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第62話 弱さと強さ

「何?ここは」


ブラックカードを使い、格納庫内部へテレポートしたはずの神流は、何もないただ暗黒の空間にいた。


広さも高さも…明かりもない。ただ…闇しか存在しない場所。


「どうなってるのよ!」


額に張りついたブラックカードをひっぺがえすと、もう一度テレポートしょうとしたが、エラーの表示が出た。


「くそ、くそ!」


ディスプレイを何度たたいても、反応がない。


「不用意に、テレポートなどするからだよ…新入り君」


神流の前に、螢のような明かりが灯り、目を凝らすと、人の形をとった。


「お、お前は!」


神流には、見覚えがあった。


鋭い爪を立て、襲いかかるが…男はひらりと、それを避けた。


「その姿…完全に、人を棄てたか…」


暗闇の中でも、サングラスをかけてうるロバートは、神流の姿を見て…呟いた。


六本の尻尾に、甲殻類を思わせる皮膚。それはもう、人間ではなかった。


まだ顔だけが、人の頃のままだったが…額には、ブラックカードの跡があった。


神流はもう一度、カードを額につけた。カードの表面が脈打った。


「まあ…自由か…」


ロバートはフッと笑った。


「てめえ!ここは一体!どこなんだ!」


鋭い爪を向け、威嚇するように言う神流に、ロバートは苦笑した。


「笑うな!」


苛つく神流に、ロバートは肩をすくめ、


「ここは…格納庫と、外の間にある狭間の空間さ。不用意に、格納庫内に入れないように、虚空の世界とつながっている」


「虚空の世界…」


ロバートは頷き、


「万が一、ブラックカードを手に入れた者や…魔物が入れないようにな。格納庫内に入れるのは、ティアナに選ばれた者だけ」


ロバートはブラックカードを示し、


「なぜ…先代の安定者が、ここに入らなかった…いや、入れなかったのか…」


ロバートの神流を見つめる視線に、神流は唾を飲み込んだ。


「それは…」


「それは?」


「この空間から、抜け出せなくなるからさ」


ロバートは、にやりを笑った。


その笑みの冷たさに、神流はぞっとした。


「不用意に、飛び込んだ者は…永遠に、闇を彷徨う…」


「お、お前だって、出られないだろうが!」


神流は、ロバートに向かって叫んだ。


ロバートはただ…笑みを浮かべ、答えない。


「出れる方法が、あるんだろが!だから、そんな余裕があるんだろが!」


「我々は…人を守る立場にいる。すべての人が、魔物と戦える訳ではないからな。だけど…」


ロバートは右手に、ドラゴンキラーが装備し…哀しげに神流を見た。


「人は…容易く、闇に墜ちる。快楽…強さ…欲望…。人は、独りでは生きられないのに…」


「あ、あたしを!そんな目で見るな!」


神流の絶叫とともに、最後に残っていた顔が盛り上がり…狐のような形に変わる。


そして、大きく裂けた口から、炎が放たれる。


ロバートは、それをドラゴンキラーで切り裂くと、神流の後ろまで、一瞬で移動した。


「人だったお前を、殺すのは忍びない…。せめて、この地で、独り…孤独を彷徨うがいい」


「な!」


神流が振り返った時、ロバートの前の闇に亀裂が入り、光が零れていた。


「空間を切れる能力があれば、ここから出れるが…お前はどうだ?」


ロバートの半身が、亀裂の中へ消えていく。


「待て!」


近づこうとする神流に、ロバートは笑みでこたえた。


「せめて…希望だけは残してやろう」


ロバートは右手を伸ばし、ドラゴンキラーを突き出した。


