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第57話 魔獣因子

「貴様ら!何者だ?」


松永は、手に持った剣を構えながら、キャンピングカーの周りを囲む魔物達を睨んだ。


鶏のような顔をした魔物達は笑いながら、松永との間合いをじりじりと詰めていく。


「名乗る気はないか…」


松永の握る剣が、日本刀に変わった。刃を魔物達に向けた。


今まで松永が倒してきた魔物と、雰囲気が違っていた。


ただ狩っていた魔物は、動物という感じがしたが…目の前にいる魔物達には、知性を感じた。


立っているだけで、人のようなプレッシャーを感じられた。


「ケケケッ」


魔物の馬鹿にしたような笑いに内心、頭にきながらも、松永は平常を装った。


刀身が、妖しく光った。


「馬鹿目」


同じことを一斉に口にすると、魔物達は一歩、松永に近づいた。


その瞬間、松永は口元に緩めた。


「馬鹿は…てめえらさ」


「グギャー!」


魔物達は、断末魔の叫びをあげた。


キャンピングカーを囲む魔物達をさらに囲むように、鋭い刃物が回り…魔物達を後ろから、斬り刻んでいた。


「後ろから?」


魔物が振り返ろうとした時、その喉元を一瞬で斬り裂かれた。


「卑怯な」


血まみれになりながら、崩れ落ちる魔物達に、松永は鼻で笑った。


「お前らが、前しか注意しないからさ」


剣の勝負は、いかに相手を誘い、速く、相手の隙をつくかである。見えない死角からの攻撃が、一番有効である。


人の一番の死角は、後ろである。


常々、松永は思っていた。簡単に死角から、攻撃できないか。


しかし、普通…敵と対峙した場合、後ろをとるのは、容易ではない。


それを、この世界は可能にしたのだ。


松永は、剣を下ろした。


相手に見せる剣は、囮。最初から、後ろから斬る気でいた。


「お見事!」


いきなり、拍手が聞こえ、松永は前を見て、眉を寄せた。


湿気の多いこの土地で、黒いハーフコートを着込んだ男が立っていた。


「素晴らしい!それに、比べて…こいつは、卑怯だと!」


男は、一番近くで倒れている鶏顔の魔物を、踏みつけた。


「何だ?」


松永は訝しげに、男を見た。その瞬間、松永の両目が、緑色に変わった。


この世界に来て、松永が自分自身を変えた部分は、目だった。


視力が、1.5はあったけど…この世界では、悪過ぎた。相手の動きをとらえ、確実に仕留めるには、遠くまで見通せる目が、不可欠だった。


数キロまで見れる望遠機能に、相手の発する気を感知し、魔力を探ることもできた。


(レベル20…ただの人か?)


