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第12話「そして時計を巻いた」

 BROOOM


 WTの4本の脚部にはタイヤが降り、よく舗装された山道を走っていた。


 山肌の圧力を感じながら、ガードレールのない道の先には断崖が切られ、底には細い川が太陽光を反射していた。


 ──変な感じだ。


 真守優希はWTのセンサーを動かす。


 ウィッチ1、グーラ16、ノエル7、ノエル8とは別の車両が、何両も列を作っているのだ。


 共同管理区までのエスコートだ。


 有人機だけではなく、小さな無人戦車もWTと同じように近くを固めていた。


 全周警戒……崖向こうから、山肌の上の死角までドローンを飛ばして目のネットを繋いでいた。


「D-1はよく知ってるのに乗るのは初めてだ」


「スクラップにはしてきましたけどね」


「思ったよりも応答が良い。無段階変速か。T-1だとギアチェンジがセミオートとはいえ、アクセルに気を遣ったのにな。この子はオートマチックだからベタ踏みだ。エンジンも良い」


「FCSやセンサーはT-1のが好みですね。ちょっと人力に頼りすぎです」


「優希は横着だなぁ」


「戦闘跳躍機動だと安定装置が不足していますよ。お尻の感覚がふわふわです」


 D-1ウォーキングトーチカが列をなして国境を横断する幹線道路でタイヤを回していた。


「国境の監視所まで送ってくれるし、『豪勢』な部隊だとは思いませんか、キーラ」


「ネット見てるから興味ない」


「拗ねないでください。何を視聴して?」


「アニメアイドル」


「可愛いですよね」


「おっぱい大きい美人が好き」


「おっぱい……」


 優希は話を膨らませるか悩みながら、


「人類の99%は女ですから、男のアニメアイドルの体のが人気ありますよね。中身はほとんど女ですけど」


「そう。男は胸板おっぱいが大きいのが良い」


 と、キーラはぶっきらぼうに言い放った。


 ──私の胸から腹の肉は削ぎ落ちてるな。


「エスコートはクレムリ装備だけど、それは私たちも同じです。友軍の誤射の危険は忘れないでください。衛星電話は2時間前から普通です。龍骨の電磁波の影響とは考えられません」


「共同管理区は目前てわけだな。見られているわけだ」と、キーラは言って、


「武器が今までと違うけど、タンデムとはいえHEATなんかでマンモスと遭遇したらひとたまりもないんじゃない? 戦車のAPFSDSを弾くんだから」


「LOSATです。徹甲ミサイル、APFSDSと同じ速度で叩きつけてユゴニオ弾性限界を超えた徹甲弾ですよ」


「クレムリの装備なの? 実験兵器か何かかな。今まで聞いたことがなかったけど」


「キーラは兵器オタクではないですから。私も開発している噂を聞いたのは──」


 ──“LOSAT”は、冷戦でクレムリと対立している、もう1つの超大国で対クレムリの機甲軍団対策の兵器だ。


「大砲を外して、WTにはローサットを装備してる。強い対装甲兵器は、マンモス対策かな」


「ジブリルスタン侵攻で、クレムリはCIAやグリーンベレーにゲリラを壊滅させる兵器を投入したものの、2体の機械生物は短時間の暴走で酷い被害を出したと聞きます」


「機械生物だろ。生物にしか見えないけど純粋な機械。噂は聞いたことがある。偵察衛星の画像診断だと焼け焦げて、核兵器を疑ってた。マンモスに似てるかもな。よく動く。ベアリングの回転じゃない」


「ここは少し、ジブリルの土地の起伏と似ていますね。マンモスも似たようなものなのかもしれません」


「マンモスはクレムリの兵器?」


「第2次塔州大戦と言っても、大陸の端では私たちの国だって環太平洋大戦です。その後から世界が少し変わった理由に、何か得体の知れない遺跡の発掘があったと噂されています。変な技術はどこにでもありますよ」


「オカルトなファンタジーなら少し知ってる。エイリアンだか異世界みたいな、既存の文明とは違う何かを発見したてものだけど」


「エルフだかETだかはともかく、フーファイターは頻出していますね。詳しいのはノエル8のキャロです」


「キャロが? なんで」


「ファイル読まない人間ですか。キャロが外人部隊に来た面接では、色々聞き出しています。身辺調査も。彼女が退学した学校では、『嘘吐き』と虐められていたとか」


「虐められっ子にしては、凶暴だな。手を差し伸べて善人ぶったところで感謝なんてされないよ、悪党なんだから」


「まったくです。73教といい、終末論者系の気狂いが少なくはないですから入信hやめてくださいよ」


 優希は通信の活性をモニターした。


 AIのパートナーに依頼すれば、未知の暗号化パターンで解読は難しい。だが、新しいパターンで組まれた通信はどこかの頻繁に繋がっていた──AIの判定では『戦闘状態』だ。


 車列にはまだ何の変化もない。


「小隊各機、突発戦闘へ備えろ」


 了解、と返事だ。


「クレムリの連中、様子がおかしい。何が来るかわからないぞ。油断するな」


 その時だ。


 通信が開かれた。


 エスコートしているクレムリ指揮官からだ。


「くそッ、始まったぞ。客は無人戦車と国境へ行け。権限を委譲する。元々、お前らにくれてやるものだ。クレムリのものではない」


「何があった?」


「知る必要はない。──各車、陣形を再編成、作戦は第2段階へ移る。狐狩りだ。化け物かもしれないが。魔女め」


 エスコートD-1が次々と反転した。


 舗装道路で器用にターンして、優希やキーラのウィッチ1、グーラ16、ノエル7、ノエル8を次々と後にする。


 モニターに、従属モードに入った無人戦車がポップアップされた。


「優希」とキーラだ。


「無人戦車は監視かもだ。大人しく従おう。共有管理区まで少しだ」


 山道をWTのタイヤが泥を跳ねながら走る。


 ウィッチ1のAIが警告した。


 Biii


 ジェットだ。


 稜線を越えるため、突然に上昇してあらわれて見せた巨人機はジェットの轟音を響かせた。


 QUWWWAAAOOO!