ロバートが消える瞬間、ドラゴンキラーの先だけが残り…針の穴程の綻びか、空間にできた。


「てめえ!」


近寄った神流の瞳より、小さな穴の向こうで…砂嵐ただけが見ることができた。


ドラゴンキラーを抜き、砂漠に降り立ったロバートは、後ろを一度振り返ったが…。


針の穴程の空間の綻びをもう…確認することはできなかった。


「終わったか…」


ロバートはすぐに前を向くと、砂嵐の中で立ち尽くすクラークを凝視した。


そして、その向こうに立つ異様な魔力を発している…西園寺に気付き、ドラゴンキラーを一振りりした。


「人は…強くても、弱くても…人でなければならない」


ゆっくりと、二人に近づいていく。


「そうでしたよね…師匠」


ロバートの言葉に呼応するかのように、ゆっくりとクラークが…振り向いていく。


その顔に驚きはなく、ただ寂しげに微笑んでいた。


「神流を…やったのか?」


近寄ってくるロバートに、クラークはきいた。


砂嵐はおさまり、灼熱の青空に変わった。


砂漠の天気は、きまぐれだ。


地平線まで続く一面の砂の上に、クラークとロバート、西園寺しかいない。


「いや…」


ロバートはクラークの目の前で止まり、クラークの肩越しに西園寺を見つめた。


「そうか…」


クラークはそう呟くと、ロバートの向こうに視線を向けた。


「助けにいかないのか?あんたなら、助けられるだろ」


ロバートはちらりと盲目の視線で、クラークが持つ次元刀を見た。


「フッ」


クラークは鼻で笑うと、次元刀を空中に差し込み、空間という鞘にしまった。


「あいつは、もう人間ではない。助けたところで、倒すことになる」


クラークは、ロバートに背を向けると、舞子を抱き上げている西園寺の方へ歩きだした。


「人間じゃない?」


ロバートは、クラークの背中に向けて、叫んだ。


「それは、あんたもだろ?」


クラークはこたえない。


「何を企んでいる?異世界から、ガキどもを呼び寄せ…挙げ句のはてに、化け物にしているだけか!」


クラークは、足を止めた。


そして、ゆっくりと話しだした。


「お前は、人という種を考えたことがあるか?」


クラークの言葉に、今度はロバートが言葉を止めた。


クラークは振り返り、ロバートの全身を見た。


「力を失い…愛する者も失い…視力さえも…。それに今は、命を削っているのか」


ロバートの右手に装備されたドラゴンキラーは…赤く光っていた。


「そこまで、しなければならない…人とは、一体何だ?」


クラークは、前を向いた。


「俺は、神に思い知らしたいのだよ。人というものをな」


「神だと?」


「そう…」


クラークは、自分の腕をさすり、


「俺が…まだ人間の内に」


そして、視線を西園寺に移した。少し目を細め、


「見極めなければならない…。人は、人として…これからも生きられるか…な」


フッと笑った。


「その為にも…俺はいかなければならない…」


今度は、空を見上げ、遥か彼方を見つめた。


「ロストアイランドへ」


「赤星君にか…」


ロバートもまた…遥か彼方にいると思われる赤星浩一の姿を、思い浮べた。


最後に会ったのは、数ヶ月前だが…もう何年も、会っていないような気がした。


気が優しく、普通の少年だった赤星が、誰よりも強くなっていく姿を、ロバートは近くで見ていた。


少年を、無理矢理戦わせたのは、自分かもしれない。


ただ女神の依り代としてなら、アルテミアが体を取り戻した後…彼はとっくに自分の世界に帰り、平穏に暮らしていたはずだ。


(それを止めたのは…俺にも責任がある)


