君の刃
(僕の弱さか)
ジャスティン達に言われ、薄々自分でもわかっていたことを、改めて思い知らされた。
(勝負は一瞬!)
テレポートアウトの瞬間、僕はぎゅっと拳を握り締めた。
「何!?」
倒れているアルテミアを抱き上げようと、腰を下ろしたフルハウスの目の前に、僕は再び姿を現した。
「シャイニングソード」
驚くフルハウスが体勢を整える前に、どこからか飛んできた2つの物体を掴むと、クロスさせ、剣に変えた。
「照らせ!すべてを!」
シャイニングを天にかざすと、光が放たれ、地下にいるすべての人を照らした。
すると、その光に照らされた人々から、熱や痣、腫れがひいていった。
「シャイニングソードは、魔王を倒す剣!その光は、すべての邪気を祓う」
「ば、ばかな…」
唖然とするフルハウスの足元で、
「う、う…」
アルテミアも意識を取り戻した。
その様子を見て、フルハウスは笑った。
「なるほど!それが、ヴァンパイアキラーか!」
「フルハウス!」
僕はシャイニングソードの切っ先を、フルハウスに向けた。
「だが!笑止!」
フルハウスは、アルテミアを無理矢理起こすと、羽交い締めに、指先をアルテミアの首筋に当てた。
「我は魔神!光くらいでは怯まぬ!それに直接、致死量の毒を流しこめば!アルテミアは即死だ!」
フルハウスの言葉に、僕は動きを止めた。
「ここにいる人間を助けたところで、我が地に出れば、数万の人間が一瞬で死ぬ!」
フルハウスは、にやりと笑い、
「ライ様も恐れてた…その剣!アルテミアの命を助けたければ、よこせ!」
シャイニングソードに目をやった。
「その剣があれば、いざというとき!貴様を葬ることができる!さあ!よこせ!」
フルハウスの要求に、僕は静かに剣を下げると、フルハウスの目の前まで地面に突き刺すように、投げた。
「こ、これが!ヴァンパイアキラー!王をも殺せる武器」
シャイニングソードの輝きに、わなわなと震えながら、手を伸ばすフルハウス。
「アルテミア!」
フルハウスが剣を掴む瞬間、僕は叫んだ。
「ギャアア!」
シャイニングソードを掴むとすぐに、フルハウスの手は蒸発した。
今が好機と絶叫するフルハウスの腕の中から、アルテミアが飛び出した。
「な、なるほど!魔神は使えぬか!ならば!」
僕の隣まで移動したアルテミアの背中を睨みながら、フルハウスは天を仰ぎ、そのまま煙のように消えた。
「お母さん」
シャイニングソードの光で、病魔が消えた小さな子供が、そばにいた母親に抱きついた瞬間、白眼を向くと身を反らし、ブリッジの体勢で地面に手をつき、ゴキブリのような動きで、シャイニングソードの側に移動した。
「フフフ…フハアアハハ!」
笑いながら、身を起こすと、子供はシャイニングソードを手に取った。
「魔神でなければ!無垢な子供ならば!」
「こ、子供に憑依したのか」
アルテミアは、僕の横に立ちながら、奥歯を噛み締めた。
「甘い、砂糖よりも甘い王よ!アルテミアという人質がなくても!貴様を縛るものは、この世界に沢山あるわ!」
フルハウスは、切っ先を僕に向け、
「我の為に働け!」
高笑いした。
「屑が!」
アルテミアは吐き捨てるように言うと、前にでようとした。
すると、その腕を取り、僕はアルテミアの動きを止めた。
「赤星?」
振り返るアルテミアに、僕はフルハウスを見つめながら、言葉を発した。
「アルテミア…。僕は、赤の王と言われるくらい強くなった。だけど、中身はずっと人間の高校生の頃から変わらない。弱いままだ」
「な!何だと!そんな訳はあるか!お前は、誰よりも強い!あたしよりもずっと!」
アルテミアの言葉に、僕は首を横に振った。
「赤星!」
「君と初めて会った時…剣で、ドラゴンを斬り裂いたのを見た時から、僕は思っていた。いつか…君のような人になりたいと」
そう言うと、僕は静かに目を閉じた。
「僕の力は、君の為に使ってほしい。僕が迷うならば、迷いなき君の一太刀になろう」
僕は体を炎にすると、一気に凝縮させた。
(君の為の刃に)
「赤星!」
アルテミアの手に、赤い炎よりも輝き、黒点よりも黒い剣が握られていた。
「笑止!」
その剣を見た瞬間、子供に憑依したフルハウスが斬りかかってきた。
「魔王を倒せる剣が!赤の王の力を宿したくらいの剣で、防げるか!」
「バカ…」
アルテミアは目を伏せると、剣を振るった。
「星」
赤い剣とシャイニングソードがぶつかり合った。
「王を殺す力を手に入れたのだ!もう貴様らは!ようなし…」
フルハウスは最後まで、言葉を発することができなかった。
赤い剣に触れた瞬間、シャイニングの等身は消滅し、赤い刃は憑依しているフルハウスだけを斬り裂いた。
「シャイニングソードは、太陽の輝き。この剣は、その輝きを生む太陽そのものだ」
アルテミアは、崩れ落ちる子供を片手で抱き締めた。
「もう大丈夫」
そして、優しく微笑んだ。
フルハウスの魔力が消えたのを、衛星軌道上の監視式神がキャッチすると、すぐさま防衛軍の救助部隊がテレポートしてきた。
その様子を確認すると、僕とアルテミアはその場から離脱した。
雲海が眼下に広がる山頂まで、移動すると、アルテミアが僕に訊いた。
「なぜ剣になった。なぜ!あたしに任せた」
「何故って?」
少し怒っているアルテミアに、僕は目を丸くすると、こたえた。
「君は、太陽のヴァンパイアで」
「あたしが、太陽のヴァンパイア!?」
驚くアルテミアに、僕は笑顔で頷いた。
「昔からそうだろ?僕は君のサポートで、道具。モードチェンジ、モードチェンジと、何度君に使われたか」
「それは昔のことだ」
アルテミアは顔を真っ赤にした。
「昔じゃないよ」
僕はアルテミアを見つめた。
「え」
「アルテミアはずっと…僕の勇者だ」
そう謂うと、僕は静かにアルテミアを抱き締めた。
天空のエトランゼ
完結。
皆様、ありがとうございました。