最終話「花束を」
船の死体を小人が切り刻んでいた。
いたるところ火花が散る。
船舶再生施設の外れで、真守優希はパラソルの下で椅子に座り足をテーブルへ投げていた。
顔には麦わら帽子をかけられていた。
「すみません」
と、声をかけられた。
「真守優希さんですか?」
優希が帽子をずらせば、スーツ姿のスレンダーな女性が立っていた。
「いや、違いますよ」
「え!?」
「嘘です」
Kiii-
優希は椅子を軋ませて起きた。
地面に落ちかけた帽子を拾う。
「わ、わたしは国家諜報院のヒナギクです。真守さんにある依頼を──」
「──国家諜報院なんて、スパイが堂々と言ってしまえるのですね」
「上層部は真守さんに打ち明けておくべきだと判断しています。わたしも同じ意見です。知りすぎているとも思いますが」
「……正直ですね」
「ぶっちゃけなんでまだ生きているのか不思議です」
「本当にぶっちゃけてますね」
「ヒナギク機関としての依頼をお願いしたいのです。話を止めないでくださいね。北半球海の先、北極圏で妙な動きがあり、陽本の安全保証を揺るがしています」
「おっさん1人に期待しすぎですよ」
「元外人部隊を動かしてもですか? この依頼を受けていただければ、政府は正式な試験を受けていない人間も市民として登録する超法規的措置の用意があります」
優希は、もう1度、帽子を顔にかけた。
まぶたの裏に未来は見えていた。
「真守さん」
キーラが声をかけてきた。
「ん」
そうだな、と優希は決断した。
「お断りしましょう」
失望した顔だった。
彼女が立ち去って、
「全員死亡扱いですが──」
キーラが言った。
「──潮時には良かったです。死体に延々と戦わせるには、うちの部下は少々貧弱ですから」
椅子が軋む。
「キーラ。全てのことがらには意味があると思いますか? マンモスとの遭遇、全滅したと言うことになった外人部隊。クレムリの特務や73教との接触には、意味があったと思いますか?」
「クレムリで調達したWTは、軍隊ヤクザからです。連中とグレンは線があるからこそまだ生きているし、グレンのクローンは73教の司祭ですが、選別を受けてのことではありません。
73教には命の淘汰はありません。グレンの弱味で、彼女は殺すことを躊躇ったからこそ73教に。軍病院では、そこを漬け込まれて信者一本釣りに利用されていました」
「重要な秘密だ。利用していた人間の切り札だ。装備と信者供給の両方を掴める。だが、楔は我々が排除した」
「ベース3301での約束ですね。グレン、そして私たちも自由をえた。グレンが対価にしたものは──」
「──大したものではないが、僕らの全てだ」
船舶再生施設で外人部隊の死体が働いている。
「キーラ。次はどうするかな」
優希は訊いた。
「外人部隊で、無能と擦り潰されるはずだった連中の受け皿はできた。肉体労働だが、まだまだ社員は欲しい」
コーヒー豆の缶詰だ。
中には認識表の半分がある。
ジャラジャラと音を立てるそれは半田付けされている。
「戦友たちはここに埋めるのですね」
「姉妹たちの家に」
優希は土を被せた。
〈了〉