第93話 斬刀
「信用できるのか?」
美奈子の言葉に、力強く頷いた明菜の瞳の強さに、もうこれ以上きくことはできなかった。
「一応…信用しょう」
美奈子は、神野に右手を差し出した。
「ありがとう…」
神野は、美奈子の手を握り返そうとして、差し出した右手に気付き、躊躇った。
「握り潰すことをしなければ…大丈夫だ」
美奈子は微笑んだ。
神野も表情を和ませ、美奈子の握手にこたえた。
固く握る手。
手袋をしてるからではなく、握手だけで、手の固さと異様な太さを感じることができた。
(人の手ではないか…)
美奈子は、笑顔のまま握手を解くと、明菜の方を向いた。
「この人の腕のことは、わかった。しかし、腕を付けなければ、明菜の中にある剣を使えないなんて…本当か?」
化け物の腕を、移植しなければ使えない。
美奈子は、そこに引っ掛かりを感じていた。
「あたしも…そう思ったんですけど…」
明菜は、自分のお腹の辺りを確かめた。
「それは、簡単なことです」
神野は、自分の左手を明菜にかざした。
しかし、何の変化もない。
「失礼」
今度は、右手をかざした。
すると、剣の柄が、空間に穴を開けて現れた。
それを、神野は一気に引き抜く。
次元刀が、出現した。
「な!」
明菜の体から、引き抜かれた剣を見て、美奈子は絶句した。
神野は、刃を反転させ、柄を美奈子に差し出した。
美奈子は恐る恐る…次元刀を手に取った。
「抜いてしまえば…誰でも持てます」
「軽い…」
美奈子は、次元刀の軽さに驚愕した。へたしたら、携帯電話の方が重い。
「明菜さんという鞘から、剣を抜くのに……この手が、必要なんでしょう」
美奈子は、次元刀を神野に返した。
「もっとも、異世界の人間は、明菜さん自体を剣にしていたようですが…俺に、そんな技術はありません」
明菜の能力をもとにして、次元刀をつくったのは、クラークだった。
その違いが、剣の威力に関係あるのかは…神野達には、わからなかった。
「……まあ、そんな話も何なのですが…」
神野は罰が悪そうに、剣を一振りすると、周りを見回した。
「…ここなのか?」
美奈子も、周りを警戒した。
「ええ…そのはずなんだが…」
神野と美奈子…明菜がいる場所には、沙知絵が働いていた研究所兼…病院が建ているはずだった。
だが、ここにあるはずが…何もない。
廃墟すらない。
ただの草むらが、目の前に広がっているだけだ。
神野は土を堀り、何か痕跡を探すが…何もない。
「壊したとかのレベルじゃない…。何も残っていない…」
神野は、コンクリートや建物の破片すらない状況に少し戸惑っていた。
「警察側の建物だったというけど……舞子が関わっていたと考えると…完全に、こっち側の建物というわけじゃないかもな…」
美奈子は周囲を見回し、考え込んだ。
民家や住宅地からは、遠く離れた場所にある為…何もない。
だけど、なさ過ぎるのだ。目の前に広がる広大な平地。それなのに、雑草の生えた方が…揃い過ぎている。
(何か…あった…な)
美奈子は、確信した。
だけど…それを証明するものはない。
(だが…)
美奈子が確かめたいのは、病院があったかではない。
「消したということは…知られたくないからだ…」
美奈子は自らの言葉に頷き、
「それだけわかればいい…。もう用はない」
病院跡から、立ち去ろうとした。
「そうですね」
神野も仕方なく、頷いた。
立ち去ろうとする美奈子と神野と違い、明菜はその場所から動かなかった。
地面を見つめ、ピクリとも動かない明菜に、美奈子は近づく。
「どうした、明菜?」
美奈子が慌てて駆け寄ると、明菜は泣いていた。
泣いていたというより、涙だけが頬を流れていた。
「ここの下から…声が聞こえる…苦しそうな声…」
美奈子も下を見、耳をすましたが…何も聞こえない。
神野も聞こえないらしく、
