第63話 囚われもの
「兄貴!」
叫んだように、メロメロは思ったが…本当は声なんて、ほとんど出ていなかった。
だけど、突風は…月の方から吹いてきた。
風は、フレアと不動の間を吹き抜けた。
「ほお…」
感心する不動の腕が、真ん中で切断され、風はフレアを抱き抱えると、不動の前で止まった。
「お前が、赤星浩一か…」
フレアの首筋を掴んだ腕は消えると、不動の腕の切断面から、新しい炎が燃え盛り…すぐに新しい腕に変わった。
「…フレア…大丈夫か?」
喉が焼けたのか…声がでないフレアは、ただ頷いた。
何とか大丈夫そうなフレアに頷くと、僕は心の中で胸を撫で下ろしながら、前方に立つ不動を睨んだ。
炎の塊であり、顔の部分が…温度差だろうか…黒くなった部分が、人の顔に見える不動は、微笑んだように見えた。
「兄貴!気を付けて!こいつは、騎士団長メロ!さっきまでの雑魚とは、違うメロ!」
メロメロの忠告が耳に入ったが、僕は負ける気がしなかった。
不動に対峙すると、僕は無防備なままで一歩、間合いを詰めた。
「さっきの言葉…そっくりそのまま、お前に返そう」
僕は両手を下げたまま、近づいていく。
「お前と、俺とはレベルが違う…」
「フン!少し前までは、ただの人間だった坊やが、よく言う」
不適な笑みを浮かべた不動の左右を、後ろから回転する2つの物体が、通り過ぎた。
それらを両手で受けとめると、僕は胸元でクロスさせた。
「ライトニングソードか」
不動は目を細めると、両手を突き出し、手の指を上に向け、初めて構えのようなものを取った。
その瞬間、
「なに?」
僕は、目を見開いた。
「Blow Of Goddess」
不動は、呟くように言った。
「フレア!メロメロ!」
僕が叫ぶのと、地面が激しく揺れて裂けるのが、同時だった。
「ひぇ~!」
メロメロの足元も崩れ、地面の裂け目に足をとられる。
「兄貴!」
絶叫とともに体が沈む刹那、フレアが飛んできて、メロメロの脇に腕を差し込むと上昇し、ジグザグに空を飛んだ。
フレア達を追うように、森全体が盛り上がり、マグマの龍が、空を覆い尽くした。
「何だと!」
地の底から現れた巨大なマグマの龍に押され、僕は空高くに無理やり上昇させられる。
ライトニングソードで、龍の鼻先を受けとめているが…火花を散らすだけで、斬れない。
いや、斬っているのだろうが、噴き出す量が尋常ではないのだ。
森だった半径数十キロの緑が完全になくなり、マグマの湖に沈んでいく。
その中には、森にいた動物だけでなく、僕達を襲っていた魔物達も飲み込まれ、燃え尽きていく。
空に逃げた者も、無数のマグマの龍に襲われ、焼き裂かれていく。
あらゆる生物の断末魔の中、不動の笑い声が、空にこだました。
「我が主ライによって、さらに進化した今の我は、炎の女神すら、凌駕する」
無数の龍は、すべて不動に姿になると、それは空中で、もつれ合い、絡み合い――――1つの火柱になる。そして、火柱は、巨大な不動そのものとなり、
その体の中で、空中に逃げた魔物達が燃え尽き、消滅していく。
僕に襲い掛かっていた龍は形を変え、強大な手のひらとなると、ライトニングソードを構える僕を、巨大な指で包み込んだ。
二百メートル程の身長となった不動の腕の中で、マグマは血液のように激しく巡回し、僕はその中で…溺れていた。
竜巻のように回転する血液の勢いに、僕は思わずライトニングソードを離してしまった。
不動の腕から、ライトニングソードだけが零れ落ち、マグマの地面に突き刺さった。
「時空間さえ切り裂くライトニングソードを…ククク」
不動は笑った。
「例え、炎に耐えられる貴様でも!息ができなければ、生きることはできまいて!」
服が燃え、全裸になった僕は、為す術がなく…ただもがき苦しむ。
「兄貴!」
龍達から、何とか逃げおおせたフレアとメロメロは、腕の中でもがく僕に叫んだ。
「雑魚どもが、無駄だ!赤星浩一の最後を見取ってから、お前達も死ね!」
巨大な腕を振るう不動に、フレア達は近づくことさえできない。
「あ、兄貴…」
絶望の表情を浮かべるメロメロと違い、フレアは攻撃を避けながら、何かを探していた。
下をちらちら見るフレアの行動に、メロメロは気付いた。
「姉さん…うわああっ!」
目標を見つけたのか、フレアは一気にマグマの地面に向かって急降下する。
「姉さん!」
近づいていくマグマの恐ろしさと熱気を感じ、身を強ばらせたメロメロの視線の先に、フレアの目標を見つけた。
「ライトニングソード!」
うぐぅ………。
マグマの中、僕は意識を失った。
視界が赤から…闇へと変わる。
何もない闇。
「おいおいおい…炎の魔王ともあろう者が、炎の中で、やられてどうする?」
音もない無音の闇の中で、声がした。
(お前は…誰だ?)
