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幾ばくかの命

灰だったものの笑みを見た瞬間、僕はアルテミアをかばうように前に出ると同時に土を蹴り、ダッシュした。その動きは一秒もかからず、灰だったものの前まで来て、蹴りを叩き込んだ。


「ほお」


灰だったものの体が、爆散しながら、感嘆の声を上げた。


「貴様が…噂の…赤の王か」


蹴りの威力で、爆発した体を…数メートル後方で再び再生しながら、灰だったものは嬉しそうに笑った。


「破壊力だけならば、我が王に近いな。しかし!」


灰だった体が、さらにぎゅっと固まっていった。


「我が王ならば!塵になどなることも叶わず!消滅していたわ!」


「チッ」


軽く舌打ちすると、アルテミアが僕の後ろから飛び出し、


「だったら、すぐに消滅させてやる!」


スパークする右手を、灰だったものに突き刺そうとした。


「フッ」


灰だったものは鼻で笑うと、再び灰と化した。


アルテミアの右手は空を切り、地面に着地した瞬間、散らばった灰が元に戻り、アルテミアを羽交い締めする形で固まった。


「アルテミア!」


駆け寄ろうとした僕を、アルテミアが制した。


「これくらい、すぐに」


全身をスパークさせようとしたアルテミアの耳元で、灰だったものは囁くように言った。


「できますか?勇者…アルテミア様」


灰だったものがにやりと笑うと、アルテミアと僕らの周りの土が崩れ、地下に落下した。


「何!?」


突然足場を失い、戸惑う僕は慌てながらも、アルテミアと灰だったものの動きをとらえていようと、落下していく体を気で覆い、炎の翼を広げ、安定させた。


しかしその瞬間、僕は唖然とし、アルテミア達から視線を外すと、猛スピードで降下し、底に着地すると、炎の翼を目一杯広げて、落下してくる地面や瓦礫を空中で燃やし尽くした。


「流石は、赤の王。その素早い対応は、王に恥じぬ」


僕が炎の翼を消すと同時に、灰だったものはアルテミアを羽交い締めにしながら、底に着地した。


「貴様!」


僕は怒りで身を震わせながら、灰だったものを睨んだ。


「島中の人間はすべて始末したつもりだったのだが、地下に逃げたものがいたようでね」


灰だったものが指を鳴らすと、地下に灯りがつき、周りの様子が露になった。


百人近くの女、子供がいた。


しかし、彼ら彼女達はすべて、万全な状態のものはいなかった。全員が倒れ、うずくまり、嗚咽し、吐き続け、泣き、喚き続けていた。


「一人一人違う病にかけています」


灰だったものは、愉しそうに笑った。


「貴様!」


僕は状況を理解し、灰だったものを睨んだ。


「赤の王よ。自己紹介がまだだったね」


灰だったものは、アルテミアを羽交い締めにしている腕に力を込め、


「我が名は、フルハウス。病を司る魔神。ライ様によって創られた…最初の魔神の一人」


爪をアルテミアの白い肌に突き刺そうとした。


「流石は、ライ様の娘。我が魔力では、傷をつけることはできない!しかし!この体は、ライ様頂いたもの!ライ様の期待を裏切り、人間の側に付き、勇者を名乗る!それは万死に値する」


フルハウスは、僕に目をやった。


「どうする?赤の王。あなたの力で、ここにいる人間を治せますか?ククク…我が魔力も、あなたには通用しない!」


「くっ!」


僕は顔をしかめた。


「しかし、あなたは人間を救えない!勿論、あなた自身も!」


フルハウスは、視線をアルテミアに移した。


「何が言いたい」


アルテミアは、首を絞められながら、フルハウスにきいた。


「ライ様から受け継いだ力を捨てろ!人間になれるんだろ?そして、裏切った罰を受けるんですよ」


「そんなことをして、何になる!」


僕は叫んだ。


「ここにいる人間はあと数時間で、全員死ぬ。しかし!貴方が人間になるならば、症状を軽くしてあげますよ」


フルハウスの言葉をきき、アルテミアは目で苦しむ人々を確認すると、すぐに頷いた。


「やめろ!アルテミア!」


僕の叫びに、アルテミアは軽く微笑んだ。


次の瞬間、アルテミアの肌に、フルハウスの爪が刺さった。


「アルテミア!」


思わずフルハウスに襲いかかろうとした僕を、アルテミアは震える手で制した。


「赤星…」


アルテミアの全員が真っ赤に腫れ上がっていくなか、最後の力を振り絞り、掌を僕に向けて広げた。  


しかし、体の色が真っ赤から黒に変わると、アルテミアの腕は落ち、羽交い締めを解いたフルハウスの腕の中から崩れ落ちた。



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