表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/563

第56話 わだかまり





衛星軌道上にある基地に戻った西園寺は、分厚い窓にもたれ、憂いの表情を窓に映していた。


この宇宙基地は、西園寺の案で設計され…建設された。


宇宙という概念が、不足していたこの世界において、西園寺の考えは、画期的であった…が…。


「つまらん…」


初めて上がった宇宙から、地球を見下ろした時は、この世界を支配したかのような高揚感に包まれたが…今は、虚しいだけだった。


自分の真の意味での無力さを、知った今では。


「魔獣因子…」


(それは何だ?)


神流の切断された腕が、再生したこと…。初めてこの世界に来た時、神流の見せた変化。


それは、神流だけのものとは思えなかった。


自分の中にも、確実に蠢くものを感じていた。


(これが…クラークの求めたものなのか…)


悩んでいると、唐突にドアが開いた。


西園寺達…安定者は、個人個人に部屋を与えられていた。


机と椅子…ベットしかない部屋に、松永が入っていた。


「いたのか…。すまん、ノックする前に、ドアが勝手に開いたもので…」


松永は頭をかきながら、部屋に入ってくると、


「相変わらず、殺風景な部屋だな。佐々木達と正反対だな。あいつは、カード使って、ありとあらゆるものを取り寄せてるぜ」


自分の話にも、無表情な西園寺に肩をすくめると、松永は入り口のそばで足を止めた。距離を取り、西園寺を見つめた。


「ったく…何を悩んでるのか…。お前と、守口だけだぜ。こっちに来てから、レベルが上がってないのは」


その通りだった…。神流と正志、松永のレベルは80をこえていた。特に、神流は85と5人の中で、最高レベルにある。


舞子と、西園寺は来た当時とほとんど変わらず…レベルは66で止まっていた。


「俺達は、安定者なんだから、最低80はないと」


松永の言葉はもっともだ。しかし、無意味に魔物と戦い、殺すのことに、西園寺はあまり気が進まなかった。


舞子の理由は、知らない。


「神流達は、狩りに出てる。俺も、今から行くが…お前も行かないか?」


松永の誘いに迷うことなく、西園寺は断った。


「俺はいい」


「そうか」


松永は、こたえを予想していたのだろう。すぐに部屋を出た。



「狩りか…」


再び1人になった西園寺は、窓から地球を見下ろした。


多分、あいつらとは民族が違うのだろう。


狩猟民族と…。


「支配民族…」


西園寺は、ブラックカードを取り出した。


「発動」


西園寺が呟くと、光りの筒ができ…西園寺はテレポートした。


どこかに向かって。







「クラーク様」


ダブルベットの中で、くつろぐクラークのそばに、舞子が立っていた。


バスローブだけを身に纏い、そこからはみ出したうなじを、クラークに向けていた。


「何だ?」


クラークは天井だけを見つめ、舞子の方は見ていなかった。


「赤星浩一を、どうなさるおつもりですか?」


舞子は、憂いを帯びた横顔をクラークに向けた。


「赤星浩一か…」


クラークは、天井に手を伸ばした。ブラックカードが、指先に現れた。


ブラックカードを見つめながら、


「なぜ…その名をきく?」


クラークは、少し強い口調で訊き返した。


「それは…」


口籠もった舞子は…下唇を少し噛むと、クラークの方に体を向けた。


「彼だけが、この世界で魔王と戦えるからです」


訴えかけるような舞子の視線に動じず、クラークは鼻だけで笑った。


「フン」


ブラックカードが示す…自らのレベルを確認した。


レベル89。


確実に、人の中ではトップクラスだろう。防衛軍に登録されている勇者の数は、500人。


レベル60以上を勇者とするなら…80以上の聖戦士は、20人もいない。


まして、レベル90になると…。


