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第13話「帰ってきた始まり」

「馬鹿が、平地か何かだと!」


 BAHUM……


 チューブから火だ。


 対戦車ミサイルが制御翼を展開して、蚊の口吻のような突き出た信管がM1エイブラムスの車体下部へ命中した。


 BAKOM!


 信管が炸裂し、タンデム式の成形炸薬弾が爆発の衝撃で金属プレートにユゴニオ弾性限界を超えさせて崩壊、メタルジェットが装甲を崩壊させ混じりあいながら抜いた。大量のメタルジェットの破片が吹き込まれてクルーたちは引き裂かれる。


「ハーピー3が大破!」


「WTの機動防御か、こっちは戦車だぞ」


「道が切られてちゃ脚付きのが有利です」


 SYA……BAKOM!


「わぁ!?」


 ……VOOOOOO!


「直撃した! 助けてくれ!」


「馬鹿野郎! バスルの装薬が燃えてるんだ、ハッチを開ければ丸焼きになるぞ馬鹿野郎!」


「落ち着け。ガスマスクをつけろ」


 ──モニターが死んだ。目も。死んだか。


「……砲声がやんだ?」


「馬鹿。死神が遠ざかった」


「槍騎兵が軽歩兵に助けられたか、畜生め」


「ウォーキングトーチカだ」




「ウィッチリーダーより全ウィッチへ。敵側面を突いたぞ。第2、第3小隊、喰い千切れ」


「30mの谷を跳躍する命知らずは山岳戦の気狂いくらいだろうさ!」


 ZUVO……


 VOM……


「第2、第3小隊、敵中隊側面の左翼小隊を撃破。右翼小隊と交戦。中央に対しては防御陣形してるけど」


「私らで行く。動いた敵中央側面に走れ」


「ウィッチ2、了解」


「ウィッチ3、了解」


「ウィッチ4、了解」


「大した数じゃない。一気呵成でさっさと押し返せ。戦車隊は何を急ぎすぎているんだ」


 ウィッチ1のコマンダーである真守優希は赤外線映像を見た。


 土埃に半ば隠れた中隊規模の敵WTが透けて見えていたが、それもすぐさま打ち上げられた発煙弾に光学も熱も遮断され見失った。


「反応が良いな。探りを入れる。全車、2秒間の制圧射撃後にサイドジャンプ」


「2秒後にサイドジャンプだな?」


 ウィッチ1のドライバーであるキーラが確認した。


「そうだ。合わせろ」


 30mm機関砲が狙いも雑にばら撒かれた。


 DOM!


 DOM!


 DOM!


 高速の機関砲弾は、敵WTが展開した目眩しに捩り込まれて雲の渦を引きながら抜けていた。


 1セコンド。


 DOM!


 DOM!


 DOM!


 車外へ跳ねあげられる空薬莢が装甲に当たり打楽器のように奏でた。


 2セコンド。


 車高を低く走っていたWTが真横に飛びのいた。4脚の全てが完全に地面を蹴りあげ離れた。


 ZiP!


 ZiP!


 GACHUEEENK


「うぉっ、当たった!」


「かすっただけだ。跳弾だ。思ったよりもAIが学んでいたな。弾道計算、跳躍の未来位置だけじゃない、地理はこっちのデータのが詳しいんだ。当てるぞ。小隊データリンク、予測斉射」


 DOMDOMDOMDOM!


 1セコンドにも満たない同時射撃が同じ場所に撃ち込まれた。


 数瞬遅れて、煙幕の内側で爆発だ。


「霧が晴れる」


「各車、突撃、突撃、突撃」


 タイヤが唸り、薄くなった煙幕にシルエットを晒す敵WTの脚を体当たりで凪ぐ。


 CLASH!


「慈悲の一撃だ」


 キーラは脚を敵に当てた。


 BOSHU!


 短い、小さな爆発が脚の先で発生した。


 歩兵が携行する小さな対戦車ミサイルの弾頭で、メタルジェットはWTの装甲の隙間に捩じ込まれた、あるいはこじ開けられたことで直接に脆弱な部位を切られた。


「沈黙した」


 QUWAOOOM


 攻撃機が北へ飛んでいく。


「私らのぶんが残ればいいが」


 BAM!


 BAM!


