忌み深く
高坂ではなく、装飾銃を見つめながら、新真悟はにやりと笑い、両手を広げた。
「永かったよ。先代のテラが亡くなり、その力は失われたと思っていた!しかし、違った!ある男が教えてくれた!」
「ある男だと?」
高坂は眉を寄せた。
「その男は、異世界の炎の神と共にいた。男は言った!この世界の神の力は、異世界に封じ込まれていたが、解放されたとな!」
新真悟は、黒い鎌を高坂に向けた。
「どういう意味だ!」
体勢を立て直した輝が、新真悟に詰め寄ろうとしたのを、そばまで来た高坂が手で制した。
高坂の銃口と鎌の先が触れあう。
「先代のテラは間違っていた!滅ぼす者は、人間ではなく!それ以外の者達だ!」
笑う新真悟が鎌を振り上げた瞬間、高坂は引き金を弾いた。
新真悟の体がくの字に曲がり、跳ね上がった。
「流石は…神の力…。死人である我さえも…」
嬉しそうに笑いながら、新真悟は消滅した。
「部長!」
真悟が消滅したのを見て、喜ぶ輝とは対照的に、高坂は銃口を下ろすと、背を向けて歩き出した。
「行くぞ。輝」
「ぶ、部長?」
「真理亜君を、テラにしてはならない」
高坂は走り出した。
「部長!」
慌てて輝も走り出した。
「最初から仕組まれていたんだ!」
高坂は唇を噛み締めた。
「先程死神の言った…男と異世界の神って…」
全力で走ると高坂を抜き去る為、スピードを合わせた輝が訊いた。
「恐らく…いや、決まっている!俺の兄と…騎士団長リンネだ!」
「リンネ!?」
絶句する輝とは違い、高坂は顔をしかめた。
「犬上の血を低く橘真理亜君を狙ったのも、我々を誘き出す為だ!いや、違うな…」
高坂はため息をつき、
「忌々しい。馬鹿兄貴が…生きていやがったか」
フッと笑い、小声で、
「仕方がないか」
呟いた。
「あはははは!」
高らかに笑う辰巳京に向かって、頭上から回転蹴りを狙う天上和幸と、突きを放つ緑との二段攻撃で、彼女を真理亜から引き離した。
するとそのまま流れるような動きで、緑は真理亜の腕を掴むと抱き寄せ、後方に下がった。
「君は!」
真理亜は、和幸の背中を見て叫んだ。
「…」
和幸はその声には答えず、真理亜を背中で守るように辰巳と対峙した。
「人ならざる化け物の癖に!我々の邪魔をするな!」
辰巳の言葉に、和幸は鼻を鳴らした。
「人ならざる?俺は元々人だったぜ。今も人の心は、残っている。教えられた…勇気とともにな」
和幸はちらりと、後ろの真理亜を見た。
「化け物の癖に、人間のような口をききよってからに!」
辰巳の体の中から、新真悟が姿を見せた。
いや、一人ではない。いつの間にか、三人の周りを数え切れないほどの新真悟が取り囲んでいた。
「我々は一人ではない!人間だけの世界を創る為に、死んでもなお、死神となりて、仲間を集い、戦うものなり。悪魔、妖怪、魔物などはこの世界にはいらない!人が栄えし、この世界を守る為に、我々は存在する!」
「人だけの世界を守る?」
緑は、真理亜を抱きしめながら、刀でしょう周りを牽制した。
「人だけか」
和幸は腰を屈め、蹴りの体勢に入り、
「俺も守りたいものがいる。だけどな!そいつは、魔物とわかっても、俺を助けようとしたぞ!」
地面を蹴るとジャンプした。
「憐れな人から放れたものよ!せめて、無惨に殺してやろう!」
和幸のキックが、一人の新真悟に炸裂した瞬間、他の新真悟が動き出した。
「やめろ」
その時、戦場に、高坂と輝が到着した。