ロバートもまた、クラーク達に背を向けた。


「今は…あんたにきいても、こたえてはくれない…いや、あんた自身にも、こたえは、でていないんだろ…」


自らの言葉の途中で、ロバートは、その場でテレポートした。


「どこに行く気ですか?」


ロバートが消えた後、西園寺はクラークにきいた。


「…大したところではないよ」


クラークは少し目をつぶった後、西園寺の方を見、微笑んだ。


その笑みの優しさに、西園寺は少し不安を覚えた。


「少し留守にする。その間、防衛軍を頼む………それと…」


クラークは、西園寺に抱き抱えられている舞子に、視線を落とし、


「彼女も頼む」


「はい」


西園寺は頷き、クラークも頷いた。


そして、西園寺に背を向けると、ブラックカードを取出した。


「できれば…彼女には、自分の世界に戻ってほしい」


「え?」


予想だにしないクラークの言葉に、西園寺は驚いた。


「君と彼女…二枚のブラックカードをフル活用すれば…1人は、戻れるはずだ」


クラークは振り返り、


「彼女は、この世界に向いていない…」


寂しげにそう言うと…クラークは、テレポートした。



しばし、呆然としてしまった西園寺の腕の中で…舞子が目覚めるのは、もう少し後のことだった。








永遠なる闇。


光が存在しない絶望の中で、一つの玉座が浮かんでいた。


漆黒の玉座は、闇よりも黒く重さを感じる質量感が、まるで…闇に突き刺さっているような印象を与えていた。


その漆黒の闇に、さらなる漆黒の闇が座っていた。


「フン」


闇は、鼻を鳴らすと…低く、そして高い声で、口を開いた。


「隠れておらずに、姿を見せたら、どうだ?」


その言葉に、呼応したのか…小さな蝋燭のような炎が、闇に灯った。


それはやがて…大きくなり、人の形をとる。


そして、玉座の前に跪いた。


「ライの魔物が、何のようだ?」


跪く炎は、さらに深々と頭を下げた。


「我が主ライの命にて、参上つかまつりました。お初に、お目にかかります。我が名は、不動と申します」


今度は、ゆっくりと、不動は頭を上げ、


「魔王…レイよ」


「フン」


レイはもう一度、鼻を鳴らした。


「我はもう…魔王で非ず」


そう言うと、レイは目を見開いた。


すると、一瞬にして明かりがついた。玉座は数段上にあり、不動が跪いているところは、血のような赤い絨毯の上だった。


謁見の間。


五十畳はある大理石でおおわれた広間で、レイは足を組み、玉座から不動を見下ろしていた。


オーロラのように、揺らめく炎の体を硬直させて、不動はただレイの言葉を待っていた。


レイは、赤く輝く鋭い眼光を不動に向けながら、不機嫌そうに話しだした。


「用件は何だ?何もなく、あやつがわざわざ、お前をここに、寄越すことはあるまいて…」


不動は跪いたまま、摺り足で、一歩前に出た。


「もうご存知かと思われますが…この地に迷い込みし者についてです」


「フン!」


レイはまた、鼻を鳴らすと、


「あの…人間崩れのバンパイアか?」


「そうでございます」


不動は決して、レイの目を見ようとはしなかった。


そんな不動を、レイはただじっと見つめ、


「あやつが、気にしておるから、試してみたが……」


一度、言葉を切り、


「あの程度の男!あやつはなぜ、気にしておるのだ?」


「それは…」


「あやつが、バンパイアキラーとでも言うのか?」


バンパイアキラーの言葉に、少し動揺を見せた炎の揺らめきに、レイは口元を緩めた。


「ほう…」


レイは感心したように、わざとらしく頷くと、無言の不動の横に一瞬で移動した。


跪く不動の横に立ち、見下ろしながら、呟くように言った。


「…だとすれば……ククク…」


レイは笑った。


「あやつは、弱くなったのか?」


黒いレーザーのような革の鎧を身に纏い、背中まである白髪に、顔は精悍でありながら、見た目は二十代前半にしか見えない。


「あやつは、弱くなったのかと!きいておるのだ!」


不動は、頭を下げたままこたえた。


「いえ…ライ様の力は、衰えてなどございません」


「だとしたら!なぜ、あんなガキを気にする!あやつは、魔王なのだぞ!この私を…実の父をだ!こんな地に、幽閉し!それだけではなく、妖精達をも!この地にしか、存在できなくしておる!」


