3. 覚醒
アデルートを逃した後、俺は自分の家目掛けて一直線に駆けていた。
立ち塞がる怪物共の首を飛び蹴りで吹き飛ばしていく。
だが、怪物共はすぐに頭を再生させて、再度俺に襲いかかってきた。
「このままじゃキリが無い……!」
俺は突破口を作ることだけに集中し、追いつかれる前に逃げていく。
しばらくして、実家の目の前まできた。
周りに怪物共の影は見当たらない。
俺はまだ中に潜んでいることを警戒して、ゆっくりと玄関の扉を開ける。
何も無い。俺は警戒心を解くことなく、忍び足で廊下を進んで行った。
母さんは大丈夫だろうかーーー
自分の足跡だけが廊下に響く。その静寂に安堵を覚える反面、外とのギャップに違和感を覚える。
まず最初にリビングを見るーーー いない。
次に自分の部屋を見るーーー いない。
死んだ父さんの部屋――― いない。
最後、母の部屋のドアノブに手をかける。
「どうか、無事でいてくれ……」
扉を開ける。
窓から風が吹き込む。
―――そこに母さんの姿はなかった
「……逃げたのか……?」
ここに至るまで、この家の中に誰かが襲われたような痕跡はなかった。だとしたら、母さんはこの家を出て何処かにいるということか。
不安が拭いきれた訳では無いが、少し安堵する。
ひゅうううううーーー
開いた窓から風が吹き込んでくる。それが気になったので、何の気なしに窓を閉めようとした時―――
視線を落とすと、死体になった母さんが、庭に転がっていた。
その瞬間、俺は膝から崩れ落ちる。
遅かった。母さんはすでに怪物共に殺されていた。
庭に出て、母さんの顔を近くで見る。
俺がもっと早く来ていれば、そもそもあんなところで捕まっていなければ。どうしても救えないのならばせめて、最後くらいちゃんと話しておくべきだった。
胸のうちからはただひたすらに自責の念と、そして怪物共に対する恨みが湧き上がってくる。
『『谿コ縺キッK繧ィ縺ブウ&‘(?$縺。繧ガア∴』』
また、気色悪い声が聞こえてくる。それも一体じゃ無い。何百、何千、いやそれ以上。
窓から外を見ると、街の人間を全て狩り尽くしたのか、俺の家は既に包囲されていた。
バキバキバキバキッ!!!!!
扉や壁を破壊する音が聞こえる。もう為す術もない。俺はもう戦う気力を失っていた。
“向こう”に行ったら、ちゃんと謝らなきゃなーーー
目を瞑り、壁に寄りかかった時、右手が硬い金属のようなものに触れる。
「これ……は……魔導具……?」
それは、真紅の宝玉が埋め込まれた、漆黒の剣。
母さんはこれで、最後まで戦っていたのか……?
