幽玄の彼方へ
「すいませんでした」
部室に帰って来るとすぐに頭を下げる緑に、深々とソファーに腰をかけていた高坂はゆっくりと立ち上がった。
「謝ることはない。お前の行動で一つの真実がわかった」
高坂は空を睨むと、
「死神は我々が思うような…神ではない」
舞の背中に目を向けた。
「辰巳京の居場所を探るよりは、橘真理亜君の周りを警護する。輝に伝えろ。緑とやりあった男はおそらく」
「輝なら、辰巳京を探しに行きましたよ」
つっけんどんな舞の言葉に、高坂は目を丸くした。
「いつの間に…」
「あいつ、行動は早いですから」
パソコンの画面を睨むながら、煎餅を食べる舞。
「くっ!」
高坂は顔をしかめると、その場から走り出した。
「部長!」
訳もわからず、緑は高坂の後を追った。
「まったく…」
舞は画面から目を離さずに、煎餅を噛みきった。
「いつもいつも…ろくな相手がいない」
舞は、パソコンに文字を打ち込んだ。
「新の真…死神」
だが、検索はしなかった。
「今回は、緑先輩もいるから」
舞は煎餅を噛み砕いた。
「やれやれ~」
とある路地裏で、輝は白い装飾銃を前に浸き出していた。
「退いてくれないかな?」
輝の言葉に、銃口の先にいる男は微妙に口許を緩めた。
「退いてもいいが…その前に、その銃を頂こうか。我々にはその銃が必要らしい」
輝の前に立つのは、新真悟だった。
「銃だと?」
輝は眉をよせた。
「そうだ!その力が、必要なのだよ」
新は不気味に笑った。
「き、貴様!」
輝はぎゅっと銃身を握りしめた。
「その銃だ!その…女神の力を宿した銃が!」
いきなり、新の体が数倍に膨れ上がった。
「やっと見つけた!流石は、犬上家の一族!」
「どういう意味だ!」
輝の髪が白くなり、全身を淡い光が包んだ。
「だがしかし!その力は、この世界のものだ」
さらに体が倍になると、新の体倍に影のように長くなり、頭上から光るに襲いかかった。
輝と新が接触している頃、大学の授業が終わり、キャンパスを後にする橘真理亜の前に、辰巳京が姿を見せた。
「京!?」
真理亜は驚きの上げた。
「真理亜」
微笑む京。
「ずっと学校に来てなかったでしょ!心配したのよ。何かあったの?」
京に駆け寄り、抱き締める真理亜。
「何もなかったわ。大丈夫よ」
抱き締め返しながら、京はにやりに笑った。
「部長!どうして、狙われている辰巳京よりも、橘真理亜を警護するのですか?」
街中を高坂の後ろを走りながら、緑がきいた。
「依頼者である橘亜依子は、娘を守る為に、娘の親友の警護を依頼した?何故、娘本人ではない?何故、橘真理亜の警護にあの男がいる?何故、死神…新真悟は、輝の銃を見て、すぐに消えた」
高坂は、全力で走っていた。
「八百万の神々…。しかし、この世界を、人間の世界をつくったのは、1人の神だ。月の女神、イオナ。そして、その力を継ぐ者…テラ」
「テラ?」
緑は眉を寄せた。
「しかし、テラはいない。その力を銃に残して死んだ」
高坂の脳裏に、自分に銃を渡す美奈子の姿がよみがえった。
「死神が迎えに来る…人間。それはもしかしたら」
高坂は、真理亜が通う学校近くで足を止めた。
遠くに抱き合う二人の女子の姿が見えた。
その間の道に、1人の男が立っていた。
「あいつは!」
緑が、高坂を追いこした。
「問題は…」
高坂は天上を見ずに、その向こうの二人に目を細めた。
「どちらがテラだ?」