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【哀しみの饗宴】〜魔獣因子編〜 第78話 序幕

変な噂があった。


愛する人と結ばれるには、いろんなものを犠牲にして、捧げなければならない。


告白なんて、できない…勇気のないものは、他から力を貰うしかない。



野上亜梨沙は、後悔していた。


自分がしたことに。




「転校生を紹介します」


学校の教室にいても、亜梨沙には、周りの声は、聞こえない。


椅子に座りながら、斜め前の空いてる席。


そこにいた人物……。彼女は、自殺していた。


それは、亜梨沙の願いだった。


(あの子がいけないのよ…あの子が…)


亜梨沙は、ガタガタと震えながら、授業中ずっと目をつぶっていた。


すべての授業が終了し、片付けを済まし、ゆっくりと教室を出て、とぼとぼ歩いていると…亜梨沙に、声をかけてきた人物がいた。


「野上くん!」


その声に、びくっと体を震わせると、亜梨沙は恐る恐る振り返った。


「先輩…」


180センチ近い長身に、眼鏡をかけた真面目そうな男。


男は、亜梨沙がでてきた教室内に、目をやり、


「…やはり、信じられないんだ。まだ……あいつが、梓が自殺したなんて…」


亜梨沙に話し掛ける男の名は、北川登。


亜梨沙の好きな男だった。


だけど、今は…見るのがこわい。


「死ぬ直前までは、あんなに元気だったの……。自殺する理由が、わからない。だから、親友だった君なら…何か知ってるんじゃないかと」


登の言葉に、亜梨沙は顔を反らした。


「知りません!だって……あたしは……」


亜梨沙の脳裏に、梓の姿が浮かぶ。




「大丈夫だって…ちゃんと、先輩との仲を、取り持ってあげるから」


笑顔で、亜梨沙に話し掛ける梓。


(それなのに…)