「ククク…」
声は笑った。
「お前は…お前だよ」
(お前?)
「そうだ」
その時、僕は気付いた。
声は聞こえている訳ではなく、自分の中に響いているのだ。
(お前は…)
僕は、目を見開いた。
「そう…俺だ!」
僕の目の前に、僕がいた。
赤き瞳を持つ僕。
「力を解放させろ!力を!魔王の力を!人間なんて、やめちまえ!そうすれば、この世界は、お前のものになる!もといた世界では、不可能だったことができるだ!」
赤き瞳の僕は、嬉しそうに興奮している。
(僕は…)
「何だって、望みが叶う!そうだ!そうだろ!お前が、好きなアルテミアだって、好きにできる!むちゃくちゃにしてやれるんだ!」
(アルテミア…)
僕は呟いた。
「そう!アルテミアだ!アルテミアだけじゃないぜ!どんな女でもだ!明菜ってやつも、みんなみんなだ!」
(明菜…)
「解放しろ?この世界でも、いい子でどうする!壊せ!奪え!犯せ!殺せ!破壊しろ!お前は、心の中で、それらを望んでいるはずだ!」
(…)
「なぜ、力付くで、ものにしない?これ程の力がありながら…馬鹿だぜ?アルテミアがほしいんだろ?」
(アルテミア…)
目をつぶると、アルテミアが浮かぶ。綺麗なブロンドの髪に…笑顔。
(笑顔?)
笑顔じゃない。
最後見たのは、泣き顔だった。
(泣いていた…アルテミアは…)
それを思い出すと、僕の瞳から、涙が溢れた。
「涙?涙だと!魔王が、なぜ涙する必要がある?」
「それは…」
僕は再び、目を見開いた。
そして、赤き瞳の僕を見つめ、
「大切だからだ!」
「たかが、女一人が大切だと!」
驚いたように、目を丸くする赤き瞳の僕に、僕は微笑んだ。
「確か、にむちゃくちゃにしたいという衝動は、あるさ。だけど…大切にしたいという気持ちも、大きいんだ」
赤き瞳の僕は、せせら笑った。
「お前は、馬鹿か?」
「ああ」
僕は頷き、赤き瞳の僕の首に手をかけた。
「何をする!」
「お前も、僕だ。僕自身だ!欲望も衝動も…僕の望みの一つだ」
僕は、強く首を閉めた。
「魔王になれるのに…。綺麗事で、誤魔化すつもりか…」
赤き瞳の僕の表情が、苦しくなる。
「綺麗事かもしれない…。だけど、それもすべて含めて…僕は、人間なんだ!」
赤き瞳の僕が、消えていく。
「天使でも…悪魔にでもなれる…。いや、どちらも持っているのが、人間なんだ!」
僕の手の中で、僕が消えていく。
「邪魔するな!単なる欲望が!」
僕は、拳を握り、感覚を確かめた。
「こんなところで、死ねるか!」
夢から無理矢理目覚めるように、もう一度瞳を見開くと、視界は真っ赤であった。
「兄貴!」
不動の攻撃を避けながら、マグマの向こうに見えるフレアとメロメロ。
メロメロの手には、ライトニングソードがあった。
僕は叫んだ。
「モード・チェンジ!」
マグマの中でも、燃え尽きない指輪が輝き、光が僕の全身を包むと、鎧が体を覆った。
「来い!」
手を伸ばすと、メロメロの手からライトニングソードが飛び出し、マグマを突き抜けて向って来る。僕はライトニングソードを掴んだ。しっかりと、感覚を確かめるように、握り締めた。
(このマグマ全部が、不動の本体ではないはずだ!必ず、コアがあるはずだ!)
