4. 新たな街 ファーヴニル
リナ、なんでファーヴニルが次に狙われるってわかるんだ?」
俺は歩きながら彼女に質問する。俺たち3人は、壊滅したナーガ市を出た後、リナの指示で、隣の街、ファーヴニル市へ向かっていた。
「多分……怪物は近い街から順に襲っているんだと思う……」
「それは……どうして……?」
「……アタシも……ズメイ市から逃げて来たから……」
ズメイ市、ファーヴニルとは逆方向のナーガ市の隣町だ。
「つまり、リナの街も怪物共に襲われて……」
彼女は黙って頷く。
「そうか……でも、リナのおかげで俺たちは生き残れた」
「………そんなこと、ない。怪物共を倒せたのは、クロムの力があったから。街中で出会ってなかったら、きっとみんな死んでた。アンタが地下にいる間に」
街道でリナとぶつかった後、俺は龍人になった。リナはたまたまその現場を目撃していたらしい。
「でも、牢獄から出してくれたのはリナだろ? ありがとな」
「…………はいはい……どういたしまして」
「なぁ、こんな時にあれなんだが……あの怪物のこと、“ヤツ”って呼ぶのやめないか……?」
アデルートが俺たちに提案してくる。
「確かに、呼び名がないってのはこの先不便かもね……向こうの街の人にも共有しないとだし……」
「呼び名……じゃあ、“ヴァリアント”、とか……? 異形の怪物だから……」
「ヴァリアント……うん、いいんじゃない」
「俺も賛成だな」
そうこうしているうちに、周りの景色は広々とした草原から、鬱蒼とした森に変わっていた。
『グルルルル……』
「しっ……二人とも、ちょっと静かにして……」
リナが、若干張り詰めた声で俺たちに話しかける。
「何か……いる……」
それぞれ魔導具を構え、一瞬静寂が訪れる。
『ガサガサガサッ!』
そして鳴る茂みの音、そして、黒い影がアデルートの方へ突進してくる。
「ガキィィィィィン!!!」
アデルートの盾型の魔導具が、敵を弾く。
「……魔猪……?」
俺たちを狙っていたものの正体は、Bランクモンスターの魔猪だった。奴の肉は食料としても非常に美味で、牙や毛皮も高値で買い取られる。見てみると、通常の2倍ほどでかい。以前の俺らならだいぶ手こずる相手だが、今なら……
「ナイス、アデルート! 後は俺がとどめを……!」
「待って、クロム!」
リナが制止するよりも先に、俺の剣は奴の首を捉えていた。
「よしっ!!」
喜んだのもつかの間、魔猪の死体は黒い炎に包まれて跡形もなく消えてしまった。
「えぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
頭を抱えるアデルート。
「やっぱり……」
「リナ、これ……どういうこと……?」
「アンタの魔術特性は何?」
「【無】だったはずだけど……」
「きっと、その特性の真の力は、『全てを無に帰す』力、つまり、その剣で斬った相手は何であろうと消えてしまう……ってことなんだと思う……まぁつまり、オーバーパワーってこと」
「そうか……だから不死身の敵も倒すことが出来たのか……」
「じゃ、じゃあ……俺たち狩りが出来ないじゃないか!?」
「ああ……それなら……」
『グルルルルアアアアアア!!!!』
「リナ! 後ろ!!」
リナの背後から、もう一匹の魔猪が襲いかかるーーが、彼女は杖を逆に持ち替え、先の鋭い方で敵を斬り伏せた。
「これぐらいなら、アタシが倒してあげるけど?」
「「まじか……」」
森を抜けると、目的地の街が見えてきた。
ヴァリアント市―――俺のいたナーガ市よりも大きな街で、土地面積だけでも二倍以上あるという。でも、モンスターの進行を防ぐために、壁に囲まれているところは共通している。
「何で出来ないんですか!!!!!」
門前に到着して、アデルートが二人の門番と交渉していた。
「怪物が迫ってきているんです!! もう二つの街が陥落してるんですよ!! 門を閉じないと、ここの人間も全員喰われますよ!!!」
「そんなこと言ったってねぇ……君、上の方には街が襲われたなんて連絡は来てないんだぞ……?」
「それは俺らしか生き残りがいないからですよ!!!! 今こうして連絡してるじゃないですか!!!!」
「う〜ん……一応上に連絡してもいいが……俺たちが勝手に門を閉めることはできないんだよ……まっ、もしそんな怪しいヤツがいるってんなら、俺がコテンパンにしてやるよ!」
「アデルート、もう諦めよう……後は俺たちで見張るしかない……」
ファーヴニル市には、三つの門が存在する。今通った門と、河川を街に通している二つの水門。アデルートの話によると、ヴァリアントは液状化することが出来るらしい為、水の中を通って侵入してくる可能性もある。
俺たちは途中で三手に別れる。アデルートは入口の門を、俺とリナはそれぞれ別の水門を見張ることになった。
数分歩いて、東側の水門に到着する。ん、近くに冒険者ギルドがあるみたいだ。あそこなら魔猪の死体を換金してくれるだろう。
「す、すごい! これ、あなたが狩ったんですか!?」
「え?」
「これ、魔猪の亜種ですよね! 超〜〜レアでしかも普通の冒険者ではたちまち返り討ちにあってしまうという……!」
そ、そんなに強かったのか……? 確かに普通の魔猪よりデカイと思っていたが……そもそも、俺が狩ったわけじゃないし……まあ俺も一体倒してはいるけど……
「い、いや……パーティで……協力して……」
「それでもすごいですよ……! ちょっとこれは査定に時間がかかりそうなので……数時間後にまた来てくださいね!」
「はっ、はい……」
リナがほぼ一人で狩ったことを認めたくなかったのか、とっさにああ言ってしまったことに少し罪悪感を覚える。まあ嘘ではないんだけど……
「あ、あの……」
考えごとをしていると、誰かに声をかけられた。
……あれ? 左右を見渡してみたが、俺を呼んでいるような人はいない。
「……あの……!」
二度目の呼びかけで、その少女が自分の目線より下にいることに気がついた。
薄緑色の髪。身体中アザだらけで、服はボロボロ。目を怪我しているのか、左目を覆うように包帯が巻かれている。
そして、小さなお椀をこちらに向けながら、彼女は言った。
「おっ……お金を…………恵んでくれませんか……」
「面白かった!」
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