「なんてデカいヤツだ!」


「ムリーヤ? クレムリの世界最大の輸送機がどうしてこんな低空を……」


「横腹を見ろ、大砲が突き出してる。羽根には対戦車ミサイルのポットみたいなのも」


「ガンシップなのか。聞いたことがない」


 空前絶後の巨人機は、あっという間に山の向こうへと消えた。だが、耳には届いた。


 くぐもった、連続した、炸裂した音だ。


 8発もエンジンを下げた巨大な機影が、地上に大砲を撃ち込んでいるのだ。


「対空ユニットで堕とされないのか?」


「待て。部隊の対空陣地とデータリンクできる範囲のはずだ。機材はないがAIのパスワードを使って反応を見るくらいは可能だ」


「ほぼハッキングだぞ」


 優希は拒絶にしろ反応を探した。


 ネガティブ。


「おかしい。どこにもリンクできない」


「つまりなんだ、優希」


「ネットワークが存在していないということだ。衛星が繋がらない理由か。データリンクは砲弾や地雷まで接続する。それが無い。破壊されているんだ。それか封鎖だ」


「誰が?」


 答えが、すぐに現れた。


「国境紛争ってヤツか! こっちはD-1に乗ってる! 友軍の誤射を警戒しろ、撃ってくるぞ」


 BROOOM!


 炎上する車列だ。


 道路で擱座していた。


 WTが屍を晒していた。


 山と山で、谷を挟んでの砲撃戦だ。


 対面する山の木々も薙ぎ払われ、炎上するWTが森を焼いていた。


「戦端は切られていたか。間の悪い」


「丸見えだぞ」


「発砲炎! 見えた!」


「走れ! タイヤを上げて脚を使え、跳躍機動だ、交互移動なんてするな突っ切れ!」


 BAKOM!


 BAOM!


 崖の土や岩に砲弾があたり、爆風が破片と瓦礫を巻きあげた。


「キーラ、オートバランサーを!」


「うるせぇ言われなくても!」


 爆風に煽られて体勢の崩れたWTの制御がキーラの手に渡された。障害物、砲弾の回避、姿勢制御の失敗でAIの思考にタイムラグだ。


 優希はキーラの勘に任せた。


 キーラの判断は、WTの後ろ半分を崖に落としてホイールで走行、前脚2本で障害物になっている戦車を取っ掛かりに半回転しながら同時にこなして突破した。


 下半身を車道に引き上げ、姿勢を戻し車輪を道に降ろす……タイヤが強い摩擦に煙と悲鳴をあげていた。


「サーカスじゃないんだよ!」


「小隊各車、命令を待つなよ」


 グーラ16は跳び箱の要領で戦車を腕で押さえつけて、車体から砲塔へ2回、腕を置きなおしながら馬のように跳んだ。


 ノエル7は炎上しているトラックが突破可能だと体当たりで吹き飛ばし、開かれた道をノエル8が続く。


「味方に殺されたくはないな。AIの判定、音紋はロイヤルオードナンスの120mmライフル。ピクトべスク装備か。部隊を察するな。西部占領下陽本のライセンス品だ。チャートに従って逆襲陣地に入った戦車部隊か何かだろう。少なくとも外人部隊ではない」


「東の連中じゃないのか。チーフテンだろうさ。120mmなんて新型が溢れてる。当たればひとたまりもだ。舌引っ込めてシートベルトを、また跳ぶよ!」


「キーラに任せた」


「信用ありがと──次がくる」


 ピクトべスクの戦車、クレムリの輸送機や部隊が陽本国の支配者として跋扈していた。


「脱出する」


 爆煙と破片が装甲を撫でた。


 ふと、モニターの映像のなかに見えた。


 優希の目が一瞬、機械と協力して捉えた映像は2足歩行ユニットであり、尾根から堂々と晒した姿は見覚えがある。


 LOSATの徹甲ミサイルが半ばまで、何本もに串刺しにされ、バスル弾薬庫を撃ち抜かれてブローオフパネルが吹き飛んだ大型ウォーキングトーチカが黒焦げになりながら、尾根を2脚で踏む。


 センサーと目が合った。


 機会越しに……あった。


 マンモスだ。


 それもすぐに、至近弾の黒い煙に隠された。


 BBBRUOOOM!


「帰ろう──」


 WTのタイヤが唸りをあげた。




 第3章:『73番めの秘蹟』完

 第3章まで読んでくれてありがと。


 5万字も読んでくれたなんて嬉しいよ。


 続きが気になったらブックマークや評価をお願いね。評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできるよ。

 

 押さなくてもいいけど。

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