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百話 屋敷前の攻防

 アルフレッドたちがレティシア様の下に駆けて行き、あまり酷い折り方はしてないはずだが、一応ということもある。

 まずは私がさせた怪我について把握しようとしたところで、勝手にレーデヴァインが影から出てきた。


「ジェシカの下に行きますか」


 過保護な子だ。

 死なれては困るが、死に近い環境の方が力が付くと思うが、どうやら私とは意見が合わないらしい。

 ジェシカは自分が勇者の武器たちに守られていることに気が付いていない。

 あの子は自分が勇者の武器を十全に扱えていると思っているが、彼女の足りないものを補おうと頑張ってくれているのに。

 今もこうして彼女のために過保護な武器が飛んでいこうとしている。


「こうした方が早いですよ」


 レーデヴァインを担ぐようにして持つ。

 そして、そのまま軽く助走を付けて、魔族の膂力で投擲する。

 勢いよく投げればすぐに見えなくなった。


「さて、こっちは始めましょうか」


 そうして騎士たちの応急処置をしているとアルフレッドが戻ってきた。


 ▼


 最初は暇だった屋敷の警護だった。

 屋敷の前に立ち、柵を背にして村の方を眺める。

 モーリッツと共にどこか長閑な時間を過ごしていたが、村の方で大きな音がし始めると、呼んでいない訪問者たちが訪れた。


「お前たち、誰だ」


 帝国の者たちだろうが、旗も紋章も掲げられてない。

 どういうことだ。

 侵略に来たのなら、堂々と帝国の旗を掲げてくればいいのに。


「村に誰一人いないが、知らないか?」

「知っていたとしても、何者か答えないお前たちに私が教えると思うか?」

「そうか」


 敵の首魁らしき男が手を上げた。

 大勢の敵が一斉にこちらに銃口を向けられた。


「ジェシカ嬢、後ろに」


 鎧を着たモーリッツが私の前に出て、盾を構える。


「貴様らを殺した後にゆっくりと探すさ」


 ゆっくりか。

 随分悠長なことを考えていると思うと、笑ってしまった。


「何がおかしい」

「ここの死神の足はお前たちが思ってるよりも遥かに速いぞ」


 男の手が下ろされると同時に、モーリッツの後ろに回った。

 銃口が火を噴く音が響く。

 一斉に弾が飛んでくるが、モーリッツに阻まれて後ろまで飛んでこない。


「大丈夫か?」


 モーリッツに聞いてみるが、ははっとモーリッツは笑った。


「まだまだこれならいくらでも」


 モーリッツの影から覗くと、最初は横に並んでいた敵たちに動きが出る。

 こちらを包囲するような動きを見せてきていた。

 まだ我慢だ。

 今はまだ出て行ったところで蜂の巣にされるだけだ。


「ジェシカ嬢、もし敵が来た場合は」

「分かってる。そっちは任せて」


 銃弾は弾かれる。

 しかし、無傷というわけでもない。

 屋敷のガラスは割れて、壁には銃弾のせいで複数の穴が開いてしまっている。

 守れてと言われていた屋敷がボロボロに傷ついていくのを見るのは歯がゆさを感じてならない。

 包囲が狭まる。

 相手としても銃弾は有限。

 効果が薄いとなればどうなるか、腰に携えている剣を抜くことになるだろう。

 こうして、ただ敵の銃弾を浴びている方が時間稼ぎが出来ていい。

 敵が許してくれると思わないが。

 腰に手を回す。

 ホルダーに収納してある大口径の銃のハンマーを上げる。

 乱戦になったら撃つ暇もないだろうから。


「そろそろでしょうか」

「あぁ、完全に包囲されてる」


 まだ銃口を向けられているが、いつ剣を抜いてもおかしくない。

 壊れかけているが一応柵を背にしているのと鉄の鎧並みの防具をもらっているから耐えられるが、身に着けていない頭なんか一撃もらったら死ぬ。

 横まで来ている敵の騎士を見る。

 モーリッツに守られていない真横。

 銃口が火を噴けば、私に致命的な一撃を与える可能性は高い。

 だから、よく観察する。

 引き金に指が添えられる。

 持っている槍を片手で強く握る。

 真後ろの敵の騎士とは微妙に射線がズレている。

 そんな間抜けは存在しないか。

 呼吸を合わせる。

 指が引き金を押した瞬間に槍を地面に突き刺して、体を宙に浮かせる。

 そのまま空中で一回する途中で槍から手を放して、空に向かって銃を両手で構える。

 そして、引き金を引く。

 空で大きな破裂音、それに赤色の煙が風に流された。