その時気づく、自分の愚かさに。
俺はずっと逃げていたのだと。
魔術特性を言い訳にして、自分の不幸を他人のせいにして。
本当は、ただ戦いたく無いだけだったーーー
魔術が使えなくたって、強くなる方法はいくらでもあった。でも、俺はそれをせず、ただただ周りを羨んで、憎むだけだった。
戦いたく無いが認められたい、そんな歪んだ欲望が、この醜い身体を作り出したんじゃ無いのか。
俺は魔導具を手に取り、構える。
だが、もう逃げたく無い。
また誰かが同じ思いをするのは耐えられない。
だから母さん、今だけ力を貸してくれ。
「―――《共鳴》!!!!!!」
その瞬間、剣から紫色の炎がほとばしる。
炎は天井を貫き、そして龍の形となって、俺の元に落下する。
両腕は鎧のような鱗で覆われ、欠けていた翼はしっかりと生えきり、角は両側に生えて、腰からは太く力強い尾が生える。
『ほう……自ら地獄へと足を踏み入れるか……その覚悟……聞き届けたり……』
目の前の怪物を斬り伏せる。漆黒の炎は瞬く間に怪物を包み込み、塵になるまで燃やし尽くした。
『全て無に帰す黒龍の刃……存分に振るうがいい……!!』
二体目、三体目とどんどん殺していく。怪物共はすぐに燃え去り、再生することは出来ない。
「うぐっ……!」
討ち漏らした敵が脇腹を割いたが、どうでもよかった。俺の頭は、目の前の敵を殺る事だけ考えていた。だか、数が多過ぎるのかすぐに囲まれてしまう。
「来いよ害獣が……一匹残らず消し去ってやる……!!」
俺の声に呼応するように、怪物共が一斉に襲いかかる。
「【龍撃・爆炎虚無】―――!!!!!」
剣を包む炎が一層強くなる。俺を囲む何千何万の敵を一撃で薙ぎ払う。
「掛かってこいよ……俺が全員……相手してやる……」
俺は対象が全て無くなるまで、戦い続けたーーー
「チュンチュン……チュンチュン……」
気づけば、朝になっていた。
「目、覚めた?」
起きて最初に目に飛び込んできたのは、白髪の少女の瞳だった。
俺はボロボロの自宅の中、彼女の膝の上で寝ていた。
「全く、無茶な戦い方するんだから……」
そうか、俺は昨日、怪物共を倒した後、魔力を使い果たして気絶したのか。
自分の体に目をやると、普通の人間の身体に戻っていた。それだけでなく、怪物共に付けられた傷も完治している。
「アンタが玉砕覚悟で敵に突っ込んでいったから、私が回復してたの」
俺が怪我を気にせず戦えていたのは、彼女のおかげだったって事か……
「正直、アンタ一人で怪物共を殺り尽くしたのにはびっくりしたけど……」
「………」
疲労困憊の身体に鞭を打ち、なんとか起き上がると、隣から呻き声が聞こえてきた。
「……アデルート?」
ソファーの上で起きた彼と目が合う。その瞬間、彼の顔面は血の気が引いたように青白くなり、急に玄関の方へ駆け出していった。
俺と少女が後を追うと、アデルートは、外の惨状を眺めながら崩れ落ちた。
「……怪物共は……全部クロムがやったのか……?」
「……ああ」
その瞬間、彼は俺の方に向き直り、額を床に打ち付ける。
「俺をっ……俺を殺してくれぇっ……」
彼は嗚咽しながら懇願した。
「この街を潰したのは俺だ……! 俺がお前を追放しなければ、もっと早く怪物共を倒せた……! ゲオルとミハルも俺は見殺しにした! お前の友人や家族が死んだのは、全部俺の責任だ……!!!…………だから、お前が、俺を殺してくれっ………」
誰もいない街で、彼の咽び泣く声だけが響く。
「……アデルート、顔を上げてくれ」
俺は涙でくしゃくしゃになった彼の顔を、怒りに任せて、これ以上無いほど力強く殴った。
「アデルート、俺がなんでお前を生かしたか分かるか? 死んだら償えないからだよ。お前はその後悔の念と、お前が殺した人間の魂を背負って、苦しみながら生きていくんだ。お前が俺を追放しなければ……そして……俺にもっと力があったら……きっとこうはならなかった……!!」
「俺たちは、死ぬことすら許されない、ゴミ人間だってことだよ……」
アデルートは俺の言葉を聞いて、ただただ驚いたように目を丸くしていた。
俺は少女の方に向き直る。
「君の名前は?」
「アタシはリナ、リナ・フェルート」
「リナ、怪物共が襲って来るのは、この街だけじゃ無いだろ?」
彼女は頷く。
「なら、俺たちがやることは一つだ」
俺は眠っている母のミサンガを、自分の右手に結び直した。
「怪物共を殲滅する。二度と同じことが起きないようにーーー」
「面白かった!」
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