 BAOM!


 ZUVO!


「進路を北へ戻せ。国境紛争なんて私らで終わらせよう」


「優希も冗談を言うんだな」


「損傷の報告は? ──よし、谷を飛ぶぞ」


 陽本国、クレムリ支配領と、ピクトべスク支配領およびソルバル支配領の外人部隊が交戦したことで起きた実質上の国境紛争は、


「茶番にいつまで血を要求するんだ」


「何か言ったか、優希?」


 国際社会の介入を待たずに、各支配領の盟主が陽本を飛び越して停戦が調印された。




 Ziii


 優希は死体袋のジッパーを閉めた。


「運んでくれ」


 手には、似顔絵のスケッチが描かれていた。


「なんだそれは、キーラ」


「助けた戦車隊から貰ったお土産。美味い。中隊で、もう分けた。……そいつら不運だったな。もう半日、早く決着がつけば生きてただろうに」


「私が命令して殺したんですよ。不運は半分だけでしょう。でなければ恨む相手もわからない。死後、怨霊だったら困ったことになります」


「家族に?」


「死体が届く場所がある人間は、外人部隊では少数派です。連隊本部への報告用ですよ」


「戦死者ではない人間か」


「そうです。……」


 野戦補給場の騒がしさの中で、キーラは真っ直ぐに見つめていた。


「時々さ、お前がわからないな」


「わかる必要性はありません。燃料と弾薬の補給が終わったら、ベース3011に向かいます」


「戦車隊だが、不相応に道を使っていたのは最近、占領した基地の警備に増派だそうだ。それとなく聞き出したが、例の秘密基地だ」


「関わる必要もありませんよ。災難は放っておいてもきます。上手く受け流して生きてください。長生きできます」


「こう言ってもか? クレムリ領の病院で見た73教の護符が戦車に丁寧に貼られてた。73教とマンモスだ。優希も言ってたな。クレムリはかつて機械生物兵器をジブリルスタンに投入したって──」


 優希は人差し指を立てた。


 静かに。


「どうしたんです?」


「……不安なんだよ。わかれよ。最近はツキがないんだ。何があっても、おかしくはない。そうだろう? ……あと」


 キーラは『らしくない不安を滲ませて』、


「ベース3011だ。すれ違った。私らが基地に入る前にいた第131大隊、中国地方の大隊だ。これは良いんだ、どこの所属かは。だが戦闘したわけでもないのに車両数が一致しない。基地防衛で戦闘が発生したわけでもないことは、弾薬庫の帳簿で見た。ここから弾薬を送るからな。戦闘での消耗なら、補充せずに帰ることになる。おかしいぞ。どこかに消えたんだ。