不動の横で、怒りを露にするレイに、不動は終始無表情だ。


「それは、人に魔法を使えなくする為…」


「フン!だとしてもだ!結局、人は、魔法を使っているだろが!」


レイの叫びに、不動は深々とまた頭を下げ、少し間をあけると、


「…今回は、わが主…ライの命を伝えに来ただけでございますれば…」


不動は顔を上げ、レイの顔を見上げ、


「赤星浩一には、手を出すな…」


そう言うと、また頭を下げ、


「それだけで、ございますれば…」


跪いたまま後ろに下がり、立ち上がると、また頭を下げ…その場から、立ち去ろうとする不動。


「待て!」


レイの低く…唸るような声が、不動を止めた。


レイは、不動の正面に体を向けると、


「あやつは…いや、お前達は、我を舐めておるのか?」


「いえ…。そのようなことは、決して…」


また頭を下げる不動に、レイはゆっくりと近づく。


「もし、我が…この言葉は、きけぬと申したら…どうするつもりだ?」


レイの言葉に、不動はこたえない。


「この地に、幽閉されているのはいえ…まだライ以外に、負ける気はせぬわ」


不動は頭を下げたまま、動かない。


「あやつは一体、何を考えおる。精霊達も幽閉し…人の力を奪うと、言っておきながら…」


レイの両手が、赤く輝き出す。


「カードシステムなるものを作った人間の女と結ばれ…あまつさえ、その女の間に子供をつくり…」


レイの手刀が、不動に向けられる。


「そやつは、あろう事か!我らの敵に、なっているというではないか!なぜ、すぐに殺さぬ!あやつには、容易いなはずだ!それとも、何か!あやつは、自分と同じ…」


レイの手刀が、不動に突き刺さる寸前に、どこからか声がした。


「それに関しましては、しばしのご猶予を」


レイの動きが、止まる。


驚いたように、目を見開き…わなわなと全身を震わせた。20代を思わせる顔に、皺が走り…一気に老け込む。


レイの右横に、いつのまにか立っていた。


「お初にお目にかかりまする…我が名は、バイラ…」


バイラは、跪いた。


「バイラ…だと…」


レイの震えは、止まらない。


「人も…裏切った女神も、必ず始末して、ご覧に見せましょう」


「ク」


レイは何とか震えを止めると、バイラから視線を外した。


バイラは立ち上がると、レイをじっと見つめ、


「それ故…決して、赤星浩一には、手出しされぬように…それが!」


バイラと、不動はもう一度跪くと、声をそろえて告げた。


「我らが主!魔王ライのご命令でございます!」


レイは、唇を噛みしめると、しぼりだしたような声で、


「わかった…」


頷いた。


「では…これにて、失礼致します」


2人の騎士団長は、頭を下げながら、広間から消えた。


1人残されたレイは、今度は口惜しさに、体を震わせ、


「ふざけおって!純粋なるバンパイアである我を!馬鹿にしおって!」


レイの手刀が、空を切り裂き…一瞬にして、光が闇に変わった。


「いつまでも、貴様の思い通りになると思うなよ!我を殺さず!この地に幽閉した自分を、後悔するがよいわ!」


闇の中で一層…赤く輝く瞳が、不気味に闇を照らしていた。







「わが名は、天空の騎士団!ハリケーン…」


突然、空から現れた魔物を一刀両断すると、僕は天へと飛び上がった。


森の木々でできた天井を突き破ると、一面の青空に出会えたが………そこは、翼を持つ数百の魔物で、ひしめき合っていた。


「チッ」


軽く舌打ちすると、僕は空中で胸を張った。


すると、背中から炎の翼が生え…近くにいた魔物を、焼き尽くした。


「いけえ!赤星!」


いつのまにか、僕のシャツの中に、入っていたティフィンが叫んだ。


正直…戦いにくいけど、仕方がない。


僕は空中で、ファイアクロウを装着すると、円を描くように、魔物達へ襲い掛かる。


地上では、時折見える緑の隙間から、炎が走るのが見えた。


どうやら、フレアが戦っているようだった。


僕はフレアから離れる為、数匹を切り倒すと、そのまま…逃げるように森の外へと、飛んでいった。


すると、魔物の群れは、僕の後を追ってくる。


「Blow Of Goddess!」


僕がファイアクロウをクロスさせると、地上からマグマの吹き出すし、空中にいる魔物を包んだ。


跡形もなく、燃え尽きる魔物達。


その断末魔をできるだけ見ないようにして、僕は迫りくる新たな敵に向かっていった




「姉さん…無理だよ!」


ぶつかり合う魔力が火花を散らす中、ただ一人逃げ惑うメロメロ。


そんな中、ただ一人で立ち向かうフレア。