「魔物を、我々のいうレベルに換算すると…魔神クラスは、80以上。騎士団長で102。100以上は、神クラスといわれている」


クラークが指を振ると、ブラックカードは消えた。


「レベル100…」


舞子は、まだレベルの実感はない。


「先日までは、アルテミアで108だったが…今は、数段上がっているだろう。彼女の依り代だった赤星は…」


クラークは、虚空を睨みながら、


「予想では、110…。ただし、覚醒時には、どれほど上がるかは、未知数だ」


「魔王は……魔王のレベルは、どれくらいなのですか?」


舞子の素朴な問いに、クラークは初めて、舞子の方をちらりと見た。


そして、すぐに天井に視線を戻した。


「それは…わからない。多分…予想では…」


クラークは、唇を噛み締めた。


「200だ」


「200…」


舞子は呟いた。


クラークは、上半身をベットから起こした。


「あくまで、予想だ!それ以上かもしれんし…それ以下かもしれない。だが、問題は、レベルではない」


クラークはベットから出ると、舞子の横を擦り抜けた。


ベットルームを出ると、リビングに行き…テーブルに置いてあったジンの瓶を開け、グラスに注いだ。そして、クラークは一気に、ストレートで飲み干した。


一息つくと、


「やつは、不死身。死なないのだよ。死なない相手に、我々の武器は、無意味」


テーブルに手をつき、再びボトルを取ろうとしたクラークの手を、いつのまにか横に来た舞子の手が、上から覆っていた。


その瞬間、クラークの目と舞子の目が初めて…合った。


微笑む舞子より、舞子の目に映る自分に、目が行った。


(そうか…)


クラークは苦笑した。


舞子は、クラークの手を強く握り…もう一つの手で、クラークの襟元から、肩口を触れた。


そこは、もう人間の肌ではなかった。


舞子は一度視線を外すと、微笑みながら…クラークの唇に、自分の唇を押さえ付けた。


クラークはその瞬間、舞子のバスローブをはぎ取った。


(酔わねば…抱けぬとはな…)


クラークが舞子を抱き締めると…電気は、消えた。






「きゃはははは!」


物凄い数のミサイルと、光の束が、湿原を駆け抜けていた。


逃げ惑う魔物達の群れに、それらは降り注ぐ。


爆音が轟き、爆風の中を切り裂くように、鋭い爪を突き出して、神流が襲い掛かる。


猪の体に、象のような鼻を持つ魔物を切り裂くと、内臓を抉り取り、そのままトカゲのような5メートルはある魔物に向かって、左手を突き出すと、光の槍が串刺しにした。


そして、ミサイルの直撃を受け、倒れた魔物の腹にヒールの先を突き刺し、ねじ込む。


「あんた達はみんな!あたしに殺されるのよ!」


歓喜の雄叫びを上げると、神流の全身から、光の槍が数え切れないほど飛び出し、あらゆるものを串刺しにしていく。


「あいつは…派手だねえ」


遠くから響く爆音に、クククと含み笑いをしながら、正志が呟いた。


「魔物なんて…殺し飽きたし…最近、なかなかレベル上がらないしさあ」


「やめて…」


暗闇の中で、正志は舌を動かしていた。


「でも…結構、上のレベルにいるからいいかなあ」


正志は、闇の中で何かに吸い付き…鼻息を荒くした。


「やめろ」

「あんたらは…一体」


暗闇の外から、声がした。


「黙ってろ」


正志の言葉に反応して、ブラックカードが輝いた。


「うぐうぐ…」


悶え苦しむような声が数分続き…やがて、聞こえなくなった。


「いやあ!」


女の泣き声だけが、闇の中で続いていた。


「すぐ終わるからよ」


正志の声は、興奮していた。


「まったくよお。魔物の群れから、助けてやったんだからさ。ちょっとぐらいいいだろ。減るもんじゃないしよ」


正志は、気を注ぎ込んだ。


「何をしてるんだ?」


神流達の後を追って、湿原にテレポートしてきた松永は、唖然とした。荒れ狂う大地に、大型キャンピングカーのそばで木製の十字架に縛られ、意識を失っている男達を確認したからだ。


