第4話「冷たい心」
『臨時ニュースです──』
朝食を抜こうとするウィッチ2のガンナーを連れて食堂にいたときだ。
優希は緊急速報のアラームを聞いた。
『──内閣総理大臣、浜中進次郎首相より先の国境紛争に関して政府声明が発表されました』
大したものではないだろう、と真守優希は味噌汁を飲む。味が濃かった。
『陸上自衛隊の関与していない、外人部隊の独断行動がこたびの危機を招いたものと有識者や数々の報告から判断いたしました』
優希の口が止まり、目だけで、ギョロリとテレビに視線が動いた。
「大変なことになるかもな」
ニュースは続いて、
『つきましては、外人部隊の活動を無期限停止、武装解除をすること、北陽本への越境攻撃の疑いある隊員の逮捕と、南北の融和に最大限の外交的努力をすることを決定いたしました。これは、国民による国家として当然の判断であると、必ず受け入れられると信じております。決して、過去のような歴史は繰り返しません』
いつのまにか、キーラが隣にいた。
「ニュースを見るだけ気分が悪くなる。…………うちの基地に、陸自の将校が来るらしい。陸自は名ばかりだ。警察OBか、背広組のシビリアンだよ」
どっか、と、座ったキーラは、
「嫌味な連中だ。俺らの手綱と首輪を掛けるだけでなく、躾けてやろうてくだをまいてる」
「暴発しないでくださいよ」
「訓練中にうっかり足くらい踏むかもな」
「生贄に選ばれたことに、腹をたてるのは理解できます。不快ですしね」
「だよな。国境を越えてきた敵を撃破すれば、まるで国賊のような扱い! たまらないよ」
「外人部隊をやめるなら今ですよ」
キーラは「やめる」とは言わなかった。
「東北国境線にいるのは外人部隊のT-1だけです。まあ、自衛隊の戦死者を出さない為に外人部隊を編成したのだからそうなのですが、今回の紛争ではどういうわけか自衛隊にも戦死者が出てしまった以上、右から左に流すことはできないでしょう」
「外人部隊の大半だって陽本人なのに?」
「国籍の上で陽本人であることと、陽本民族であることは深い溝があるのですよ。キーラは陽本人ではありますけど、ソルバル大陸を発見した北欧の民族だと国籍を移しただけで名乗ることに違和感ないですか?」
「あー」とキーラは納得した。
「陽本は陽本民族の国であって、陽本人の国とは、感情的に認識できない。グルーバル社会、外人の存在を認めてもそれは少数派だからで、多数派になれば生意気なエイリアンくらいには嫌います。誰も言わないですけど」
「外人部隊て、どの立ち位置?」
「派遣社員は首切りで調整が簡単ですよね? でも陽本民族だから葛藤もあります。外人部隊は陽本民族ではないし、容赦も、死さえも大した呵責はありません」
「兵隊は死ぬのが仕事、と」
「正確には死ぬことも含めてですが……学生は、無人兵器導入に反対する理由が“それ”ですね」
食堂にいる外人部隊が、テレビ出演の首相に罵声をかけていた。ちょっと汚い言葉だ。
何が、と優希が耳を傾ける前に、
「自衛隊を全国から抽出して、東北国境線の外人部隊の監視に当てる、だと?」
キーラが疑うように言った。
テレビの首相は淡々と、陽本各地の部隊を告げていた。東北地方の外人部隊を監視するためにだ。
──警察とは違う。
「少し遅いか?」
「充分に速い。どこの駐屯地からだろ」
「マジかよ。九州方面隊のLAVだ。ソルバル製装備のピクトべスク連邦占領軍指揮下の装輪車……ややこしいな。高速道路を自走してきたのか? ご苦労なこった」
「チーフテン……複合装甲付きだな。パットンは爆発反応装甲……主砲が太い、ガンランチャーかな?。涙も鼻水も出る戦車だ。よくもまあ、WTが投入される山岳にあげたなぁ」
「いるぞ。空輸されてきたWTが。ソルバル占領軍のT-2だ。新しいな。低圧砲装備」
「戦車も射抜けるな」
「30mmも砲塔を踏めば抜ける」
テレビゲームをしながら、
「大所帯、ですね」
優希は、賑やかな外の様を聞きながら言った。窓硝子を揺らすのは地上車両だけでなく、大型のヘリコプターが近くを飛んでいるからだ。
少し、報道関係も混じっていた。
「敗戦から何年も、都市部への海外資本の引き出しと発展を重視して、ほとんど見捨てた山岳地帯に注目は驚きです」
「棘がありますね、ウィッチ1」
「連隊長を予防拘束した新しいシビリアン、最初に会ったのが私ですよ? 開口1番、お前たちは国家の寄生虫であるとか部下の前で言われましたからね。頭を背骨ごと引き抜きたいと思いましたよ」
「そうか。ノエル1はWTで踏み潰すと言っていました。カンカンでしたよ」