「掘り起こしましょうか?」
次元刀を下に向けた。
突き刺そうとした時、
「やめよう!」
美奈子が止めた。
驚く神野に、美奈子は首を横に振った。
「思念は…消える…。無理に掘り起こさない方がいい」
そして、明菜にきいた。
「彼らは…死んでいるんだろ?」
頷く明菜に、美奈子は頷き返すと、二人はその場から歩き去ろうとした。
しかし、神野だけは動かなかった。
「どうした?」
美奈子は、振り返った。
神野は次元刀を、握り締めた。
「残念ながら…掘り起こさなくても……向こうから、来るみたいですよ」
神野の足下が、微かに蠢いていた。
「チ」
軽く舌打ちすると、神野は自分の真下に次元刀を突き刺した。
地面の中から、空気を震わす断末魔が聞こえた。
微かに指先だけが、地面から出ていた。
「何!?」
目を見張る美奈子の隣にいた明菜が、悲鳴を上げた。
いつのまにか、囲まれていた。腐り、変色した肌を持つ…人間…ではなくなったものに。
人間の名残を残し…化け物と化した人の…ゾンビ。
その数約40体。
数メートルの距離をとって、三人を囲んでいた。
「早く!こっちへ」
地面から次元刀を引き抜いた神野は、切っ先をゾンビに向けた。
三人は背中合わせになり、ゾンビ達と対峙する。
「人から…化け物になって…さらに、ゾンビって…おかしいだろ」
美奈子は、じりじり近づいてくるゾンビ達に毒づいた。
「完全に…始末しなかったんだな」
神野は、刃と地面を水平にすると、にやりと笑った。
「まあ…ゾンビになった方が…俺は、始末しやすい」
神野は、明菜と美奈子を支点にして、一回転した。
すると、ゾンビ達の首が一斉に、ふっ飛んだ。
「御免!」
さらに膝を地面に付き、姿勢を下げると、また横凪ぎに刀を払った。すると、神野の前にいたゾンビ達の足が切られ、前のめりに倒れた。
「あそこから、逃げましょう!」
足を切り取った集団の方へ、神野はダッシュした。
明菜と美奈子も後ろに、続く。
「衝撃波ってやつか?そんなの出せたら、最初から…」
美奈子の言葉に、走りながら剣を振るう神野は、
「初めてやりましたよ!できるんなんて、思わなかった。何か…剣を握ってると、こいつがやれと」
神野は、左右に衝撃波を飛ばし、逃走路を確保していた。
倒れているゾンビ達を飛び越えようとしたが、あまりに数が多くてできない。
少し戸惑った明菜と違い、神野と美奈子は簡単に、その上を踏み付けていく。
「動きが鈍い!」
もともとここで、ゾンビになった者達は、実験や調べられた後が多い。
完全に目醒める前や、変幻が安定する前であったり、さらに体を切り取られている。
つまり、つまり五体満足ではないのだ。
斬り付ける神野の斬撃に、簡単に倒れていく。
その姿は、明菜には耐えられないものがあった。
(彼らに罪はないのに…)
罪とは何か。
その根本的なことが、これから明菜を傷つけていくことになる。
「明菜!悩むな!今は、逃げることだけに集中しろ!」
1人遅れている明菜に、美奈子が叫んだ。
なんとか、ゾンビの群れを抜けた。
すると、神野は振り向いて、足を止めた。
美奈子が、横を通り過ぎる。遅れて、明菜がやってくる。
その後ろに、頭だけがなくなったゾンビが、追い掛けてくる。
明菜は走りながら、神野を見た。
「いけ…」
明菜を見ずに、ゾンビの群れを睨みながら、神野は次元刀を持つ手に、力を込めた。
すると、神野の意志に呼応してか…右手の筋肉が膨張し、巻いていた包帯を破った。
「なぜ…このようになり…なぜここにいるのかさえ…わからぬ者達よ…。せめて、あの世で、自分を取り戻せ」
神野は1人、ゾンビの群れに飛び込んでいく。
次元刀は、ゾンビだけでなく、そこにある空間さえ斬る。
斬られたゾンビの体は、空間の狭間に、吸い込まれていく。
一瞬見えて、くっ付く空間の隙間は、闇しかない。
