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第69話 突入

「だから…無理だったんだよ」


水面から這い出した僕の頭の上に、ティフィンが止まった。


「何言ってる!水中戦ができない勇者がいるか!」


「僕がやってきたRPGには、水中戦をやる勇者なんかいなかったよ!」


慌てて立ち上がり、猛ダッシュする僕の後ろに広がる湖が、盛り上がり…その中から、無数の触角が、襲いかかってくる。


「10分くらい息をとめろ!」


ティフィンが、僕と平行して飛びながら、毒づいた。


「お前は、水に入らなかっただろ!」


後ろから、飛んでくる触角を避ける僕に、


「水中にいる妖精を、見たことあるか!」


と言うと、僕を囮にして、ティフィンは安全圏内に逃げていく。


「ティフィン!」


「心配するな!手足が取れないくらいの怪我なら、治してやるからな」


手を振りながら、上空に消えていくティフィン。


「畜生!」


覚悟を決めて、足を止めた。僕は濡れた髪を靡かせながら振り向き、触角達と対峙する。


2,30本の鋭い針のような触角が、僕に向かってくる。


「チェンジ・ザ・ハート!」


僕の叫びに呼応して、2つの物体が飛んでくる。


触角よりも速く、僕の手に装着されると、トンファータイプから槍へと変わる。


「うおおおっ!」


槍を回転させ、盾のようにして、触角を受けとめる。


攻撃を弾いたけど、衝撃で僕は、地面を抉りながら、後ろに下がる。


「前へ!」


足の指に力を込めて、前に出る瞬間、槍は巨大な砲台に変わる。


バスターモード。


「そこ!」


再び触角が襲いかかってくる前に、盛り上がり滝のようになっている水面に向かって、引き金を引いた。


光のドリルが、水面を貫く。


「チィ」


僕は舌打ちをした。


明らかに、威力が落ちている。魔力がないからだろう。一撃で仕留められない。


「だったら…直接!」


バスターモードから、二本の棒に戻ったチェンジ・ザ・ハートをクロスし…ライトニングソードに変える。


そのまま、袈裟切りの構えで、僕は突進していく。


触角を斬り倒し、雷鳴を轟かせ、湖に向かってジャンプする。


水面に突き刺したライトニングソードから、電流が湖全体に走る。


僕は、足で水を踏まないように注意した。


今の僕は、普通の人間である。


水に触れて、感電したら、動けなくなる。


いや、下手したら自爆だ。


湖がスパークする。


水面が乱れ、激しく騒めくと、いきなり水しぶきが上がった。


その中から、飛び出してきたものは、湯で上がった巨大な蟹だった。


「蟹?蛸じゃなかったのか!?」


驚く僕に向かって蟹は、香ばしい臭いをさせながら、あろうことか…真っ直ぐに突進してくる。


「蟹は、横歩きだろが!」


僕は、ライトニングソードを突き出し、そのまま蟹に向かって走る。


「固い!」


予想以上に、蟹の表面は固い。一番柔らかいと思われる腹の部分なのに。


突き刺さらないことに、苛立つ僕の死角から、巨大な鋭い爪が襲いかかる。


「赤星!」


上空からのティフィンの注意に、僕は咄嗟にライトニングソードをトンファータイプに変えた。


2つの爪を、トンファーで受けとめた。


その瞬間、凄まじい力が僕の全身にかかった。


このままでは、押し潰される。


本能で、そう判断した僕は、トンファーを爪に引っ掛けたまま、後ろにジャンプした。


全長10メートルはある巨大な蟹は、泡を噴き出して、怒りを露にする。


「チェンジ・ザ・ハート!」


トンファーは凄まじい勢いで回転し、爪を破壊した………と思った瞬間、爪は裂け、無数の触角に変わった。


そのまま、僕に向かって、針のように鋭くなって飛んでくる。


「何と、でたらめな!」


僕は、前に飛び込んだ。


間一髪で触角を避けると、蟹の懐に入る刹那、トンファーをライトニングソードに変えた。


「今度こそ!」


腰から上に捻りを加え、ライトニングソードを回転させる。


「無突き!」


かつていた…ブラックサイエンスのサーシャから、教えて貰った技。


無突きに回転と、電流を加えた強化型だ。


突き刺さった腹からヒビが入り、電流が血管のように、蟹の全身に駆け巡る。


中身まで湯で上がるのに、時間はかからなかった。


変な形で固まり、丸焼けになった蟹の化け物から漂う臭いを嗅いで、ティフィンは驚喜した。


「美味しそう!」


激しく息をして、まだ緊張がとれない僕に向かって、ティフィンは上空から降りて来て、一言そう言った。


「早く切ってよ」


顎で、ライトニングソードを示すと、ティフィンは目で促した。


「た、食べるのか?」


目を丸くした僕に、ティフィンは舌なめずりをしながら、頷いた。


「勿論!こいつは、ご馳走よ!この大陸のグルメマップに載ってるのよ」


「グルメマップ……あはは…」


そんなものがあるとは…引きつる僕に、ティフィンは腕を組んで、説明する。


「こいつは狂暴で、硬い甲羅をしてるけど…倒せないことはないわ。何とかなると思ってた」


僕ははっとした。


「ま、まさか…こいつを食べたい為に…僕を…」


ティフィンは我慢できなく、ライトニングソードで貫いた腹部分の隙間から、身を取出し食べる。


「それもあるけど…こいつがレアなのは…棲んでる場所よ」


ティフィンは、僕の肩越しに、向こうを睨んだ。


「もう見えるはずよ。この湖を抜けたから…」


僕は、ティフィンの視線の先を振り返った。


湖の向こう岸にいた時は、ただの草原にしか見えなかったのに…。深い霧が、目の前を覆っていた。


「何も見えないけど…」


僕は目を凝らしたけど、霧の向こうは見えない。


「これは、水のスクリーンよ。一歩前に出たらいい」


僕は言われるまま、一歩前に出た。


「な!」


唐突に、目の前に広がる…ただの荒れ地。


岩しかない世界の向こうに、天まで積み上げたような石の建造物が、聳え立っていた。


それは、三途の川で、子供が積み上げているという…石の山に見えた。


ただ大きさは、比べものにならない。


「あれが…魔王レイの居城にして、牢獄よ」


ティフィンは僕の肩に止まり、頭の上にもたれた。


「あれが…」


異様に漂う死臭がした。


生というものをまるで、感じない。


「かつて魔王ライは、レイと彼の配下の魔神を皆殺しにしたわ。だけど…不死であるレイだけは、この地に幽閉された。殺された魔神達は、ゾンビよりも腐り…今は、ただの悪霊になっている」