「シビリアンは兵隊を馬鹿にするクセはどこからあるんでしょうね」
「国民共産党か国民社会党でしょ」
「逆に尊敬するパワーです」
グーラ1は笑った。
「これが多様性溢れた社会ですか」
「アリス1はどうしました?」と優希が聞けば、
「部屋でサンドバッグ殴ってます。お上品ですから。蹴りも入れているかもしれない。シビリアンから個人的なお誘いを受けたんですよ。外人部隊を辞めて妾にならないかって。私、聞いてて戦慄しましたよ」
ウィッチ中隊、グーラ中隊、ノエル中隊、アリス中隊の連隊で実働する4個中隊の隊長格が並んでテレビゲームだ。アリス中隊からは副隊長であるアリス2が参加した。アリス1は忙しい。
優希はボコボコにされた。
「例のマンモスですが」とアリス2が言う。
「うちの隊長がシビリアンを埋めない程度にお酌して聞きだしました」
アリス2は僅かに視線をズラして、
「政府は大した問題ではない、と」
「なるほど」
ゲームオーバーだ。
基地では畑を耕していた。
訓練の合間には食用の虫も育てていた。
半地下の建築物は有事に備えてトーチカにも使える設計である。
ただ、民間の立ち入りを禁止している地域全体は、要塞というよりも耕作地として外人部隊が働くことも少なくはない。
最近、養鶏場が本格稼働している。
食堂のメニューに卵が多い理由だ。
養豚場もよく動いている。
「腹が減ったなぁ……」
「隠し田ですから行ってはいけませんよ」
「だが優希、食堂のメニューが急にレーションだらけになったらこたえる……裏を見たら賞味期限過ぎてるし」
「自衛隊の保管庫とか、スーパーマーケットの在庫をタダで処分する場所が外人部隊ですから」
「腹、減ったな……」
「北陽本から貰いますか?」
「国境警備隊に? 将校外交も命懸けだ」
「レーションで我慢しましょう。猫の半固形食と同じくらいは美味しいですよ。チキン味です。マグロ味もあります」
「……全部、五目ご飯とあるんだけど……」
「キーラさんは贅沢ですね。長生き……は、貧乏なこの食生活でできないでしょうけど、本当に飢えに飢えるほどではないです」
「ひもじい」
「シビリアンは食事にも厳しいですから。贅沢だー、と、叫んでいましたよ」
「マンモスて食えるかな」
「石器時代はともかく、知ってるマンモスは鋼鉄ぽいので古細菌とか細菌でないと分解できないかもです」
「腹減った……」
「食料調達にでも行きますか?」
「北に?」
「国境越えなんて簡単ですよ」
「懲罰ものをシレッと。しかもシビリアンがいるのに堂々とよく言えるな」
「基地が閉鎖的過ぎるので、情報収集活動にですね。……基地の電話、盗聴されていましたよ」
「マジか」
「ちょっと街のほうに電話をしたら、1時間経たずにシビリアンに尋問されました」
「迂闊に手紙も書けないか」
「電子メールも検閲されているでしょうね」
「で、どうやって切り抜けた?」
「切り抜けたなどと人聞きが悪い。中国地方にいる家族に電話を繋いだだけです」
優希は猫にレーションを食べさせた。
「アリス2の話では、シビリアンはマンモスを大した問題とは認識していないそうです。マンモスを追ってきた北の部隊もセットでの認識なのでしょうかね」
「知らないだけじゃないのか?」
「無視しているなら、あるいは知っているかもです。単に馬鹿すぎて外人部隊を拘束する理由で浮かれている可能性も高いですけど」
「マンモスにこだわるじゃないのさ」
「キーラ、北陽本の新兵器ですよ。それも『暴走している強力な兵器』がまだ龍骨山脈をさまよっているなんて、私は不安で夜も眠れません」
「非武装地帯を冒険でもするの?」
キーラは目を輝かせたが、
「死ぬやつですよそれ」
「だよねぇ……」
「でも、事件解決が外交で全部始末をつけられると、前線の私たちはわけもわからず泥だけ被される。面白くはないですよね」
面白くない、と、もう1度繰り返した。
「政治からの圧力で懲罰を受けるのも、あちこちに送られるのも、政府の裏切りで背中から前から敵味方にサンドイッチで全滅も、アス大陸で振り回されて屍を晒し続けた成果が、後ろ指を指して人殺しと平和の敵だなんて、面白くないです」
──いつだって、誰も納得はさせてくれない。穢らわしい真実も正義も与えられずに、ただ泥を被るだけの扱いなら、自分で探すしかないんだ。何もかも、全部。
第1章:「非国民の外人部隊」終
第1章を読んでくれてありがと。
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