一方的に、斬りまくる神野の戦いは……すぐに終わった。
傷一つ負わなかった神野は、次元刀についた血を払うと、明菜に近づいていく。
「この人達を、ほってはおけない」
震える明菜に、神野は顔を背けた。
「あんたの言いたいことは、わかるが……この人達を助けることはできない。サナギを、幼虫に戻せないように…」
神野は、剣先を明菜に向けた。
次元刀は突き刺さることなく、明菜の中に入っていく。
半分くらい入った時、美奈子が叫んだ。
「後ろ!」
「え?」
明菜は…突然視界に、飛び込んできたものを確認できずに、動きが止まってしまう。
さずがに、神野は反応が速かった。
明菜という鞘に収めようとしていた次元刀を、居合い抜きのように抜刀すると、手を切り返し、神野に伸びてきた腕を斬った。
「何!?」
だけど、斬った感触があまりない。
肉ではないのだ。
腕を斬られ、後方にジャンプした者は、全身を布で包んでいたが、隙間から覗く目が、異様な光を讃えていた。
神野は、体を襲ってきた者に向けた。
斬られた腕が、神野の目の前に転がっていた。
「義手……」
クリーム色の合成樹脂でできた腕に、神野は見覚えがあった。
神野の右手が、脈打つ。
神野の前に立つ者は、全身を隠していた布を脱ぎ去った。
三人の前に、露になった姿。その者は、人間の女だった。いや…人間ではない。
姿は、人間になっているが…中身は違う。
「それが…次元刀か…」
呟いた女の声は、野太く…男のように低い。
「フッ」
女は笑うと、信じられない跳躍力で、後ろに下がった。
そして、神野を一瞥すると、建物跡地から、近くの山へ走り去っていく。
「腕が…片方…なかった」
美奈子の呟きに、神野は…次元刀を地面に落とした。
「沙知絵…」
「え」
神野の言葉に、二人は反応した。
その名は、神野の恋人の名前…。
神野の右手は、恋人のものだ。
「沙知絵!!!」
絶叫する神野に、明菜と美奈子は、かける言葉がなかった。
「あれが…神野さんの…」
明菜は、沙知絵が消え去った方を見つめた。
「今のは…見た目は、人間だったが…」
美奈子も、同じ方向を見た。
姿は人間だったが、跳躍力は人間を軽く凌駕していた。
「く!」
沙知絵が去った方向へ、堪らずに走りだそうとした神野は、一歩で踏み止まった。
「人間ってやつは…そんなに強くない…」
神野は、次元刀を下げた。
「進化し…人間じゃなくなった者の中には、発狂したり…自我を失う者も多い…。そんな中で、今までの自分とは違う…新たな人格が形成される場合が…ある」
神野は、明菜の方に体を向けると、次元刀を戻した。
「神野さん…」
二人は向かい合うが、明菜にかける言葉がない。
「沙知絵の…沙知絵としての自我は、崩壊している。それは…最後に会った時に、沙知絵からきかされていた」
神野は、転がっている義手を見つめた後、明菜の横を擦り抜けて行った。
「気にしなくてもいい…。今度あいつに会ったら、斬る!」
斬ると力強く言い放った神野の気持ちを察して、明菜は口を紡いだ。
美奈子は、そんな神野をただ見つめる。
そして、大きく息を吐くと、
「性格や人格が、変わったとしても…相手のすべてが、変わったわけじゃない」
美奈子は、神野を凝視し、
「斬れる?」
「ああ」
神野は即答した。
沙知絵を斬る。それが、神野の目的であり…それができるか、できないかで、美奈子達の在り方が変わった。
口では斬ると言っていたが、実物に会い、迷うならば…そんなやつと、共にすることはできない。
神野はフッと笑うと、次元刀の柄を美奈子に向け、
「その時は、俺を斬って下さい」
じっと美奈子の目を見つめる神野の瞳の強さに、美奈子は…次元刀を受け取らず、神野の横を擦り抜ける。
「今は…信じてるから」
美奈子は、心配そうに二人を見ていた明菜の肩を、ぽんと叩いた。
