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5. 奴隷少女 ルミス

「おっ……お金を…………恵んでくれませんか……」


道の脇で座り込んでいる、片目を包帯で隠した少女は俺を見上げながらそう言った。

その痛ましい容姿に同情して硬貨を渡しそうになるが、一度踏み止まる。

このお金は、本当に彼女の手に渡るのだろうか?

誰かの指示で、集めさせられているのではないか?


「……ちょっと待ってて」


 俺は近くの屋台でパンを二人分買い、片方を彼女に渡す。


「まだ俺、飯食ってないんだ。一緒に食べない?」


 数秒、彼女は目を丸くして固まった。だが、その後コクリと頷いて、俺の差し出したパンを受け取る。


「あ……ありがとう……ございます……」


 川辺にちょうど座れそうな段差があったため、俺たちはそこで話しながら食事をとる。もちろん、監視もしながら。


「……だいぶお腹……空いてたみたいだな」


 彼女は一瞬でパンを平らげてしまった。やっぱりずっと食べてなかったんだろう。


「君……名前は?」


「……ルミス」


「ルミス、ね……お金じゃなかったけど……大丈夫だった……?」


 ルミスは黙って、首を横に振る。


「……こっちの方が……嬉しいです……」


「……あのさ……お父さんとお母さんは……?」

 今までよりも一層長い沈黙が二人の間に流れる。


「も、もちろん無理に教えてくれとは言わないよ……! ってか、初対面なのにズケズケと聞きすぎたよね……! ほんとごめ……」


「……両親はいないです……今は……」


「……今は……?」


「……私の家、凄い貧乏だったから、売りに出されたんです……末っ子なので……だから今は、新しい家でご主人様の“お手伝い”をしてるんです……」


「その“お手伝い”っていうのは、さっきの物乞いみたいなことも含まれるのか……?」


 ルミスは黙って頷く。


「つまり、君が集めたお金は、全部そいつに行くんだな……?」


「……はい……」


 息を飲む。


「っ……じゃあ、その包帯は……」


 ルミスはまた黙って頷いた。しかも、その時のことを思い出したのか、身体は震えて、瞳には怯えの感情が宿っている。

 気づけば、俺は拳を握りしめていた。この子は、生まれてから一度も愛されたことが無い。それどころか、他人に深い傷を負わされて、商売の道具として利用されている。

 俺は両親を失った。その絶望と悲しみは計り知れない。しかし、彼女にはそもそも“失うものすらない” 彼女の気持ちはわからないが、それが間違っていることだけはわかる。


「……なぁルミス、俺のとこのパーティに………」


「何やってんだ、ルミス」


 突然、後ろから冷ややかな声が聞こえた。

 振り向くと、そこには俺とさほど変わらない年齢の男が立っていた。


「……シ、シルバ様……」


 ルミスは震えた声で、その男の名前を呼ぶ。


「ったくサボりやがって……ほら、行くぞ」


「すみません、あなた、彼女の何ですか……?」


 男がルミスを連れ帰ろうとしたところを、すんでのところで呼び止める。


「は? いやそれはこっちのセリフなんだけどなぁ……? そうだなぁ〜……保護者〜?」


「こんなボロボロの格好で、何をどう保護してたんだ?」


 無意識に語勢が強まる。


「んだテメェ……? …………もしかして……奴隷に情が移ったのかぁ? ったくめんどくせぇ……………5万でどうだ?」


「……は?」


「5万で一晩貸してやるよ。ヤリたくなったんだろ? こいつと。…………まっ、もう使用済みだけどなぁ!!!!!!! ギャハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!」


「っ……テメェ……!!!!」


 俺は反射的に奴に殴りかかった。が、相手は懐から魔導具を取り出し、俺に魔術をかける。


「ぐっ……!」


 拳が顔面を捉えるすんでのところで、身体が硬直し、電流が走ったような痛みが俺を襲う。

 これは……【痺れ】……か……?

 相手の魔術特性を理解した瞬間、麻痺した身体を蹴飛ばされた。


「はっ……ハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!! 無様だなぁ!!!!!! 二度と俺のルミスに近寄るんじゃねえぞカスが……!」


 男は捨て台詞を吐いた後、ルミスを連れて去っていった。


「……クソッ……!」


 また、守れないのかーーー 

俺は麻痺で上手く動かせない拳を、地面に打ち付けた。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「はよ更新しろ!!」


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