僕の全身に鳥肌が、立った。


気配はないのに、殺気で溢れかえっている。


「この地に、命ある者が入れば…忽ちに、殺されるわ。生きてはいけない土地だから…」


僕は、ライトニングソードを握り締めた。


「赤星!覚悟はいい?ここから、城までの数10キロは、死んだ魔物の巣よ!休む場所もない!だけど、魔王と戦う力を残しておかないと、いけない」


「みたいだな…」


僕は大きく深呼吸した。


いつのまにか、城まで数万…いや、わからない程の骸骨の群れが、歩く隙間もないくらいに、僕の前にいた。


「無双より…ひどいな」


僕は、ライトニングソードをバスターモードに変えた。


「いくぞ!すべて凪ぎ払ってやる」


僕が一歩前に出るのと、骸骨の群れが襲いかかってくるのは、同時だった。


「傷や、ある程度の疲れなら、あたしがとってやるから!」


ティフィンは、僕のTシャツの中に、潜り込んだ。


洋々な形をした骸骨が一気に、雪崩のように押し寄せてくる。


「いくぞ!」


バスターモードの引き金を、数回弾いた。


光のドリルが、骸骨の群れに一瞬の道を作る。


僕はライトニングソードに戻すと、刀身に雷を纏ったまま、その道に突入した。





「来たか」


その様子を、石の牢獄の上で見下ろしていたレイは、ほくそ笑んだ。


上空に浮かぶ分厚い雲も、すぐ上にある。


「力を失った…ただの人の身で、どこまでできるか…。見ものだな?フレア」


レイが振り返った…玉座の間に、鳥かごに入れられたフレアがいた。


全身を包んでいる炎も、消えそうだ。


力が衰えながらも、フレアはじっと、レイを睨み続けていた。


「フッ…気丈な女よ」


レイはマントを翻すと、ゆっくりとフレアに近づき、


「ライにして…最高傑作とも、言わしめた…炎の魔神。姉のリンネと、妹のフレア。姉は、激情の業火。妹は、蛍火……といわれていたが…」


レイは膝を曲げ、顔を檻に近付けると、にやりと笑い、


「やはり…炎の女…触ると火傷しそうだな。ハハハ!」


立ち上がりながら大笑いし、檻から離れた。


「おのが、炎が燃え尽きるまで、ここにいるがよい」


レイは、玉座の間から煙のように消えた。


フレアは一言も発さず、檻の中から見える灰色の空を、ただ見つめ続けた。


その空の下で、戦っているだろうと思われる赤星のことを心配しながら。




「憐れな子…」


レイが去った玉座の間に、灯りが灯った。


それは、微かな蝋燭の揺れのようなものだったが…すぐに、人の形をとった。


フレアはその気配にはっとして、炎を凝視した。


「あなたは、もともと…戦闘向きではない。戦闘タイプは、あたしの方なのに」


「姉さん…」


檻の前に立つ…炎の騎士団長、リンネ。


リンネはか細い腕を、檻の隙間から差し入れた。手の平が、フレアに触れた。


「昔は、ひんやりして冷たかったのに……今は、こんなに温かい」


リンネは、悲しげに微笑んだ。


「これは……あたし達には、本当は生まれない…気持ち」


リンネは、フレアの目を見て、


「私達が、抱いてはいけないもの……!」


リンネの表情が変わる。それと同時に、フレアの頬から煙が発生した。


しかし、フレアは視線を逸らさない。


リンネはすぐに、檻から腕を抜いた。


フレアの頬に、手の平の形で焼き印ができた。


「美しい顔が、台無しね」


リンネは、申し訳なさそうな顔を一瞬したが…すぐに、怒りの表情になり、叫んだ。


「王の慰め役として、作られたお前が、王の敵になってどうする!」