数日後…。


亜梨沙は、登と腕を組んで歩く梓を、目撃した。


次の日、教室で梓に詰め寄った亜梨沙に、梓は悪怯れた様子もなく、


「ごめん!……でもね!そういうことって、仕方なくない?」


まるで、勝ち誇ったような顔…。


それが、亜梨沙には許せなかった。





「だって…あたしは、何も聞かされてないから」


亜梨沙は鞄を抱き締めると、登から離れ、全速力でその場から走り去った。


「野上くん!」


登は手を伸ばしたが、亜梨沙に届くはずもない。


その様子を、亜梨沙がいた教室から、覗く者がいた。


妙な視線を感じ、振り返った登は、その覗く者と視線があった。


その生徒は、すぐに教室の中に、戻った。


「今のは……」


登には、見覚えがなかった。


「転校生か…」





亜梨沙は走りながら、校門をめざしていた。


そのはずだった。それなのに…なぜかついたのは、逆方向にある裏庭だった。


そこには、別名…三日月の泉といわれる小さな池があった。


この学校は、大正時代に旺盛を極めた財閥の離れを買い取り、その敷地内に校舎を建てていた。


その為、奧には、広い庭園が残されており、生徒達の憩いの場所になっていた。


その中で、三日月の泉は一番奧にある為か…なぜか、人が寄り付かない場所になっていた。


何の水の流れもないのに、池の水は濁ることがなく、いつも澄んでいた。


昔から、水場には…何か集まると言われていたが…。


いつも綺麗な池。その為、こういわれていた。


この池は、何よりも汚れることを嫌う。


だから、この池に汚れている者の名前を告げれば、その者の汚れを洗い流してくれると。


池のまで来た亜梨沙は驚き、足を止めた。


「どうして……」


亜梨沙には、どうしてここに来たのか、わからなかった。


唖然としていると…いつのまにか、亜梨沙の周りを薄らと、霧が覆い始めていた。


すると、なぜか…足が池に向かって、歩きだした。


ゆっくりと、ふらふらと……。


そして、池のそばまで来ると、徐に水面を覗き込んだ。


いつも澄んでるはずの水面が、濁っていた。亜梨沙の顔が映らない。


「どうして……」



「それは、あんたが…もう汚れたからよ」


後ろから声がして、亜梨沙は思わず、振り返り……そして、心臓が止まりそうになる程驚いた。


「梓…」


霧の中から、死んだはずの梓が現れたのだ。


「あんた…。あたしが、死んだらいいと願ったんでしょ」


亜梨沙は、胸をぎゅっと握り締め、少し後退りながら、叫んだ。


「そ、それは、あんたが、先輩をとったから!あたしを裏切ったから!」


その言葉に、梓はせせら笑った。


「裏切った?あんたが、もたもたしてるからでしょ?それなのに、あたしを恨み、あんたは…」


「あたしは、この池に願っただけ!あんたが自殺したのは、あんたの勝手でしょ?」


「何言ってるの……。あんた…覚えてないの?あんたが、あたしを呼び出したんじゃない……屋上に」


「え!」


そんな記憶は、ない。


いや…ある。


亜梨沙の頭に、記憶ができていく。


(そうだ……あたしが、梓を呼び出して………突き落としたんだ…)