松永は少し安心すると、警戒を解いた。


「どうされました?こんなところを、お一人で…あなたのレベルでは、ここは危ない」


松永の言葉に、男は笑った。


「あなたのレベル?はははは!いやはや、これは期待外れですかな」


男は肩をすくめると、松永とキャンピングカーの周りで磔にされている人達を見、溜め息をついた。


「こんな酷いことをなさる人だから、期待したんですが」


「これは、俺じゃない」


松永は、男の雰囲気が変わったことに気付いた。


「そうでしたか…私の勘違いですね」


男は、松永を凝視した。


「白目?」


松永は、呟くように言うと、男の視線の先を探した。


明らかに、男は松永を見ていなかった。


しかし、その目から一瞬だけ、視線が自分に向けられた気がした。それだけで、松永の全身に悪寒が走った。


次の瞬間、松永の意識を感じて、男の頭上から、回転する刃が男の胸から足下を斬り裂いた。


辺り一面に、赤い血が噴き出した。


「素晴らしい!迷いもなく、同種を斬れる。その心意気は素晴らしい!但し…それが、恐怖にかられたものでなければ」


血を流しながら、男は白目を向けたまま、松永に向かってくる。


「き、貴様!人間じゃないな」


松永は、無意識に一歩後退った。


「人間ですよ。その体はね」


「貴様!」


松永の呼応に応じて、無数の刃が、男の死角から斬り裂いていく。


「無駄ですよ」


血が噴き出し、左手が取れそうになっても、男は松永に近づいていく。


じりじりと後退していた松永の背中が、キャンピングカーのドアにぶつかった時、男はにやっと歯を見せて、笑った。


「ちょっと失礼」


松永の目の前で止まると、男は取れかけの手で、胸ポケットから煙草を取出し、数本切断された指で、一本摘み出すと、煙草に火をつけた。


煙草の先に赤い火が灯った瞬間、そいつは現れた。


松永は絶句し、声が出ない。


瞳のレンズに浮かぶ数値が、上がっていく。


煙草の火は一瞬にして、大きくなると…つけた男を焼き尽くし、やがて火柱のように大きくなり…人のような形を作り出す。


「うわああああ!」


恐怖から、松永はいきなり刀を突き出すと、炎に向かって突き刺した。


更に後ろから、数十本の刃が炎を斬り裂く。


いや、斬り裂けなかった。


炎に触れた瞬間…刃はドロドロに溶けてしまった。


「鉄は…炎を切れない…。ただもとに戻るだけです」


松永は目を見開きながら、剣を抜いたが…刀身はどこにもなかった。


「な、なな…うわああああ!」


また後ろに逃げる松永に、


「お初にお目にかかる。我は、炎の騎士団長不動!」


不動は、深々と頭を下げた。


「裸で失礼するよ。本来なら、鎧をつけているのだが」


炎でできた体は、温度差なのか…表情があるように見せた。


3メートル近くある炎の先が、松永を見下ろしているように見えた。


「若き安定者よ。人を率いる者よ」


「フッ…そうだった」


不動の言葉を聞き…松永は自笑気味に笑うと、柄だけになった刀を捨てた。


そして、不動を見上げると、睨み付けた。


「俺は、安定者だ!無限の力を持つ!」


ブラックカードを取出し、


「鉄が、火を斬れないなら!火は、水を燃やせない!」


松永の手から、水が発射された。物凄い水圧に、松永の体が後ろに下がる。


至近距離から、放たれた水は不動を直撃した。


しかし、水は不動に当たると、すぐに蒸発し、水蒸気に変わる。


松永はあきらめず、水を放ち続けた。


「あなたに、教えて差し上げましょう」


不動は、ただ立っているだけだった。必死な松永に再び、溜め息をついて見せた。


「あなたが今やってることは、山火事に水鉄砲で、消火しているようなものだ…」


松永の背中が、キャンピングカーについた。


「例え水鉄砲を、無限に打ち続けても…山火事は消えることはない」


「そ、そんな…。そんなことはない!」


折れそうになった心をもう一度、奮い立たせ、松永はもう一本の腕も、突き出した。


水圧は増したが…不動はびくともしない。


水蒸気が、松永の全身を包み、汗が噴き出し、彼のやる気を削いでいく。


水圧が、減った時…キャンピングカーのドアが、開いた。


そこから、飛び出してきたものは…。


「正志!」


火だるまになった正志だった。


来ていたジャンバーが燃え上がり、さらしていた下半身のものが、一番燃えていた。


その姿を見た瞬間、松永の放水は止まった。


キャンピングカーのドアの横にもたれながら…ずり落ちていく。完全に尻餅をつくと同時に、キャンピングカーの中から、先程入った女が、ゆっくりと出てきた。一糸も纏わずに。


