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百四話 半魔半人

 屋敷の前には多くの人間が集まっていた。

 あぁ、どれも美味しい餌たちだ。

 人間にしては強者な方に入るだろう気配は少しばかり感じるが、あと残りはただの雑魚。

 私の舌の上。

 はしたない涎が出そうになるのを堪える。


「あら、かかってこないの? 貴方たちの敵はここにいるわよ? ここの屋敷の主人である、この私が」


 手を広げて、相手が来るのを待つがにじり寄るだけで切りかかってくる気配はない。

 よく見れば、味方であるジェシカやユリナまで固まっている。

 ユリナは、なんだか調子が悪そうだ。

 それにちょっとだけ同族の匂いがするのはなぜだろうか。

 一歩踏み込めば、一人の騎士の下に辿り着く。


「鎧が邪魔ね」


 頭と肩を掴んで思いっきり引けば、首と胴が引き離される。

 そうして、血が噴き出るが、しっかりと飲んであげる。

 残してしまうなんてもったいない。

 あぁ、けど、一人一人飲んでいるのも効率は良くないわね。

 それでも、せっかく吸血する機会だから一人一人味わって飲みたいという気持ちも沸く。

 どうしたらいいかしらというのは贅沢な悩みだろう。

 とりあえず、吸血は後でいいから、血を流さないように殺してしまうのがいいかもしれない。

 それだ、と。

 私にしてはとても素敵なアイデアだと思った。

 とりあえず、全部殺してそれからゆっくり味わえばいい。

 思わず、声に出して笑ってしまった。

 そこからの行動は早い。

 首を折るぐらいだったら大した力を必要としない。

 一人はヘルムを手で挟んでそのまま首を一回転させる。

 一人はヘルムを押し込んでヘルム事頭を回してあげた。

 次々に屠っていきながら、前に進む。

 敵が恐れてきたのか徐々に距離を取り始めてきた。

 彼らの目には私は化け物に見えるだろう。

 それで正しい。

 私は、私たちは化け物だから。


「レティシアよね……?」


 ユリナが瞳を揺らしてこちらを見つめてきていた。

 もうそんなところまで進んできてしまっていたのか。

 この体で動くのなんて、私の長い長い記憶の中でもいつ振りだったか分からないために加減が全く効かない。

 最後に戦ったのはガレオンだったかしら。

 もうあれから私はずっと血を吸っていなかったわけだし。


「どうしたのかしら、ユリナ。体調が悪そうに見えるわね」


 ユリナは剣を杖代わりにして何とか立ち上がっている。

 そんなユリナに目線を合わせるように腰をかがめる。

 彼女の目は赤く光っている。

 元々の瞳の色は確か、黒とかだったはずだから変わってしまっている。

 それに、と唇を無理やりであるが、上げてみれば犬歯が牙に変わりつつある。


「何、するのよ」

「あなたの体を見てあげてたのよ。ガレオン、向かってくる奴らがいたら適当に処理しておいてくれない?」

「はぁ、分かったよ」


 気が乗らないのか気が抜けた返事が来た。

 それはいつものことなので、何も言わずにユリナに思考を戻す。

 彼女の状態は分かった。


「おめでとう、ユリナ。あなた、私の眷属になりつつあるわよ」

「は?」


 全く理解出来てないような声を上げているけど、顔にはまさかというのが書いてあるような表情を浮かべている。

 そう、そのまさかだ。


「あなたの中にある私の血が、私が吸血で力を増した影響で活発化して、あなたを作り替えちゃってるみたい」

「な、なんでよ」


 何でってもうきっかけはあった。

 ジェシカがここを訪れた時のことだ。


「ジェシカが言ってたわよね? 魔族との子かって、あの時私は混じってて、いつかは消えるって言ったけど、まだ私の血が完全に薄まって消えてなかったみたいね」


 自分の血を人に与えて眷属にしたことがないため、そう言う事が起きるとは露とも知らなかった。

 実験することではないが、これはこれで新たな発見だ。

 活かす日はないが、覚えておいて損はない。


「じゃあ、これも全部……」

「ええ、人間から吸血種への変化の途中だけど、私の血が全く足りてないから変化がどれもこれも中途半端だから苦しんでるみたいね」


 まだ人の血が濃すぎる。

 そのせいで変化に体が悲鳴を上げている。

 普通なら魔族の回復力が上回るはずだ。

