手にしたもの
「舞の野郎!先輩も見つかったのに…」
と毒づいた後、輝の脳裏に、高坂の顔が浮かんだ。
「そ、そうだった」
輝は頭を抱え、
「あの人が帰って来た…つまり、問題が増えるだったな」
ため息をついてから、京の後を追おうとして舌打ちした。
すぐ前にいたはずの彼女の姿がない。
「チッ!都会は厄介だな」
町の喧騒と人々の生活の臭いは、一人の女の匂いを消すなんて容易なことであった。
「そうじゃない。これは!」
輝はワインレッドのベストのポケットから、サングラスを取りだし、かけた。
分厚いレンズに隠された輝の目が、赤く光る。
「情報屋」
突然、輝の耳元で声がした。
「!?」
驚く輝が振り返った時、声をかけた者は前に立っていた。
「今は、修正屋と名乗っていたかな」
その声に、輝はわなわなと震えながら、ゆっくりと体の向きを変えた。
「これは…これは」
輝は、正面を向いた。
赤い瞳。犬神の力を行使していなかったら、見えなかった存在。
「死神。やっと見れたな」
輝は、目の前にいる人物を凝視した。
白いスーツを着た、細身の男。睫毛がやたら長く、紫色だった。
死神は、自分を見つめる輝から、はにかみながら目をそらした。
「死神?そう言われるのは、心外だな。我々は、死に行く人に祝福を上げに来ただけだ。大体だな。我々が来るなんて、特別なことなんだよ。最近は勝手に自ら、命をたつから…迎えにくる暇がないんだ」
「人間がいつまでも!貴様らが勝手に決めたレールに乗り続けると思うなよ!」
輝は唇を噛み締めると、ベストの内側からあるものを取り出した。
「ほお~」
輝の手にあるものを見て、死神は目を細めた。
「人間を代表するかのように話したと思えば…神の力にすがるか」
「すがる訳ではない!」
輝が手にしたものは、6つの銃口がある…白い装飾銃。
「人は二本足で立ち、何かを掴むことを選んだ時から!人間は、その手にしたものを道具に!希望を掴む為に!」
輝の宣誓のような言葉の途中、死神は肩をすくめると、その場から煙のように消えた。
「!」
銃口を突きだしたままの姿で固まった輝の脳裏に、高坂の言葉が甦る。
(俺は人間だ。そう簡単には神の力を使えないが…お前はその身に神を宿している)
高坂はフッと笑うと、装飾銃を回転させ、グリップを輝に向けた。
(神レベルと遭遇するときもあるだろう。お前は俺よりもな)
高坂は、輝の目を真っ直ぐに見据え、
(お前は人であるが、神でもある。人間の為だけでなく…己の為に、生きる為に使え)
優しく微笑んだ。
「部長」
輝は、装飾銃をベストの裏に隠した。
すると、舞から通信が入った。
「銃を抜いたところは見えたけど…それほどの敵がいたのね。映像に映らない相手が」
舞の言葉に、輝は死神がいた空間に目を細めた。
「死神…新真悟」
空間を睨み付ける輝の鼻先を、光線がかすめた。
輝の足元のアスファルトが、数センチ蒸発した。
「てめえ~!黄昏るのは、いいけどさ!ターゲット見失っているぞ」
舞の怒気のこもったら口調に、輝はサングラスを外すと慌てて走り出した。