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病鬼

神は神を見捨てた。


泣き叫ぶ赤ん坊。踞る男。嗚咽する女。身をかきむしる人間。

老人はすべて死んでいた。


「王よ」


ただ一人、立ち尽くす黒き影は、天を仰いでいた。


「何故、あなたは私を…見捨てた!」


黒き影は三メートル程の身長があり、叫んだ瞬間、さらに数倍に巨大化した。まるで蝋燭の炎が、一瞬で燃え上がるかのように。


「このようなか弱き、虫けらを気にされ!私を!あなたから遠ざけた!」


黒き影は視線を落とし、遥か彼方を睨んだ。


「王よ!」


眉間に皺がいった次の瞬間、黒き影は四方にも広がり、地に群がる人々を覆い尽くし、燃やした。


半径100キロが、火の玉に包まれ、消滅した。








「…」


魔界と人間界の境界線である結界のそばにあるヒマラヤ山脈の山頂を、赤いワンピース一枚でゆっくりと歩いていた女は、足を止めた。細長い目を更に細くすると、振り返った。


すると、女の背中の中から、ポニーテールとツインテールの二人の女が飛び出してきて、その場で跪いた。


「リンネ様。今の魔力は炎」

「しかし、これ程の広範囲に及ぶ攻撃」

「我が炎の騎士団に、そのような作戦予定は」

「魔力の力からして、野の魔物ではあり得ません」

「勝手な行動をしないように、厳重注意を」


矢継ぎ早に話す二人に、リンネはくすっと笑うと、跪く二人を見下ろした。


「ユウリとアイリよ」


「は!」


二人は更に、頭を下げた。


そんな二人に、リンネは微笑むと、再び視線を遥か彼方に向けた。


「あやつは、炎の騎士団ではないわ」


そう言うと、リンネはにこっと笑った。








「…」


魔界の中心にある城。その最上階にある玉座に、申し訳なさそうに座るサラの前に、巨体を誇るギラが姿を見せた。


「北極大陸の近くにあった島が壊滅した。人間も含め、そこにいた魔物もだ」


ギラの言葉に、サラの表情が変わる。眉を寄せ、ギラを見上げた。


「北極?」


「ああ」


ギラは頷くと、サラに背を向け、北を睨んだ。


「やつか」


サラはため息をついた。


「ライ様に追放され、自ら…北極の氷の中で眠りについた…魔神」


ギラも、眉を寄せた。


「狙いは…アルテミア様」


「もしくは…少年」


「だが」


サラも、北を見た。


「アルテミ様も、赤の王も…ただの魔神では相手にもならん。心配は無用」


ギラは肩をすくめて見せた。


「いや」


その時、玉座の後ろ、闇から染み出すように、カイオウが現れた。


カイオウの出現にも、微動だにせず、サラとギラは目だけを彼に向けた。


カイオウは玉座の横を通り過ぎ、ギラの横に来た。


「忘れたか?あやつは…病魔よ」


カイオウの言葉に、ギラとサラは再び視線を北に向けた。






北の島が壊滅した頃、普通ならばすぐに、異変に気付くはずである二人は…それどころではなかった。


「ア、アルテミアさん」


後退る赤星浩一の前で、雷鳴を身に纏うアルテミアが鬼の形相で立っていた。


「浮気か?」


二人は、修羅場の真っ最中であった。

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