「そうよ……あたしが、突き落としたんだ…」


「そうよ……あたしが、突き落としたんだ…」


亜梨沙が、何度も…そう呟いた時、誰かが、池のそばに近づいてきた。


「そうだったんだね。君が、突き落としたんだね。梓を…」



「え……」


亜梨沙が顔を上げたら、もう梓はいなく…そこには、登が立っていた。


「君が……梓を殺したんだね…」


「先輩…」


「君が殺したんだね」


「ち、違う……」


「君が殺したんだよ」


「違う…」


登は口元を緩め、


「罰を受けないといけない…。君は、人を殺したんだから…」


登は、亜梨沙にゆっくりと近づく。


「君は…汚れてしまった。…だから…君も死なないとね」


「ああああ…」


泣き崩れる亜梨沙を見下ろしながら、登は舌なめずりをした。


「死ぬんだ…」


「……」


無言で頷いた亜梨沙に、登はゆっくりと手を伸ばした。


「手伝ってあげるよ」




「目を覚まして!君が、死ぬ必要はない。思い出して、梓なんて子は、いない。君は、騙されているんだ!」


どこからか、声がした。


「誰だ!」


登は、振り返った。


霧の中から、学生服を来た生徒が姿を見せた。


「お前は、転校生!ば、馬鹿な…あり得ない!ここは、結界の中だ!普通の人間が、入れるはずがない!」


登の戸惑う姿に、転校生はにやりと笑った。


「やっと……見つけたよ。お前達を。ブルーワールドを抜け出し、実世界へと逃げ込んだ…お前達…魔物を」


「ブルーワールド!なぜ、その言葉を!」


唖然とする登は、転校生が突き出した左手に…光る指輪に気付いた。


「指輪!?それに、何だ!この桁外れの魔力は!」


登は後退った。


「こんな魔力…人間には、あり得ない…魔神以上…いや、王クラス…」


転校生は口元を緩めると、叫んだ。


「モード・チェンジ!」



光輝く中、亜梨沙は気を失った。


最後に見たものは、ブロンドの髪をなびかせた……この世の者とは思えない美しい少女。



「ヴィナース!光臨!」


「て、天空の女神!馬鹿な……なぜ、貴様がここにいる!?」


愕然とする登に、アルテミアはゆっくりと近づいていく。


「それは、こちらの台詞だ!お前達こそ…何してるんだ?」


登が震えながらも、笑った。


「お前が、アルテミアなら…さっきの男は、赤星か!クククク…あの方が、喜ばれる」


登の姿が変わる。蜘蛛を思わす姿になった。背中から六本の腕が生え、そこから糸が、アルテミアに向って放たれた。


「フン!」


アルテミアは、鼻で笑った。


霧を切り裂き、チェンジ・ザ・ハートが飛んできて、糸を防ぐと、アルテミアの手に…槍となりて、おさまる。


アルテミアは槍を一振りすると、脇に挟み、呟いた。


「Blow Of Goddess」




「うぎゃあああ!」


女神の一撃を受け、倒れる登は、断末魔の悲鳴を上げた後…大笑いをした。


「罠に、はまったのは、貴様らだ!」 


登は、全身を炎と雷鳴に包まれながら、朽ち果てていく。


「この世界では…お前は、自由に力を使えない。だが!我らには、縛るものがない!それに、この世界で、我らと戦えるのは、お前達のみ…」


登は、にやりと笑い、


「魔法の使えない人間…。その癖、魔法や占い!呪い!超能力に、憧れ!人間同士に、憎み、恨み…罵り合う!この世界こそ!我らが、生きるに相応しい世界!」


登は灰になる前に、アルテミアを睨んだ。いや、彼女にではない。


「アルテミア!いや、赤星浩一!お前に、伝えてくれと頼まれていた……」


アルテミアは足を止め、振り返ると…赤星になっていた。


「赤星浩一!お前を殺すと!我らの新たなる二人の王からの伝言だ…」


赤星は、朽ち果てていく…登を見つめる。


「炎の女帝リンネ様と……氷の女神……マヤ様。この世界では、守口舞子と呼ばれていた…」






灰となり、風に吹かれて消えていく登の体を、最後まで見つめながら、


僕は呟いた。


「リンネと……舞子……」


フレアの姉であるリンネと、クラークの恋人だった舞子。


フレアとクラーク。二人はそれぞれ…僕を助け、僕の手によって、死んでいった。


今回の戦いは、辛いものになりそうだ。


「赤星…いくぞ」


ピアスからのアルテミアの言葉に、僕は頷くと、歩きだした。


(だけど……アルテミアがいる)


それだけで、僕は心を落ち着けることができた。





亜梨沙が、意識を取り戻した時には、彼女は…校門をくぐり、駅への道を歩いていた。


「え?」


少しきょとんとした後、亜梨沙は、何も思い出さず…普通に、帰路を歩き続けた。



次の日。


亜梨沙の斜め前の席に、風邪をこじらせて、しばらく休んでいた楓が座っていた。今日からまた学校に、来ていた。


何気ない1日。


亜梨沙は、頬杖をついた。


携帯を取出し、メールをチェックする。




最近、ネットで少しだけ…噂が飛びかっていた。


この世のものではない事件に、巻き込まれた人達を救う者がいると。


あるサイトに書き込むと、助けに来る。


それは、この世の者とは思えない……美しいブロンドの女神。


女神が助けに来ると。



メールをチェックしていた亜梨沙は、送信に送った覚えがないメールを見つめた。


「何これ!」


内容を読んで、気持ち悪くなった亜梨沙は、すぐにメールを消去した。


メールには、こう書かれていた。


助けて……と。







「早くしろよ」


「待って下さい!先輩」


先を急ぐ美奈子の後を、明菜は追い掛けた。


週末の街中は、行き交う人々でごった返していた。


スクランブル交差点を、美奈子と明菜は歩いていた。


「しかし、お前も物好きだな…。折角、大学を出たのに、わざわざ…うちみたいな貧乏劇団に、はいらなくても」


美奈子の言葉に、明菜は微笑んだ。


「いいんですよ。あたし、演劇が好きですし…自分の可能性を、せいいっぱい試したいんです。今もどこかで、頑張ってるあの人に、負けたくないから…」


明菜の言葉に、美奈子は振り返り、


「赤星浩一だったけ…。今思うと…本当に、あんなことがあったのか…信じられないな…」


振り返った美奈子を見る明菜の目に、今の時間にそぐわない人物が映った。


明菜の動きが、止まる。


その人物は、信じられない動きで、人混みを擦り抜けると、明菜の横を通り過ぎた。


「こうちゃん…」


それは、学生服姿の赤星だった。


あり得なかった。


高校を卒業してから、もう四年はたつ。


赤星と異世界で別れてからは、五年近い。


だけど、今すれ違った赤星と思われる人物は、あの頃とまったく…変わっていなかった。


まるで、時が止まったように。




天空のエトランゼ


〜哀しみの饗宴〜魔獣因子編


幕開け。


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