森の木々の中を移動するフレア達に、次々に魔物が襲い掛かる。


「!」


フレアは、メロメロが着ている迷彩服の襟元を掴むと羽を広げ、一気に加速した。


木々の隙間を猛スピードでくぐりながら、フレアは何かを探していた。


「姉〜さあん」


枝や葉っぱが、体に絡み付いても、メロメロには為す術がない。


フレアはさらに加速すると、木々を突き抜けた。


そこは、森と森の間にある百メートル四方の草むらだった。


メロメロの目に、天に輝く満月が映った。


フレアはそこで羽をしまうと、メロメロを足元に落とし、両手を左右に、突き出した。


「炎撃乱舞…」


ぼそっと呟いた瞬間、四方から魔物達が襲い掛かる。


と同時に、魔物達の目の前が突然破裂し、細かい火の玉が、魔物達に炸裂した。


ふっ飛ぶ魔物達。


しかし、魔物達はすぐに体勢を整えて、フレアに再び襲い掛かる。


「馬鹿目!こんな程度の火力!大したことはないわ!」


カマキリのような姿に、蛇の顔をした魔物が、すぐにフレアに接近する。


「馬鹿は、お前達メロ」


フレアの足元に座るメロメロが、肩をすくめた。


「姉さんは、優しいメロ。できるだけ、森を燃やしたくないから、魔力を押さえているメロ!それに…」


フレアは、接近するカマキリの魔物に、回し蹴りをたたき込んだ。


フレアの右足が、カマキリの首筋にヒットした。


「姉さんは、接近戦が得意メロ」


蹴りをくらってふっ飛んだ魔物が、何とか立ち上がり、巨大な鎌を振り上げた瞬間、カマキリの穴という穴から、炎が吹き出した。


「ぎゃあああ!」


カマキリの全身は真っ赤になり、蒸気を噴き出しながら、倒れていく。


「姉さんは、触れた相手の体液を沸騰させることが、できるメロ!」


月に照らされながら、フレアの体が舞う。


次々に襲い掛かる魔物に、蹴りやパンチをたたき込んでいく。それだけで、雑魚の魔物は沸騰し…死んでいく。


「やったメロ!」


もう襲い掛かってくる魔物がいなくなり、緊張を解こうとしたフレアの後ろに、気配がした。


振り返りざま、バックパンチを繰り出したフレアの拳を、誰かが掴んだ。


「強くなったな」


そこにいたのは、フレアの倍はある…炎の人型。


炎の騎士団長、不動だった。


フレアは振り向きざま、体を回転させ、腕を極めようとしたが…………………………何の感覚もない。


「忘れたか?私の体は、炎でできている。人間のような関節は、存在しない」


フレアは、腕を離すと、


「ハッ!」


気合いとともに、正拳突きを、不動の腹にくらわした。


「何度も言わせるな…私は炎だ」


フレアの拳が当たったところから、炎が噴き出したが…それだけだ。


「お前の技は、私には無意味だ…。それに」


不動はスゥと手を伸ばし、フレアの肩を掴んだ。


「キャッ!」


フレアの口から、悲鳴が上がった。肉が焼けるような音がして、苦痛に歪むフレア。


「姉さん!」


メロメロが慌てて、フレアに近づこうとしたが、不動の一睨みで、その場で腰を抜かした。


「き、き、き…騎士団長…」


目の前に立つ圧倒的な魔力に、メロメロはガタガタ震え、息もできなくなる。


不動はすぐにメロメロから視線を外すと、掴んでいた肩を離した。


その場で崩れ落ちたフレアの肩から、煙が上がる。


「同じ炎の騎士団といえ…お前と私では、レベルが違う」


フレアは肩を押さえながら、立ち上がった。鋭い目で、不動を睨みながら。


「ほう」


不動は目を細め、フレアを見つめた。


「かつては、姉に守られるだけのお前が…これほどの闘気…一体何があった?」


不動の言葉に、フレアはこたえない。ただ、構えをとる。


「烈火のリンネと…蛍火のフレア…。ただ敵を燃やし尽くし、灰と化す。それが、我ら炎の騎士団。そんな中で、お前だけは違っていた。敵を倒す為ではなく、仲間を癒し…暖かく包むような炎…」


不動は、愛しそうにフレアを見下ろし、


「まるで、魔王の気まぐれでつくられたような…存在」


フレアは軸足を踏み締め、腰を捻ると、全身をしならせ、鞭のように蹴りを繰り出す。


「無駄だ」


不動は一歩前に出ると、フレアの蹴りを避けることもなく、ただ威圧感だけで、フレアを吹き飛ばした。


「気合いだけで、埋められる差ではない」


後方に、尻餅をついたフレアの首を絞め、不動は持ち上げた。


「このまま…焼き切ろうか?」


「姉さん…」


ガタガタ震えが止まらないメロメロは、叫んだ。


「あ、兄貴!」


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