えることが出来ていない。
「はっ! 雑魚が三匹に増えたな!」
「雑魚ってんならさっさとアタシを倒しなさいよ!」
マサキが鎖を操り、四方から攻める。
敵が鎖を弾いたところで背中の影から尖った氷が出現して、鎧の隙間に突き刺さる。
しかし、次の時にはもう氷から抜け出していて動いていた。
「マサキ、私も加勢する。攻撃を続けて」
マサキが地面すれすれを二本の鎖を這わせていき、もう二本は上から襲うように降下していく。
私はその上から襲う鎖に飛び乗って、さらに空中に上がる。
鎖の先端は氷や炎、土と言ったものが槍の穂先みたいになっていて、刺し殺すために殺意を持って向かっていく。
相手に全て防がれてしまうが、斧を振り切ってしまう。
今。
レーデヴァインを振りかぶり、投げると相手に当たり、鎧を易々と貫通して突き刺さる。
やったと確実な手ごたえはあった。
しかし、すぐにレーデヴァインから抜き出して動き出した。
どういうことだ。
どんな力を隠し持っているというのか。
「ジェシカ、近接で対応して! 真咲、ジェシカの援護!」
ユリナが叫ぶような声が届く。
もう手元にはレーデヴァインがある。
そのまま舞った土に足を置いて地面に向けて走り、敵の真上から槍を突き立てる。
肩に突き刺さって、肉を破って振り抜く。
地面に着地しようとするところ、敵の斧が迫っていた。
「なっ!」
私の影から生えた土の棘が相手の腹に刺さって動きが止まるが、また次の瞬間には動き出す。
敵の攻撃を見切るのはたやすい。
しかし、いくら刺したり裂いたりしたところで、次の瞬間に動き出すのは反応しずらい。
よくマサキは私の動きを見て援護してくれていると思う。
鎖を使って、足りなければ多分、精霊を用いて土の棘を使ったり、影から鎖を伸ばしたりと器用に使いこなしていた。
前に戦った時に比べて、遥かに出来るようになっている。
「ゆりな!」
「分かってる! もうあいつの弱点は理解しているから、ジェシカ離れなさい!」
ユリナに言われて、下がった。
「真咲、私があいつを殺す前に先に一回殺しておきなさい」
「え、どういう……?」
「いいから」
「だったら、私も一回殺しておいてやる」
レーデヴァインを持ち上げて、構える。
「行くよ」
「うん!」
敵の影から土の棘が生えるが、もう何度もやっていることで相手にも見切られて避けれられてしまうが問題ない。
「マサキ、続けて!」
私は思いっきり、レーデヴァインを投げた。
吸い込まれるように頭に刺さった。
そして、マサキの棘が敵の体を貫通した瞬間、
「あの男の首を捩じ切り続けろ!」
そうして、男の首が捩じ切られる。
けど、これでは先程の繰り返しではないのかと思っていれば、男はマサキの棘に貫通したところで、再度ユリナの力によって捩じ切られる。
「どんな神造兵装を使っているのか知らないけど、一回でダメなら何十回も殺すだけよ」
ユリナがマサキの方を向いた。
「あんたが決着つけたいんでしょ?」
「うん、ありがとう、ゆりな」
そうして、マサキの目がいっそう輝く。
敵の四肢に鎖が巻き付いて、捩じ切られた。
ユリナの言葉通り、敵の首が捩じ切られて飛ぶ。
「これで終わりよ」
串刺しになっていた相手の体に新たな四肢が出てくるように棘が飛び出してきた。
「精霊さんたちもこれで救えられた……」
マサキが気を失うようにして倒れた。
謝辞
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