ライトニングソードに、僕の両手から伸びたファイアクロウが絡み付いた。
ライトニングソード華烈火。
ファイアクロウは、炎を斬り裂き、操れた。
「うおおおっ!」
雄叫びを上げると、僕はライトニングソード華烈火を回転させ、ドリルのようにして、不動の体内を移動した。
「馬鹿な!息ができないはずだ!」
不動は、唖然とした。
「導け!炎よ!真の不動のもとへ!」
僕は、物凄いスピードで移動し、迷うことなく導かれた。
一見すべて同じに見えるマグマの中の…小さな点。
二百メートルをこす巨体の中に、ある石ころ程の黒い点。
それを正確に、ライトニングソード華烈火は貫いた。
二百メートルの巨体から、ライトニングソード華烈火を突き出した僕が、飛び出してくる。
その先に、二メートルの不動が突き刺さっていた。
「ばかな…」
僕の後ろで、二百メートルの巨体は…人の形から、もとのマグマに戻り、崩れ落ちていく。
地上は、さながら…マグマの湖を化していた。
「魔王ライよ!我に最後の力を」
コアが粉々になる刹那、不動は手を伸ばし、ライトニングソード華烈火を掴んだ。
「何をする気だ!」
突き刺しながら、落下する僕に、不動は笑った。
「お前も、道連れだ」
「何?」
「兄貴!後ろ!」
メロメロが叫びながら、フレアとともに、僕に向かってくる。
「え?」
振り返った僕の後ろに、巨大な闇が立っていた。
いや、それは…全身を覆い隠すマントに、包まれた男だった。
「お初に、お目にかかる」
黒いマントが翻り、その中から人差し指が、ライトニングソート華烈火を掴む僕の右手…の薬指を触れた。
薬指には、指輪があった。
「まずは、力を封じよう」
「なっ!」
いきなり、全身の力が抜け、ライトニングソード華烈火を掴むことができなくなった。
僕の手から、ライトニングソード華烈火が零れ落ちた。
「ははははっ!」
その先に突き刺さったコアが、粉砕し…不動はライトニングソード華烈火とともに下に落ちながら、ただの炎に戻っていった。
「兄貴!」
僕は…空中に立つ男に、首を絞められ、落下は止められていた。
「フン!」
男は、気合いとともに、僕をほり投げた。
マグマの湖を飛び越え、その向こうに広がる草原に着地し、そのまま地面を抉りながら、数十メートル転がった。
砂煙が立ち上ぼり、衝撃の強さを物語った。
「兄貴…」
思わずフレアの腕の中で、身を乗り出したメロメロだが……そばから感じた視線に、身を震わせた。
「ああああ…」
声にならない声を上げ、視線の主を確かめたメロメロは、青ざめた顔を強ばらせた。
そんなメロメロに構うことなく、フレアはメロメロを抱いたまま、僕のもとへ飛んでいく。
一キロは飛ばされた僕のもとへ、フレア達が駆け付けた時には、僕の前にもう男は立っていた。
地面にめり込みながらも、何とか意識を保っている僕を見て、男は感心したように言った。
「ほお…力を封印したのに、まだ生きているのか…全身打撲?……そうか、この鎧が守ったか」
男は、僕の体を確認し、
「しかし!もう終わりだ」
にやりと笑うと、僕の全身を包んでいた鎧が、砕け散った。
「お前の魔力は、我が封印した。もう鎧を保つことも、できまいて」
男の言葉に、何とか起き上がろうとするけど、まったく動かすことができない。
「さてと…頂くとするか」
笑う男の口元から見える牙に、赤き瞳。
「バンパイアか…」
