第2章 断罪の戦士達 第52話 開幕
ヒトヒトと降りしきる雨の中、銃を構え、移動する部隊があった。
熱帯のジャングルは雨期に入っており、ぬかるんだ足下と視界を遮る草木が、やたらと隊員達の神経をすり減らしていた。
「どこにいる?」
十五人からなる部隊は、激しく振り出した雨音や鳥や獣の鳴き声よりも、自らが持つカードの警戒音に…怯えていた。
「この反応は、間違いありません!やつです」
四方に、銃を突き付けながら、隊員の1人が叫んだ。
「馬鹿な…なぜ、やつがこんなジャングルにいる!」
アマゾンのちょうど真ん中辺り。アマゾン川からは、数百キロ離れていた。
自然の宝庫であるこの地域に、人は勢力範囲を伸ばしていた。
獰猛な獣や、魔物もいたが、魔神クラスはいなかった。
それに、魔王ライが全世界にばらまいた…精霊達を殺す物質は、このジャングルには少なく、カードのポイントを最小限に消費するだけで、魔法を使うことができた。
昼間でも、死に絶えたはずの精霊や妖精達が、飛び回っていた。
しかし、今日は精霊達がいない。
魔物でさえ、遭遇しない。
ただ天をも隠す程の緑が、あるだけだった。
「もうすぐ基地に着く!それまで、頑張れ」
先頭を歩く隊長らしき者が、激励した。
十五人は、あらゆる角度を警戒しながら、ジャングルを抜けようとしていた。
ふと…上を見た隊員は、木々の枝の向こうに、黒い影が飛び去ったのを見たような気がした。
首を捻っていると、後ろから来た隊員にぶつかった。
「チャーリー!ぼおっとするな!」
隊長が、叫んだ。
「はい!」
チャーリーは身を引き締めると、敬礼し、また歩き出した。
「もうすぐ基地だ」
数ヶ月前、消滅させられた総本部に代わり、防衛軍は各地域に基地を作り、拠点を広げようとしていた。
部隊が向かっている基地もまた、そんな新しく作られたものだった。
自然と精霊達の力を借りる為の基地。
発電所ではなく、発魔力所ともいえる場所だった。
「着いたぞ」
部隊は、ジャングルを抜けた。
そこは、ジャングルの隙間ともいうべき広場だった。
巨大というわけではないが、三百メートルの広さに、塀が築かれ、学校の校舎程の建物が、ある種堂々とジャングルに建ち、異彩を放っていた。
慌てながら、隊長はカードを塀の入口に設置してあるセキュリティシステムに、差し込んだ。
扉は静かに開き、中へ飛び込もうとした隊長に、人が倒れこんで来た。
驚きながらも、抱き止めた隊長は、それが基地の職員であることがわかった。
「どうした?何があった!」
倒れてきた職員の体を揺すると、職員は顔を上げた。その表情に、生気はない。
職員は、最後の力を振り絞って、隊長の腕を掴むと、口を動かした。
「に、逃げろ…」
「何があった!」
「バ、バンパイア…」
それが、最後の言葉となった。
職員は、ミイラのように干からびると、隊長の腕の中からすり落ちた。その首筋には、2つの傷痕が…。
「バンパイア…」
呆然としながら、呟いた隊長の目の前に、天使が舞い降りた。
それは、六枚の蝙の羽と、黒い鎧を身に纏い、漆黒の髪に、血よりも赤い瞳。
異様な程の底知れぬ魔力に、恐怖を感じるよりも、人はその美しさに心奪われ、動けなくなる。
魔性とは、彼女の為にあるのだ。
かつての少女は、狂おしい程の美しさを讃えていた。
それが、女というものなのか。
しかし、彼女とって、目の前にいる人間達は、単なる獲物でしかなかった。
彼女の微笑みから、牙がこぼれた。
ここは、彼女の喉満たす場所でしかない。
天空のエトランゼ…第二章
〜断罪の戦士達〜
開幕…。