 しかも連中、入れ替わりで何事もなく中国地方に帰っていった。消えた仲間を置いてだ。どこに行ったんだ? ホラーハウスかよ」


「いつだって、なんでもありますよ」


 優希は死亡報告書をポケットにしまい、


「ご飯にしましょう。朝食です」


 音を立てて燃料の流れるパイプを跨いだ。


 大きな鍋から無造作に食事を提供する炊事係に、雑炊のようなものを山盛りされた。


 卵と鮭と米が多い。


 洗ったか怪しいスプーンを拭きながら、


「部隊の士気はまだありますね」


 WTに腰掛けて食らった。


「グーラ、ノエル、アリスの残存を編入して大隊規模になります。ノエルとアリスは合わせても部隊を充足させられないから、中隊規模と考えられないのには注意ですね」


「連隊本部は?」


「砲撃されて音信不通──だったのは復旧しています。幹部が少し死んでますが、今のところ編入先を探しているそうです。紛争は終わりましたから」


「高い血だったな」


「このくらいなものでしょう」


 死体がブルドーザーに詰め込まれて運ばれた。通り過ぎるとき、強い羽音、それに腐臭……。


「死体は、すぐに苗床になります。免疫が急速に死滅しつつある死体は、タールのように、ドロドロの物体に溶けて──」


「言うな! メシが不味い」


「すみません」


 優希は液晶パネルを睨む。


 64両、連隊として投入されたT-1ウォーキングトーチカの生き残りは48両だ。


 数は、多く残されていた。


 死者となれば、128人のうち死者59人、破壊されたAIは31人、負傷者は6割だ。


 連隊の戦力で使えるのは、修理したもの、欠けたパートナーを生存者で代替したものを含めて22両だ。


 失った戦力は48両になる。


「人間だけで死者59人、医官に送った負傷者たちもいくらかは死ぬでしょうね」


「……」


 ──顔も知っている。なのに……。


 またたくさん死んだ。


 優希は涙を流せなかった。



 ベース3011の地上施設は、外人部隊や正規軍と変わらない防御陣地が築かれていた。


 土嚢で囲まれた家屋、分厚い土入りの籠が周囲を完全に囲っていた。ゲートのある東西南北以外は出入りするのに、壁上の有刺鉄線を切る必要がある。地雷原に、機関銃を備えた監視塔が8つ。ゲートには対戦車ミサイルや無反動砲も備えられた。


 真守優希と22両のWTは機甲戦力として基地の中に入った。大きな施設だ


「壊滅した戦車隊の代わりに、うちが送られたというのはハズレになりますかね」


「クレムリの兵器に囲まれているんだからな、ハズレで間違いはないだろうさ」


「地上にある施設以外は全部クレムリだな」


「そうです。我々はまだ何も占領していないのと同じかもしれません。気づいていましたか? まるで生物汚染を隔離するように囲っている怪しげな施設、前にマンモスやフラメル博士らしい死体を見つけた基地と同じです」


「座標も同じ、か」


「隊員への休憩と食事の案内は誰を?」


「手配してる。中隊ごとに分けた。押し寄せても食堂で詰まる。まだ建設途中だしな」


「気配りが上手いので楽です」


 捕虜が歩いていた。


 外人部隊の服ではないのだ。


 クレムリの軍服を着ていた。


 優希は顔に覚えがあった。


 ほとんど見ることがなかった顔だが、


「あなた、クレムリのグレンですか?」


 病院で、ソルバル占領地まで部隊を手配してくれた人間の顔があった。


「あぁ、病院の男。男なんだ、こっちは忘れないだろうが女の顔を覚えているとは少し驚きだ」


 優希は首を傾げたが、


「軍事顧問で捕虜ですか?」


「いや、協力者だな。基地の地下施設だ。……さっぱり知らないがそういうことになっているのはオフレコだぞ?」


 HA-HA-HA!


 グレンは声を抑えて、


「殺し殺した敵に親しくするもんじゃない」


 監視塔に詰めている男が見ていた。


「真面目に戦っていないからヌルいとよく言われてます。地下というのは?」


「来いよ。『例の化け物』の子宮がある」


「マンモスですか」


「そうだ。一応、クレムリのガンシップと特殊装備のWTが仕留めたとはなっていた。串刺しだ」


「近くにいましたよ」


「次席はアリス2だ。私が不在の間に不足の事態があれば、お前の全権で部隊を動かせ。頼んだぞ」


 ウォーキングトーチカが、どこかチグハグな急造の基地のなかを歩いていく。


 籠に砂を詰め込んだものを連結した防壁、土嚢に塹壕やらはまだ築城の最中だ。


 工作車両や工作装備のWTは忙しい。


「ついてくよ」とキーラだ。


「心配だからな……お前は」


 彼女は呆れていたが、足取りは迷わない。


 グレンの先導で、仄暗い穴へ降りた。


「陽本の龍骨山脈みたいな場所は世界的に存在しているとは知っていたか?」


「電磁波とえたいの知れない疫病やらが発生する、地質学では説明できない土地についてなら少しは勉強しています」


「熱心だな。こっちはほんの数日前だ」


 グレンが案内したのは、生物汚染を警告するテープと迷路のように建てられた白い施設だ。


 どこかの入り口に繋がっていた。


「ここは?」


「ロボットの秘密生産工場だった、らしい。詳しくはわからん。停戦命令の前に入るよう言われただけだからな。

 汚染は心配するな。ちょっとした脅かしだよ。でなければ基地のど真ん中にあって、他の人間も一緒にはさせないだろう?」


 グレンは、


「協力しろと停戦命令の後で言われている。命令には従うものだ。見たいだろ。なら協力しなくちゃという話だ」とパスワードと静脈を機械に読ませた。


 核爆弾にも耐えられるような扉が開いた。

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