「まったく…入れてすぐいくなんて…最近の男は、駄目ね」


火だるまになり、地面をのた打ち回る正志に、女は溜め息をついた。


「な、なんだ…」


状況がつかめず、軽いパニックになった松永に、女は気付いた。


怯えている松永に、女は一瞥をくれると、不動を睨んだ。


「どうして、あんたがいるのよ?ここは、あたしに任されたはず」


女の全身から発する殺気に、不動は肩をすくめた。


「今の安定者の実力を、知りたくてね」 


「邪魔するな!」


女は、不動の前に立った。


不動は、肩をすくめたまま…その場から消え去った。


「不動め!」


指の爪を噛み、苛立ちを露にしながら、女は不動がいた空間を睨んでいた。


「い、一体…何が…」


松永は、腰が抜けたのか…立ち上がれない。


ブラックカードを出し、回復系の魔法を発動しょうとしたが、カードが地面に落ちた。


女は、松永の方に体を向けた。


クスッと笑うと、腕を組んだまま、ゆっくりと松永に近づいていく。


「ぎゃああああ!こ、こ、殺してやるるううう!」


その時…絶叫が、周りの空気を震わした。


殺気が、松永まで伝わり…肌に突き刺さった。


松永は、女の後ろで立ち上がる…火だるまの正志の姿を確認した。


「殺す…殺す…ぐげぇ!」


何かを吐き出すような声と、肉が裂ける音がした。


「ま、正志!?」


松永は恐怖の中で、目を見開いた。


「?」


松永の表情の変化に気付き、女は首を傾げると、振り返った。


「ぐえええ!」


獣のような声を出し、そこにいたものは…かつて、正志と言われた人間とは、似ても似つかないものがいた。


四つ足の体に、背中から四本の腕が飛び出し、口は伸び、横が裂け、まるで狼のような姿になっていた。


そのような姿になった正志の額の前に、ブラックカードが浮かんでいた。


ブラックカードは、そのまま…額に張りついた。


その瞬間、正志の体は、黒い剛毛に覆われ、口から炎を吹き出した。


「あらあ…あんた。炎の属性だったのね」


女は、感心したように頷いた。


「ぐえええ!」


額のブラックカードが光り、背中から生えた四本の手の平の真ん中が裂け、そこから炎の束が女に向けて、発射された。


「だけど…」


女は両手を広げ、正面から炎の束を受けとめた。


飛び散る火の粉に煽られて、女の髪の毛が逆立ち、まるで炎でできた蛇のように、のた打ち回る。


松永は、何とかブラックカードを拾うと、その場からテレポートしょうとした。


しかし、何かに引っ張られるような感じを受けて、テレポートできない。


「じっとしてなさい」


赤く燃え上がる女の姿が、高温で輝く鉄のようになる。


「温度がたりないわ。これくらいはないと」


女は、大きく空気を吸い込むと…正志に向けて、息を吐き出した。


熱風が、正志に吹きかかると、正志の全身はさらに、燃え上がった。


「ウゲ」


最後の声を洩らし、正志は一瞬にして、燃え尽き…灰になった。


「炎の騎士団長に、炎で挑むなんて…身の程知らずね」


そう言うと、もがいている松永をじろりと見た。


女から伸びた髪が、松永の右足に絡み付いていた。


自分の足が焼ける匂いと、女の…ぞっとするような目に、松永はパニックになりながらも、死にたくない思いにかられた。


「あら…逃げた」


女の目の前で、松永は消えた。


「まあいいわ」


女は肩をすくめ、正志がいた場所に歩いていく。


突風が吹き、正志だった灰が飛んでいった。


そして、風に飛ばされず、残っているものを、女は拾い上げた。







「!」


クラークは、抱き締めていた舞子を離した。


何かを探るように顔を左右に向けると、ブラックカードを取出し、詮索をする。


「チッ」


舌打ちすると、クラークはブラックカードをしまった。


「基地内に、敵の反応がある!」


顔をしかめながら、クラークは部屋の柱に取り付けてあるインターホンに向かって、叫んだ。


「敵が侵入した!直ちに、排除しろ!」


「敵が、基地内に?」


驚く舞子に、クラークは頷いて見せた。


「微小な反応だが…なぜか、気に掛かる」


魔物の反応自体は、大したことないが…大したことないくらいの反応のものが…。


(なぜ、基地にある?)


服を着ると、クラークは舞子を伴って、反応のある場所へと急いだ。


そこは、安定者の部屋がある特別区域だった。


兵士が来るより、クラーク達の方が近い。


胸騒ぎを感じながら、クラークは急いだ。





「誰だ?」


いきなり、テレポートしてくる者の気配を感じ、西園寺はベットから飛び降りた。


自分もつい今し方、地上から戻ってきたばかりだった。


ベットに横になるとすぐに、テレポートアウトを感じ、西園寺は身構えた。


「西園寺…」


テレポートしてきたのは、松永だった。


悲痛な目を西園寺に向け、うつ伏せになりながら、自分に向かって、手を伸ばしていた。


「松永!お、お前…」


西園寺は絶句した。


松永の右足が、膝から下がなくなっていた。


鋭利な刃物で切断したようだ。


切断面からは、血が一滴も流れておらず…なぜか煙だけが、立ち上っていた。


「西園寺君」


クラークが慌てて、部屋のドアを開け、中に入ってきた。


「クラークさん…」


西園寺は、クラークを見た。


松永は、西園寺にじりじりと近づいていく。


クラークは、松永の切断面に絡み付く、小さな火を見つけた。


それは…蛇の形をし、炎の舌を出していた。


「これは、リンネの…」


クラークは一瞬の内に、状況を理解した。


(バレたか!)


舌打ちすると、クラークは後ろにいた舞子を引き寄せると、抱き締めた。


「クラーク?」


舞子には、状況が理解できない。


「西園寺君!今から、テレポートしろ!行き先を思い浮べずに!」


クラークの叫びに、西園寺は叫んだ。


「松永が!」


手を伸ばしてくる松永に触れようとした西園寺を、クラークは制した。


「触るな!こいつはもう、リンネの炎に犯されている!」


「しかし」


西園寺は、迷ってしまう。


「もう時間がない!魔王に知られた!基地は、退避できない」


「しかし」


「助けて…」


松永の足が燃えだした。


それと同時に、凄まじいプレッシャーを足元から、感じた。


「間に合わない!」


クラークは仕方なく、舞子を抱き締めると、テレポートした。


「西園寺…」


目や口…鼻からも、炎を噴き出した松永を見捨て、西園寺はテレポートすることにした。


「すまない」


目を逸らし、テレポートするのと、基地が消滅するのは、ほんの数秒の差だった。






「なんだ?」


クラークからの連絡を受け、非常態勢に入った兵士達と違い、ブリッジにいたオペレーターは、地上から凄まじいエネルギーが、上がってくるのを感知した。


「雷が…下から落ちてくる!?」


水晶のディスプレイに映った文字に、オペレーターは首を捻った。


それは、そうだ。


ここは、宇宙なのだ。


雷が落ちるわけがない。


まして、地上から空へ。


そんな信じられないことが、首を捻った瞬間、起こったのだ。


雷は、雲を突き抜け、大気圏をこえると、張られた障壁をものともせずに、基地に直撃し破壊した。


オペレーター達は痛みを感じる暇もなく、消滅した。


雷空牙。


魔王の牙が、放たれたのだ。


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