リンネの右手が、鞭のようになって檻の隙間から入ると、いきなり先がしなり、フレアにビンタした。


「あたし達は、もともと一つだった!王に、表面上しか忠誠を誓わなかったネーナに代わる…新たな炎の女神になる為に!」


ビンタは、何度も続いた。


「だけど、あたし達は女神になれなかった!それは、なぜ?」


ビンタされながらも、フレアはリンネを見つめていた。


「それは…そうよ!その顔よ!あたし達は、あまりにも、ティアナに似ていたからよ!」


リンネとフレア…二人の魔神は、魔王ライによって、2つに分けられた…1人の女神。


美しさは、フレア。強さは、リンネ。


「だけど、今は本当のティアナ…レイラがいる。もうあなたは、いらなくなかった…」


リンネは、腕を檻から抜いた。


「ただ似せた人形は、役目を終えたの。だけど…」


リンネは、フレアを見下ろした。


火傷だらけになっても、フレアの表情は変わらない。ただ…じっとリンネを見つめる。


「フン」


リンネは鼻を鳴らすと、再び腰を屈め、フレアに顔を近付けた。


「あなたの体は、いるのよ。魔王によって、分けられた2つの体を戻せば、あたしは女神に戻れる!炎の女神に!」


リンネの全身を包む炎が、燃え上がる。


「あなたの意識はいらない!力だけを、あたしに戻して!」


炎はさらに、燃え上がり…リンネは、フレアに手を差し出した。


「あんたを、あたしの炎で包んだら…すべてが終わるわ」


「いや」


呟くようなか細い声だったが、否定する力は強かった。


「熱い!」


炎の騎士団長であるリンネが、フレアに触れた瞬間、あまりの熱さに、思わず手を引っ込めた。


「何なの!この熱さ!」


フレアは、リンネを見つめ続け、


「あなたには、わからない」


見つめ合う姉妹。


冷たい石造の部屋で、無言の二人だけが、熱を帯びていた。


やがて、リンネはゆっくりと背中を向けた。


「別に…もういいわ」


リンネの炎が、鎮火していく。


「姉さん…」


「ここで、燃え尽きるがいい」


リンネの体から炎が消えていくごとに、闇に同化していく。


「だけど…」


完全に消える前に、リンネは振り返った。


「あんたの愛する男は、ここまでたどり着けない。途中で、死ぬわ…。御愁傷様」


そう言うと、笑いながら、リンネは玉座の間から消えた。


1人残ったフレアは、鉄格子を掴み、何とか溶かして、脱出しょうとしたが…何度やっても、無駄だった。


「赤星様…」


赤星といる時は....できるかぎり、言葉を発するのは、やめていた。


恥ずかしいのもあったが…この人とは、すぐに離れる運命だともわかっていた。


この地にいるのは、バンパイアキラーの意味を知る為。


それは、アルテミアの為。


赤星の口から、ちゃんと聞いた訳ではないが、フレアにはわかっていた。


ごくたまに、口にするアルテミアに関しての話…それを話す時の…微かな躊躇いと恥じらいが、今の自分の気持ちに似ていた。


魔物である自分が、人間である赤星を好きになるなんて…それだけで、あり得なかった。


フレアは、玉座の間を見渡し、改めて...決意を新たにした。


ここは、目的の地にして、もともと赤星とは、最後になる場所だった。


一緒に旅を続ける訳には、いかなかった。


今、力を失った赤星にできること。


リンネは、自分が炎の魔神であることに、喜んだ。


なぜなら、赤星も同じ炎の属性だからだ。


フレアの気持ちは決まった。


あとは、赤星がこの城までたどり着けるかだ。


だけど、心配していなかった。


(あの人は来る)