僕は、何とか顔だけを動かし、男を睨んだ。
「我の力となるがよい」
男が、僕に手を伸ばそうとした瞬間、男の背中が爆発した。
爆発は、何度も何度も起こったが、男は手を止めただけで、びくともしない。
「フレア…」
火の玉をぶつけているのは、フレアだった。
「やれやれ」
男はため息をつくと、振り返りざま、腕を曲げた。
そこに、フレアの蹴りが決まる。
しかし、男に変化はない。
「はああ!」
気合いを入れて、男の顔面や心臓に、正拳をたたき込む。
「兄貴!しっかりするメロ!今は、逃げるメロ」
倒れている僕に駆け寄り、抱き上げると、肩を入れて、僕を運ぼうとする。
「あいつは…一体…」
非力なメロメロは、僕を引きずるので、精一杯だ。
「あれは多分…魔王レイメロ」
踏ん張りながら、僕を連れていこうとするが、そんなに進まない。
「あれが、魔王レイ!」
「どうして、城が出てるのか、わからないけど…」
「だったら、話は早い!僕は…魔王に会う為に」
「駄目メロ!」
振り返ろうとする僕に、メロメロは叫んだ。
「魔王は、兄貴を殺すつもりメロ!やっぱり魔王になんて、会ってはいけなかったメロ」
「しかし」
「姉さんが、時間稼ぎしてくれているメロ!その間に!」
メロメロは、必死に前へ進む。
「分かったメロ!兄貴は、魔王より強いメロ!こんなケガなんて、治ったら、余裕メロ」
「聞き捨てならないな」
「!?」
顔を上げたメロメロの前に、気を失ったフレアを片手で掴んだ魔王レイが、立っていた。
「この程度の魔物で、足止めできると思ったのか」
メロメロの前に、無造作にフレアが投げ捨てられた。
「姉さん!」
「フレア…」
全身が切り刻まれ、血だらけになってしまったフレアを見て、何とか動こうとするが、力が体に伝わらない。
「さあ…頂こうか。お前の力を!それを、手に入れれば…我は、ライを超えることができる」
フレアを踏みつけ、前に出たレイを見て、震えていたメロメロの顔が変わる。
きっとレイを睨むと、僕を地面に置き、前に出た。
「その汚い足を退けろメロ!」
「ほお…」
レイは目を細めた。
肩を怒らせながら、メロメロはレイに近づいていく。怒りが、体の震えを止めていた。
「よくも、俺の仲間を!こんな目にあわせてくれたな!」
いつもと口調も変わったメロメロに、レイは苦笑した。
「貴様のような低レベルの魔物が、我にそのような口をきくとは…」
「俺の名は、炎の盗賊団のメロメロ!てめえみたいなこの国に、幽閉されてる奴と違い!自由に溢れた大盗賊だ!」
メロメロは、レイを指差した。
「つまらん…」
レイはそう呟いた。
「てめえなんか!兄貴が元気になれば、すぐに倒されるメロ!……………………………うぐぅ」
「メロメロ!」
僕は絶叫した。
「あ、兄貴…」
メロメロが振り返った。その口から、血が流れていた。
レイの手刀が、メロメロの胸から背中を貫いていた。
「つまらん…。この程度の魔物を殺しても、何の足しにもならぬ」
メロメロの胸から抜いた手に付いた血を、一振りで落とすと、レイは僕に視線を向けた。
何の感慨もない…冷たい視線。
その射ぬくような視線に、僕は怒りを覚えた。
だけど、体が動かない。
「兄貴…」
胸に風穴を開けられたメロメロが、ふらふらと僕に近づき、何とか正座の形で、半身を上げている僕の胸に倒れて込んできた。
それを受けとめようにも、腕が動かない。