店の扉が開き、真っ直ぐにカウンターに向かって歩いてくる女に、マスターはいらっしゃいませを言わなかった。
軽く女を睨む。
「どうしたの?恐い顔をして」
男のような野太い声で、マスターの前に座り、片手をカウンターの上に置いた女は…沙知絵だった。
マスターは注文もきかず、カウンター内から、沙知絵を見下ろした。
明らかに、沙知絵が店に入る前と、マスターの身長が違う。
「貴様…。何のつもりだ?なぜ彼らと接触した?あまり、刺激するなと言ったはずだ」
マスターの静かな怒りにも、沙知絵は、にやにや笑うだけだった。
「質問にこたえろ!」
マスターのこめかみに、血管が浮き出る。
「別に〜い。ただ見たかっただけだ」
呆れたように肩をすくめた沙知絵に、マスターはキレする寸前まで来た。
しかし、その時…マスターの携帯が鳴った。
マスターは怒りを沈めるように、一度目を閉じてから、携帯を取った。
「はい」
落ち着いた口調で電話に出ると、しばらくかかってきた相手の声に、耳を傾けた後…おもむろに口を開いた。
「接触は致しましたが…問題はございません」
しばし…はい、はいとこたえた後、マスターは沙知絵を睨みながら、
「ある意味…少しの接触は、刺激になるかもしれません。それにより…覚醒を促し…は、はい…そのようなおそれは…ございませんと…」
いきなりマスターは、狼狽えだした。
「我々の敵になるとは…」
「クスッ」
そんなマスターの様子に、沙知絵が笑った。
その瞬間、殺気とともに、マスターは冷静を取り戻り、沙知絵を目を細めながら見下ろし、
「我々の女神は…あなた様だけでございます。あなた様だけがいれば…我々には、何の問題はございません」
マスターは、目をつぶり、
「は」
と...頭を下げると、携帯を切った。
「…で、あんたの愛しいテラ様は…何ておっしゃったの?」
上目遣いで、マスターを見上げる沙知絵から視線を外さずに、マスターは携帯をカウンターに置いた。
「いずれ…我々は、テラ様の下で、集結する。その時、我ら真の人類…食物連鎖の頂点に立つ者達が、この世界に君臨する」
沙知絵は肩をすくめ、
「無駄よ…。我々は、個々には、人を凌駕しているけど…数は、あっちが圧倒的に多いわ」
「我々の仲間も、目覚めて来ている」
「無駄。あたし達の先祖の中には、目醒めてからも、人の中に混ざり、中から人を支配しょうとした者もいたけど……せいぜい側近ぐらいにしか、なれなかった…」
沙知絵は、頬杖を付き、
「仕方がないわ。真に優れ過ぎた者は、人間の世界でトップになんかなれないの…。進化はね。その生物の中の優れた者から、出るのではなく、はみ出した者から、発生する者だから」
沙知絵の言葉に、マスターは苦笑した。
「それは…自分のことを言ってるのか?」
マスターの姿が、さらに変わる。
「進化の後は、その種を統制しなければならない…。お前のような…統制を取れない者は…いずれ処分しなければならない…」
「本音がでたわね」
沙知絵は、カウンターから離れた。
マスターの体躯が、三倍くらいに膨れ上がる。
テーブル席にいたカップルも、立ち上がる。
沙知絵は、口元を緩め、
「あたしが、言いたいのはね!あたし達を統制するのは、テラじゃないということ!」
沙知絵のないはずの右手が、あった。
「いつのまに」
ゴリラのような姿になったマスターに、沙知絵は右手を向けた。
それは、巨大な銃身だった。
「この世界の支配者になるはずだった者は…この世界からも、はみ出した」
銃口をマスターのこめかみに向けながら、沙知絵は後ろのカップルから距離を取り、扉に向かう。
「彼は、この世界を見捨てた!たかが、1人の女の為に!」
マスターは、カウンターから飛び出すタイミングをはかっていた。
「だけど…彼は、この世界に戻ってきた」
