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十話 勉強会の約束

「貴方、私の下で勉強しない?」


 そう言われた相手はポカンとした顔を浮かべて私を見つめていた。

 いつまでもその顔を見ていてもいいのだけど、人間の時間というのは私たちと違って天と地ほど違う。

 永遠に近い時間を生きる私たちに比べて、彼らはその刹那しか生きられない。

 だから、その人間たちの輝きはすごいのだけど。


「貴方だけじゃないわ。子供たちも。それに、そこの貴方」


 私たちが話しているところを背を丸くして歩き去ろうとしている女性に声をかけた。

 肩だけじゃなくて、全身をはねさせる大きな動きに口元が緩む。


「え、わ、私、ですか……?」

「ええ、貴方よ」


 そう微笑むと、何故か怖がられた。

 心外。

 あなたたちには、親愛しかないのだけど。


「どうして、私たちにそんな事を……?」

「どうしてって、私が貴方たちの領主になったからでしょ? 生きていくには知恵がいるわ。そして、知恵は知識があればもっと素晴らしい生き方が出来ると私は考えてる。だから、貴方たちにいい生き方が出来るように教育をしてあげると私は言ってあげてるのよ」


 ガレオンには一応教えてあげてるから、簡単な計算とか読み書き程度だって出来る。

 アンナはやる気合って、色々と教えたり今でも聞いてくることもあるから、自分から吸収していったりしている、可愛らしいところもある。

 マリアは元々の知識が分野限定であるが深いので、問題なしで、アルフレッドは言わずもがな。


「貴方たち、名前は?」

「……サリー・スタットです」

「あ、わ、私は、ソーニャ・トロン、です」


 気の強そうなサリーに反対におどおどしているソーニャ。

 正確は顔に現われるというが、サリーの目はちょっと吊り上がり気味で人によっては睨まれているように思いそう。逆にソーニャの方は垂れた目に不安そうにずっと眉まで下がっている。

 サリーは茶色の髪を短く切り揃えられていて、背もあるし、体もしっかりとしていて健康的に見える。

 ソーニャは栗色の長い髪を一つに束ねている。動き方がサリーに比べて、守ってくれないと生きられないという感じがするけど、こういう村で生きてきた村娘らしく手にはマメを作り、皮膚も固くしていた。

 外見と印象だけでは分からないものだ。


「お金、そう。お金がかかるのではないですか、領主様」


 素直に首を傾げる。


「どうして、お金がかかるのかしら?」

「は、いや、それは、そう言うものではないですか……?」

「は、はい。私たちのような身分の人が勉強なんて……仕事もありますし……その、教育を受けるのはお金がある人しか出来ないもので……」

「そうです。教育を受けられるのは貴族たちだけ。きっと高額なお金を払っているんですよ。私達にはそんなお金はありません」


 あぁ、確か人間社会というのはそう言うものだった。

 すっかり忘れていたわ。

 教育を受けるのにはお金がかかる。しかし、今手持ちがない。

 そうなれば、どこで払うのか。


「お金は払ってもらうわよ。ただ、今すぐというわけではないけど」

「私たちに借金でもしろってことですか?」


 サリーの目に力が少し入ると、目付きが一気に変わった。


「そうじゃないわ。私たちが貴方たちや、その子供にしっかりと勉強を教えるわ。それでこの村で育てた農作物を商人に売るの。ええ、勉強の際に取引のあれこれも教えてあげるわ。利益が入れば、その一部を税という形で徴収する」


 二人が使えないことも大いにあるため、ギャンブル性のある先行投資でもある。だけど、将来的にそれが実を結んで村に潤いをもたらすのであれば良いことじゃない。

 ただ農作業や家のことだけで、一生を過ごしてもいい。だけど、せっかくだから少しばかり違う事を学んで、幸せを広げてみるのもいいのでは。

 子供たちならもっと色々な可能性が広げられるわけだし。

 それに甘いことばかり言っているわけではない。

 税の徴収をしないと村の運営なんて出来ない。

 これがうまくいっても、上手くいかなくても、税の徴収はするんだけど。


「それでどうするのかしら?」


 返事を催促する。

 彼らが首を横に振ってもそれはそれでいい。

 本命は子供たちであるわけだし、彼女たちはそのついでに一緒に教えて上げれるなら良いかな程度だったし。


「……その条件でいいなら」


 思わず笑みを浮かべてしまいそうになるのを堪えた。


「ソーニャはどうかしら?」

「わ、私は……」


 そう言って、サリーの方と私の間を視線が行き来する。


「お、お願いしますっ」


 勢いをつけて頭を下げられた。

 いい生徒になりそうだ。


「ええ、貴方たちがちゃんと儲けられるように、私が知っていることを教えてあげるわ」


 そう言い切って見せたはいいが、まだ何も準備をしていない。

 家だってまだまだだ。

 だけど、家がなければ勉強できないわけではない。


「そうね、明日、いえ、明後日ね。村の子供たちを連れて、同じ日が高く上った頃、ここに集まっていなさいね」


 二人に告げた。

 領主らしさはないけど、それでも本当に少しだけ動き出しそうな運命を感じた。


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