「知ってるメロ…兄貴…。バンパイアに血を吸われた者は…そのバンパイアの中で、生きることが、できる……そうメロ……」
「メロメロ…」
メロメロは、僕の胸に顔をつけ、かすれた声で話し続けた。
「俺は死なないメロ…。これからは、兄貴の中で生きるメロ…。兄貴…俺の血を吸って…元気になって…あいつを倒して…さあ、俺の血を吸って」
メロメロは最後の力を振り絞って、自分の首筋を僕の口元に、持っていった。
「兄貴…」
僕は目をつぶり、涙を流した。
泣くわけにいかない。
「兄貴…」
「メロメロ…」
僕は何とか口を開け、歯を首筋に当てた。
「さよならじゃないメロ…。兄貴…姉さんを頼む…」
最後の力を使って…自分から、牙に首筋を押し付けると、そのまま…メロメロの首は下がり、僕の口元から崩れ落ちた。
受けとめる術がない僕の膝の上で、メロメロは静かに眠りについた。
「愚かだな」
レイは、笑った。
声にならない声を上げ、泣く僕を見て。
「今のお前に、バンパイアの力はない…血を吸うこともできない」
僕の口の周りについたメロメロの血を見て、レイは鼻で笑った。
「お前も…死ね」
レイは、指先を突き出した。まばゆい光が、指先から放たれた。
僕には、避けることもできない。
為す術がない。
だけど、僕は目をつぶらない。
レイを睨みつける。
(死ねるか!)
心の中で、強く願った。
「何?」
その瞬間、レイの放った光線を、飛んできた物体が弾いた。
「チェンジ・ザ・ハート!」
僕の目の前に、弾いたチェンジ・ザ・ハートが飛び込んできた。
(動け!動け!指一本でいいから!)
チェンジ・ザ・ハートは、光線を弾くとすぐに、巨大な砲台に姿を変えた。
(メロメロ!力を貸してくれ!)
僕は歯を食いしばり、唾を飲み込んだ。
その時、唾とともに…歯についたメロメロの血がほんの少し、僕の喉に流れた。
僕の目が赤くなる。
「馬鹿な」
レイは、驚きの声を発した。
僕の手が上がり、チェンジ・ザ・ハートを掴んだ。
バスターモード。
「いけええ!」
僕は、引き金をひいた。
巨大な光と炎のドリルが、レイを直撃した。
ふっ飛ぶレイ。
僕の瞳の色が、消えた。
もう一度、引き金をひこうとしたが、もう動かなかった。
しかし、チェンジ・ザ・ハートの銃口は、レイに向け続けた。
「面白い!」
レイはとっさに、受けとめた右手が、焼けただれているのを確認して、嬉しそうに笑った。
「今、貴様を殺すのは、簡単だ!しかし…」
レイは、ゆっくりと僕に近づいてくる。
銃口を向け続ける僕に、レイは苦笑し、
「もう撃てまいて」
そう言うと、地面に倒れているフレアのそばに立った。
「少しの余興だ」
フレアを焼けただれた右手で掴むと、持ち上げた。
「その体で、これ以上何ができるか、見てみたくなったわ」
フレアを掴んだまま、空中に浮き上がる。
「この女を助けたければ、我が城に来い!」
「待て!フレアを離せ!」
僕の叫びを無視し、レイは空高く浮かんでいく。
「人の身と化した!その体でな」
「フレア!」
レイの姿は、すぐに見えなくなった。
チェンジ・ザ・ハートが、僕の手から落ちた。
足元に転がるチェンジ・ザ・ハートと、膝の上で眠りについたメロメロを見つめながら…僕は悲しさと悔しさで、ただ泣き続けた。
強くなった。
強くなったはずだった。
強くなれば、守れるはずだった。
だけど…強くなった今の方が、僕は誰も守れていない。
「メロメロ…」