フレアは、確信していた。






「ライトニングウェーブ!」


僕は、ライトニングソードを横凪ぎに払った。


雷撃の衝撃波が、三日月の形をとりながら、骸骨の騎士を斬り刻む。


一瞬は、道が広がるが…すぐに、大軍に道を埋められた。


「ほ、ほとんど…前に進まない…」


激しく息をする僕の背後から、骸骨の騎士が剣を振り上げて、襲い掛かる。


「クソ!」


僕は回転して、ウェーブを放った。また骸骨はいなくなるが、すぐに新しい骸骨が隙間を埋めた。


空間さえ斬れるライトニングソードを持っている為、幽霊である骸骨も斬れるが、如何せん…数が多すぎる。


ライトニングソードで斬れる間合いだけを残し、骸骨の騎士達は完全に、僕を包囲していた。


「赤星…やばいよ」


僕のTシャツの中で怯えるティフィンに、話し掛ける余裕もない。


息が上がってきた。


突入して、三時間くらい。


万近くの骸骨を斬ったけど…減ってるようには見えない。


城は見えるが、そこまで骸骨でぎっしりだ。


(空を飛べたら…)


この大陸でなければ、空を飛ぶためのアイテムを召喚できたのに…ここでは、カードシステムは使えない。


少しふらついた僕に、ティフィンは胸に手を当て、回復魔法をかける。


「ありがとう」


何とか体力は、回復したが…これをずっとやっても、前に進まないし、いずれ体にガタが来る。


「どうする?」


ライトニングソードを構え、じりじりと進もうとする僕に、プレッシャーをかけるように、少しだけ骸骨の群れが、僕に近づく。


またライトニングウェーブを放つが…同じことの繰り返しだ。


(策はないのか!)


自分自身に問い掛けたが…答えはない。


「チッ」


舌打ちした僕は、一か八かで、このまま群れに突進しょうかと、ライトニングソードを握り締めた。


「うおおお!」


雄叫びを上げ、突進しょうとする僕の頭の中に、声が響いた。


(チェンジ・ザ・ハートを使うのです!かつて、あなたが海を渡った時を、思い出して)


その声に、僕ははっとなった。


それは、自分から戦うことを決めたあの日。


天空の騎士団に囚われた明菜と、アルテミアを助けに向かう時…。まだ僕が、弱かった時。


「チェンジ・ザ・ハート!」


僕は、ライトニングソードから槍へと変えると、それをフリスビーのように、上空へ飛ばした。


チェンジ・ザ・ハートは、凄まじい勢いで回転し、こうを描くように僕に戻ってくる。


その間に、骸骨達を蹴散らしながら。


「いくぜ!」


僕はジャンプし、チェンジ・ザ・ハートに飛び乗った。


「ぎゃあああっ!」


断末魔のような叫び声を上げる骸骨の群れを見下ろしながら、僕はチェンジ・ザ・ハートの上…回転する支点に、足を置いて、バランスをとっていた。


下から、剣を投げ付けてくる者もいたが、チェンジ・ザ・ハートが弾いてくれた。


「赤星!」


ティフィンが、前を指差して叫んだ。


「キィィイイ!」


奇声を発しながら、骸骨の鳥が飛んでいく。


「骨だけで、どうやって飛んでるんだ?」


鳥は、鋭い嘴を向けて飛んでくる。


近づいてくると、その異様な大きさに気付いた。


翼を入れると、十メートルはある。


「邪魔だ!」


チェンジ・ザ・ハートの軌道上を避けて、接近する巨大鳥の嘴が、回転するチェンジ・ザ・ハートの外円をこえたと見た瞬間、僕は両足を調節して、チェンジ・ザ・ハートを少し上に向けた。


