2. 迫る脅威
―――あれから何時間が経ったのだろう。
俺は自警団に連行され、厳重な地下牢に監禁されていた。
数刻前、俺は牢屋に付いていた鏡を見て、絶望した。
右腕は鱗まみれになり、全身の血管が浮き出ていて、身体の至る所から結晶の様なものが突出している。元々黒色だった俺の左目は真っ赤に変色していて、歯は肉が裂けそうなほど鋭くなり、頭の左側に角が一本、背中からボロボロの片翼が生えていた。
間違いない、アデルートの言っていた通り、俺は“龍人”になっていた。人を喰らい街を荒らす怪物。ただの噂と一蹴していたのに、まさか自分が……
「なんで……俺ばっかり……」
神様はなぜ俺にばかり試練を押し付けるんだ? ただ普通に暮らしていただけなのに?
俺はこの現状に耐えきれなくて、牢屋の中で泣き崩れてしまった。
「……見つけた」
ふと、どこかで聞いた様な声が聞こえた。
「誰だ……」
そこにいたのは、あの時出会った白髪の美少女だった。
「君……どうやってここまで?」
ここは街で一番警備の厳しい牢獄だ。華奢な彼女がここまで来られる訳が無い。
「そんなことはいいから、早くここから出て」
彼女は兵士から奪ったと思しき鍵で扉を開けた。
俺は彼女の言う通りに牢屋から出て、階段を駆け上がる。
「どうして俺を助けた……?」
「あなたの力が必要なの」
「俺の……?」
そうこうしているうちに、出口が見えてくる。
地下牢から出た瞬間、俺の目に飛び込んできたのは、酷く豹変した街だった。
「はぁ……はぁ……はぁっ……」
『縺エ」謇九ぉ縲ガS&8y(>迚郁ェ槭?縺ゅ≠ゴグ』
「なんなんだこいつら……!?」
俺、アデルートはミハルと共に、荒廃した街の中を逃げ続けていた。
数刻前、クロムを追放した後、アイツが倒した怪物と同じヤツが大量に発生して、住民を喰い殺し始めた。
ゲオルは真っ先に俺たちを守ろうとアイツらに立ち向かったが、その圧倒的な数と、切っても切っても復活する意味不明な治癒能力のせいで、為す術なく八つ裂きにされた。
ミハルの風魔術と自分の硬化魔術のおかけでなんとかここまで逃げられたが、もう俺たちの魔力は底を尽きていた。
「あ、あそこ……!」
ミハルが指差した先には、どんどん崩壊していく建物の中で唯一生き残っている一軒家があった。
あそこならしばらく身を潜められるかもしれない。そう思って、俺たちはその家に転がり込んだ。
「取り敢えず問題なし、か……」
家の中を確認したが、例の怪物も、人が襲われた痕跡もなかった。もともと空き家だったのだろう。家具が全くなかったため、バリケードを張ることはできなかったが、隠れられるだけでもありがたかった。
壁沿いで縮こまっているミハルの横に座る。
彼女はずっと歯をカタカタ鳴らしながら身を震わせていた。彼女の足元はじっとりと濡れていて、きっと恐怖で失禁してしまったのだろう、それでも、彼女にそんな体裁なんて気にしている余裕がないことは見てわかった。
「ねぇ、アデルート」
数分の沈黙の末、ミハルが口を開く。
「もしっ……もしクロムがいたらさ……こんなことにならなかったんじゃないの……?」
「えっ……」
「ねぇ、アンタがあいつを追放しなければ、私たち助かったんじゃないの……!? ネェ!!!!!」
「落ち着け!!!!」
「アイツは龍人だったんだぞ!! あの時追放しなければ、俺たちは既に喰われていた!! それにあの怪物とグルかもしれないんだぞ! あの時はたまたま襲われたから倒しただけで、この街に送り込んだのはアイツだったかもしれないんだ!」
しまった、落ち着けと言っているのに、俺もつい声を荒げてしまった。
一度冷静になって深呼吸をする。
「それに……ここにいればしばらくは安全だ。窓が沢山あるから、もし奴らが壁を破壊したとしても、反対側にある窓から逃げればいい。一度奴らが去るまでここでじっとしていよう。」
「……そうだね、ちょっと私どうかしてた……」
よかった、何とか落ち着いてくれたみたいだ。
「しばらくそこで休んでな。俺、もう一度まわり見てくるから」
「うん……ありがと……」
俺は疲労困憊の体に鞭を打って、何とか立ち上がった。
パキッーーー
「……? いまなんか踏んだか?」
振り向くと、ミハルの頭がーーー
“怪物”に喰われていた。
「うあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
俺は一目散に家の外へ逃げ出す。助けなければ、なんて思う余裕はまるで無かった。
“怪物”は液状化して、窓を溶かしてくり抜いて侵入していた。
敵わないーーー
俺たちは“怪物”から隠れることすらできない。
ただ走って逃げるしかない、そう思った矢先に、俺は足元の小さな瓦礫につまずいて転んでしまった。
「痛ってぇ……」
顔を上げたとき、“怪物”は俺を見下ろしていた。
『縺ア+*▲薙s縺キシ?>繧ゅs縺ゅグ&ウJC繧』
「ハハッ……」
終わったーーー
“怪物”はヒクヒクと口を蠢かしながら、俺に近づいてくる。
俺は全てを諦めて、目を瞑る。
これは罰だろうかーーー
クロムをいじめて、追放して、ゲオルとミハルを見殺しにした俺の。
せめて、死んだら天国に行きたいと思っていたけれど、
そんなの、虫が良すぎるよなーーー
バキッーーー
最初その音を聞いた瞬間、俺は自分が喰われたと思った。
……だが、まだ生きている。
恐る恐る目を開ける。
「早く逃げろ!!!!」
鱗がむき出しの右手、ボロボロの片翼、左角だけ生えた頭。
そこに立っていたのは、俺が追放した、クロム・ベルドーだったーーー
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