 それほど魔族の回復力というのは人間の回復力と大きく異なる。

 彼女の体からはまだ魔石が出来ている様子もなし。


「ユリナ、あなた魔族になりたい? それともこのまま人の枠にいたいかしら?」

「私は……人でありたい。真咲と精一杯生きていたいから」


 ユリナの言葉に笑みを浮かべてしまう。

 彼女たち人の生は私たちにとっては一瞬の輝きに過ぎない。

 その輝きを生み出すことは私たちには出来そうもない。


「そう、それならこうしてあげる」


 私は口を開いて、爪で口内を傷つける。

 そうして、ユリナの頬を掴むと、そのまま口を押し当てて、舌で驚いて半開きの口を開いてしまう。


「ん……! んん……っ!」


 ユリナが何か抗議しているみたいだけど、今は受け付けない。

 口の中にたまっている血をユリナの口の中に流し込んでいく。

 量も大したことないので、十秒もかからない。

 彼女から口を離して、彼女の口を手で塞いでしまう。

 吐き出されたら、意味がない。

 だから、彼女が飲み込むのを待とうとするが、なかなか飲み込みそうにない。


「早く呑み込まないといつまでもそのままよ?」


 そういうとギュッと強く目を閉じる。

 覚悟が決まったようだ。

 ユリナの喉が鳴った。

 その様子を見て、遠くを見る。

 人の気配よりも精霊の気配が強く感じる。

 何が起きているのか来たばかりで状況がいまいちわからない。


「ジェシカ、どうしたのかしら? こんなところで油を売っていていいのかしら?」

「うるさい。私の友達の様子がおかしいんだ。心配するぐらい普通だろ」


 ジェシカの口から友達。

 そう、友達という言葉が聞けるなんて思ってもない。

 声を出して笑い、ひとしきり笑った後、向き直る。


「大丈夫よ、私が何とかしてあげるから。あなたはもう一人のお友達の方に集中してあげなさい」

「信じていいんだな?」

「私が期待を裏切ったことがあるかしら?」


 そう聞けば、鼻を鳴らして、ジェシカは前へと進んでいく。

 ユリナの方は息を荒くして、私の方を睨んできていた。


「どうかしら、ユリナ」

「最悪の気分」


 さっきよりは熱病に浮かされた患者のようなふらふらとしたところは消えている。

 瞳は赤と黒が混じり、深みを増していた。


「レティシア、あんたの血をさらに飲んだら、私魔族になるんじゃないの? 私は人として死にたいって言ったよね?」

「ええ、望み通りにはしたつもりよ」


 もうしっかりと立てるみたいだ。

 杖代わりにしていた剣をしっかりと構えている。


「魔石の生成された気配もなし。多少、人に比べて傷とか負った時に回復力が強かったり、普通の人に比べて長生きしたりするぐらいでまだ人の範疇よ」

「そのどれだけ人よりも良くなってるかの加減によるんだけど……あとさ、もしかして眷属なら私にもその血を吸うのってあったりするの……?」

「あっても私よりも下、もっと言えば、混血の者たちにも劣るほどよ。マサキの汗でもなめさせてもらえば足りるのではないかしら?」


 ふふと笑いかけると、ユリナは何とも言えない表情を浮かべている。

 恥ずかしそうに赤くしているようにも、怒っているようにも見えた。


「それならいい。まだ戦いは終わってない」

「もう終わりよ」


 ユリナと一緒に前に出る。


「ガレオン、もういいわ。あとは私が始末をつける」

「あいよ」


 素直にガレオンが言うことを聞いて下がる。


「私が露払いをしてあげるわ。さっさとマサキのところに行きなさい」


 ユリナが信じていいのかという風に見つめてくる。

 信用されていない。

 とりあえず、ここにユリナがいたら邪魔になる。

 私がもう吸血衝動を抑えているのも限界に近い。

 だから、早くいくように手を動かす。

 それを見たユリナがかけていくのを確認してから、相手の方へ向く。

 相手もユリナを見ているが、翼を大きく広げれば、その音で視線が集中するのが分かった。


「貴方たちの相手は私が直々にしてあげるわ。ええ、誉に思いなさい。元魔王軍の人柱が一人に屠ってもらえることをね」


 食事の時間だ。

 思わず笑みが深くなってしまった。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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