チェーンソーのように回転するチェンジ・ザ・ハートが、鳥の首筋を削り、切り取った。


鳥の嘴が、あと数センチで刺さる手前だった。 


しかも、鳥は一匹ではない。


「構ってる場合ではない」


僕は両足を使い、チェンジ・ザ・ハートを旋回させた。


少し遠回りにはなるが、何とかして城に入るのが、先決だ。


「ティフィン!顔を伏せてろ!」


僕は城を支えている石の壁向けて、チェンジ・ザ・ハートごと体当たりをした。


表面が崩れただけで、穴は開かない。


仕方なく、何度かぶつけようと、壁から離れた時、骸骨の鳥の群れが迫ってきた。


「しつこい!」


僕はもう一度ぶつかってから、壁に張りついて、鳥達を待った。


鋭い嘴を突き出して、僕にまっすぐ向かってくる。


僕は心の中で、にやりと笑った。


できるだけ引き付けて、僕はチェンジ・ザ・ハートの動きを止めた。


浮力がなくなり、下に落ちる僕は、すぐに槍にしたチェンジ・ザ・ハートを壁に突き刺した。それでも、二メートルは落ちた。


頭の上で、勢い余って壁に嘴を突き刺した五匹の鳥達。その衝撃で、突き刺さった壁にヒビが入った。


僕は何とか、チェンジ・ザ・ハートにしがみ付き、足を絡めて、突き刺したチェンジ・ザ・ハートの上に立った。


そして、しなる力を利用して、ジャンプした。


「ライトニングソード!」


突き刺ささっていたチェンジ・ザ・ハートが分離し、僕の手元と交差すると、ライトニングソードに変わり、落ちるスピードも利用して、鳥達の首を切り裂いた。


そして、落下する僕はライトニングソードを投げ、再び槍にすると、円盤状に回転させた。僕を乗せると、そのまま嘴の刺さっている壁目がけて、体当たりした。


石の壁が崩れ、僕は柱の中に突っ込んだ。


鳥達の首が、瓦礫とともに落ちていく。


「ここは…」


真っ暗な空間に、僕はチェンジ・ザ・ハートをホバーリング状態で、空中に停止させた。


開けた穴はすぐに塞がり、完全な闇に変わった時、灯りがついた。


それは、松明の灯りだった。


「何?」


僕は、上下を見回した。


地上から、天へと昇る…巨大な階段が、筒状の石の壁にそって、続いている。上は見えない。


僕が浮かんでいるのは、すっぽり抜けた螺旋階段の吹き抜けだ。


落ちたら、下まで真っ逆さまだ。


階段に着地すると、深呼吸をし、息を整えた。


「赤星…」


ティフィンが、心配そうにTシャツから、顔を出した。


「大丈夫!心配するな」


螺旋状に、松明も続いている。


見上げる僕の目の前を一瞬、何かが通り過ぎた。


暗闇の底で、甲高い金属音がしたと思ったら、また何かが上がっていく。


「なるほど…もうズルはゆるさないと…」


それは、巨大なギロチンだった。


螺旋階段を真ん中を、ギロチンが落ちては、上がり…落ちては、上がりを繰り返している。


「フゥ…」


僕はもう一度、息を吐くと、ライトニングソードを握り締めた。


「来たか…」


上から、カシャカシャと音を立てながら、数えきれない骸骨の魔物が降りてくる。


下からも、音がした。


「いくぞ!」


僕は、ライトニングソードを突き出した。


そのまま、階段をぐるぐると上っていく。


人一人がやっと通れるくらいしか、幅がない。しかし、それがちょうどよかった。敵は、前か後ろしか来ない。


先頭の骸骨が、近づいてくる。


「赤星!」


ティフィンが叫んだ。


真横を、ギロチンが落ちていく。


「うおおおっ!」


ライトニングソードが輝き、雷鳴を放ちながら、僕は先頭の骸骨に突き刺し、横の空洞に蹴り落とした。


上に上がったギロチンが再び落ちるのが、同時だった。骸骨に突き刺さり、さらに下へ落ちていく。


道が狭いから、一対一になるのが救いだ。


下が来る前に、できるだけ上にいかないといけない。


剣を持つ骸骨達と、僕は剣を交えながら、一歩一歩踏み締めながら少しでも前に上がった。


ティフィンは、僕の背中に回り、しがみ付いていた。


震えながらも、微かだが…僕の身に起こっている変化に気付いていた。自分では、気付いていないことを。


(魔力を…感じる)


まだ漂う程度だが…ティフィンは僕の体から、魔力を感じていた。


(魔王の封印を押している?)


ティフィンは、その微かな希望に、しがみつく付く手にぎゅっと力を込めた。


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