どうやら、パーティーを組んでいたみたいで、剣士や狙撃手、魔術師がいたが…口や鼻を布でふさがれ、意識不明になっていた。


一応、松永は外してやったが…息はしていない。


ため息をつき、爆音が響く湿原の向こうを見た。


魔物の群れも、蟻ほど小さく見えるの程離れているのに、松永の足に大地の震えが伝わってきた。


「正志?もう終わったか?この世界に来てから、何人の女と」


松永はキャンピングカーに近付き、側面のドアを開けようとした。


その時、気配を感じ、松永はドアに手をかける前に、後ろを振り返った。


松永の目の前を、細く白い腕が通り過ぎた。


松永の目が…その腕にそって、顔にたどり着いた時、松永の動きは止まった。


切れ長の目に、薄く上品な唇。派手な感じではないが、どこか落ち着いた美しさがあった。


思わず、見惚れた松永の横を通り抜けて、キャンピングカーの中に入った。


「え?」


ドアが閉まった瞬間、松永は我に返った。


後を追おうとして、ドアを開けようとすると…先にドアが開き、全裸の女が倒れ込んできた。


「ま、正志!」


驚きながらも、女を受けとめた松永は、顔を真っ赤にして、あたふたしてしまう。


「後始末くらいしろ!」


松永はマットを召喚すると、女を横にした。


全裸の女のすべてが目に入ってきて、松永は少しだけ見入った後、タオルも召喚し、上にかけてあげた。


女に意識はない。


目を見開いたままで、ただ頬に涙の跡が、残っていた。


「かわいそうだが…」


松永は目だけでも閉じてあげようと、腰を降ろし、女の顔に手を伸ばした。


しかし、松永の手は途中で止まった。


「チッ」


舌打ちすると、松永は中腰から、後ろに向けて立ち上がりながら、体を捻った。


「ケケケッ」


松永の居合いのような一撃を、魔物が避けた。


いつのまにか、数十匹の魔物が、真後ろにいた。


松永は剣を握り締め、魔物と対峙した。


「何か用か?」


松永の雰囲気は一瞬にして、戦いのモードに入っていた。







「彼らは…なぜ?選ばれたのですか?」


クラークの腕の中で、素直な質問を投げ掛けた舞子に、クラークは嘘を言う気には、なれなかった。


(どうこたえたものか…)


言葉を悩んでるいると、舞子は顔を上げ、身長が190近くあるクラークの顔を、見上げた。


その真剣な表情に戸惑っているクラークに、舞子はきいた。


「魔獣因子とは?何ですか?」


クラークはその言葉を聞いて、思わず舞子から離れてしまった。


舞子は腕の中から離されても、視線だけはクラークから離さなかった。


クラークはフッと笑うと、全裸の舞子の体をバスローブがまた包み、テーブルに置かれたグラスに、ジンが注がれた。


飛んで来たグラスを掴むと、一口だけ口をつけてから、おもむろに話しだした。


「人は、何の苦労もなく…強大な力、権利を手に入れたら、どうする?」


クラークの問い掛けは、舞子に向けられていない。すぐに言葉を続けた。


「その力を、放棄するものもいるだろうが…大体は、力を使う者か…力をコントロールする者かに、別れる」


クラークは、グラスに氷を入れた。少しグラスの中で、転がす。


「前者は、単に力を使っているだけの者…つまり、力に使われている者だ。人の殆どは、これに分類される。力を使いたい!他人に向けて、行使したい!」


クラークの言葉に、力が入る。


「しかし!それでは、人を使うこと…つまり、支配することはできない!人という種を、完全に率いることはできない!」


クラークは、グラスの中身を飲み干すと、テーブルに叩きつけるかのように、置いた。


舞子は、ただクラークを見守っている。


「力を持った者は、後者でなければならない。なぜ、このような力を得たのか?なぜ、自分なのか?この力をどうすればいいのか!力に、己に問い掛けることが、できる者こそが!人という種のトップに立てる」


クラークは、舞子の方に顔を向けた。


「舞子…。魔獣因子とは、力そのものだよ。お前や私の中にある…巨大な力。溺れると、自分自身さえ壊す力そのものだ」


クラークは、ブラックカードを取り出した。


「お前達に、このカードを配ったのは、きっかけに過ぎない。レベルを簡単に上げ、力を使う中で…お前達の中に眠る魔獣の力を、解き放つ為の!」


クラークの叫びに呼応し、舞子のバスローブがとれ、クラークはゆっくりと舞子に近づいていく。


「魔獣因子を持つ者こそが、人でありながら…神の領域に入れるのだ」


「神…」


クラークに抱かれながら、舞子は呟いた。


「そうだ!人の身では、レベル百をこえることは、できない!しかし、その壁を越えなければ…魔王とは、戦えない」


いつのまにか、ベットの上にテレポートしていた二人は…激しく絡み合う。


「もし…力を…魔獣因子を持つ者が…力に溺れたら…どうなるのですか…」


意識が飛びそうになりながら、舞子はきいた。


「その者は…人間ではなくなる。ただの…獣だ」


クラークはそれ以上、話すことをやめた。


舞子の唇に吸い付くと、ただ快楽だけを貪ることにした。


自分でもわかっていたのだ。


その言葉は、自分にも当てはまることを…。


快楽に沈む前…。


クラークは言葉に出さなかったが、心の中で呟いた。


(獣にならず…人を率いる者…。それは…赤星浩一か…それとも…)


舞子の腕が、クラークを抱いた時…クラークは思考をやめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