沙知絵は笑った。
「それが!この世界の混乱を、招いている」
沙知絵は、扉の前まで来た。
「彼は、いずれ向こうの世界に帰る!」
襲いかかろうとするカップルを、マスターは目で止めた。
「そうかもしれない!だけど…あんたのテラは、それを許さない!」
沙知絵はドアを開け、マスターに微笑みかけ、
「だけど…それは、あんたが蒔いた種よ」
沙知絵は、左手を振りながら、外に出た。
「なぜ追わないのですか!」
カップルの男の方が、マスターにきいた。
普段の姿に戻ったマスターは、フッと笑い、
「あの女も…また、今回の因果律の中に、組み込まれている。我々が、殺せば…因果が変わる」
「因果が変わる?」
また扉が開き、お客が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
マスターは、営業スマイルを浮かべ、頭を下げた。
カップルも席に座った。
「ここは……?」
店内を、キョロキョロ見回すお客に、マスターは話しかけた。
「初めてのお客様ですね。さあ、どうぞ!カウンターの方へ」
戸惑いながらもカウンターに座るお客に、マスターは…最初のコーヒーを置いた。
「基本的に…当店はコーヒーしかおいておりません。それも、一種類だけ…。その一種類とは…」
いつものトークを始めるマスターに、お客は頷き、コーヒーを飲む。
「お客様…。当店は、どのようにして知られましたか?」
マスターの笑顔に、
「あ、ああ…」
お客は、ポケットを探り、
「何か…これに書いてあったような…」
お客は取出したものを確認したが、何も書いていない。
「結構ですよ。このカードを提示された方には、無料でコーヒーを、提供させて頂きます」
カード…。それは、美奈子が持っていたものと同じだった。
「それに…急ぐことはない」
初めて来店したお客を見送った後、マスターはフッと笑った。
「我々も…テラも…時間はある。目醒めた我々の生命力は、軽く人を凌駕している…。ゆっくりとやればいい…。ただ…」
マスターは、カウンターのカップを片付けながら、
「テラに…赤星浩一のことを、まだ知られてはいけない…」
ちらっと、テーブル席にいるカップルの女の方に、目をやった。
女は、立ち上がり、
「問題はありません。病院の件等は、異世界から来た…魔王側の尖兵だと伝えております」
その報告に、マスターは頷き、
「テラと、赤星浩一の関係を知る者は、少ない。知っていた…西園寺の妹も、始末できたしな」
マスターは、カウンターから窓の外を凝視した。
「人…」
呟くように、口を開き、
「ある者は…人が武器を進化させてきたのは、我々の存在を怖れてというが…私は、そうは思わない…」
マスターは、コーヒーを入れ、自分で飲んだ。
「それは…歴史が証明している。人が人同士で、殺し合うためだ…。まるで、滅びる為に、プログラムされているかの如く」
報告した女も、頷く。
「ねずみが大量に、海に飛び込み、死ぬように…人は、戦争を起こし…殺し合うことこそ、決められた運命…」
「しかし…人は、自滅の可能性を知ってから、大規模な戦争を起こしていません」
カップルの男の発言に、マスターは頷きながらも、
「規模は、小さくなったが…戦争をやめられない。攻められることを前提として、武力を強化していく。この弱き心こそが、滅亡へと…人を導く」
マスターは、コーヒーを飲み干すと、
「数において、我々は圧倒的に少ない。しかし、個においては、圧倒的に強い。進化により、我々は心の弱さを、克服できた」
カウンターに、カップを静かに置くと、
「進化による…強靭な体と、強き心!それこそが、我々が最後には、残る理由!。目醒めたばかりのまだ…進化に気付かず…戸惑う仲間達を、導かなければならない!それこそが、我々の急務である!」