「いたっ」


 背中から落ちて、思いっきり打った。


「あとは誰が来てくれるか」

「女神様の加護がある。私たちは今日はまだ死なないはずだ」


 そう言って地面に刺した槍を抜いて構える。


「お前たち、敵はたった二人だぞ。いつまで遊んでやがる」


 敵の首魁がそういうと、敵も剣を抜いて包囲を縮められた。

 もうこの距離で銃を撃てば、私に当たれば良しだが、モーリッツの鎧で防がれた場合、跳ねた弾が味方に飛んでいきかねない。


「離れないように」

「分かってる」

「人数で磨り潰せ」


 敵の首魁が合図を出せば、一斉に襲ってきた。

 モーリッツに背中を預けた状態で敵の方を向く。

 どこを見ても敵だ。

 どこを攻撃しても当たる。

 槍を手首と指を使って回していく。

 突進してきた敵たちからの前方左右からほぼ同時の攻撃。

 三方向から振り下ろされる刃を受けては、次で死ぬ。

 だから、前へ出る。

 そして、正面の男に体を思いっきり寄せて、ヘルムのバイザーを槍の石突でかち上げる。

 私の動きが意外だったのか、それとも味方に寄られたせいなのか攻撃が出来ずに左右の二人の動きが数瞬止まる。

 けど、それで十分だ。

 バイザーが開けば、槍を回して、顔面を穂先が捉えた。

 絶命し、倒れ込む前に次の行動へ移る。

 同じ手は使えない。

 それに死体を超えて次が来る。

 左右の二人の振りかぶる速度がズレた。

 左から来る刃を避けたあと、聞くかどうか分からないがガントレットに石突を思いっきりぶつける。

 右の刃は遠いが刃先がこちらに当たり、頬が切れた。

 正面、追加で現れた敵は遠いから先手を打って槍を横に薙ぐ軌道で叩きつける。

 鎧を着こんだ相手に正面から切りに行っても時間はかかるし、弾かれた場合私の方がかなりの不利を背負うことになる。

 だから、狙うはその武器を持つ手。

 少し痺れさせることが出来ればよく、武器を落とすのであれば上々。

 モーリッツの背中に私は背を合わせる。

 敵からの攻撃は激しくなる。

 二人で場所を入れ代わり立ち代わりしてみているが、お構いなしに刃は振り下ろされる。

 もらった防具である革鎧は革が破られてしまい、革が剥げてしまっている部分も出てきた。そのせいで、受けてから反撃に出るような無茶苦茶な使い方をすることが出来ない。

 二人とも傷は増えた。

 血も流れている。


「まだいけそう?」

「ええ、まだ」


 頬の傷はまだ血が出ている。

 モーリッツの鎧も傷が増えて、血が滲んできている。

 敵の数は全く減らない。

 こちらのことなどお構いなしで敵は突っ込んでくる。

 このまま行くと本気で磨り潰されてしまう。

 覚悟を決めたその時だった。


「成功っぽい!」


 場違いな暢気な声があたりに響いた。

 マサキとユリナが突然、包囲の外側に現れて、その場の空気が一瞬止まった。

 革鎧を着た二人の女性が突然戦場に湧いたのだ。

 戸惑いはあるだろう。

 そして、判断が早かったのはユリナだった。


「マサキ! 守ってあげて」

「分かった!」


 どちらを攻撃しようかと敵に迷いがある。

 しかし、こちらを攻撃しようとしてきた相手は七色に光る盾によって攻撃が弾かれてしまっていた。


「目の前の敵だけを吹き飛ばせ!」


 ユリナの叫びと共に、敵が吹き飛ぶ。

 包囲を抜け出して、ユリナたちと合流しようとしたところで、空から一本の槍が降ってきた。


「レーデヴァイン!」


 地面に突き刺さった槍を引き抜けば、最初の時のように私の手によく馴染む握り。

 甲高い金属音が周りに響いたことで理解した。

 あの女、私の勇者の防具を屋敷に置いていった。


「どうしたのだ、ジェシカ嬢」

「レーデヴァインが力を貸してくれるって、防具も屋敷にある」

「時間稼ぎなら任せてよ!」


 ユリナは咳込んでいたが早く行けと目だけで訴えてきている。


「三分頂戴」


 勇者の防具が置いてある部屋まで行ければいい。

 着る必要はない。

 今は力貸してくれている。

 防具が自然と纏ってくれるから。


「一人なら無理でしょうが、この三人でなら可能でしょう、お早めに」


 モーリッツに言われて、私は割れた窓から屋敷の中に転がり込んだ。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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