そして…永久に
「人も魔もおもしろいわね」
真っ暗な暗闇の中で、可笑しげにくすくすと笑うリンネ。
「助けに来たのではないのか?」
暗闇の中で浮遊するかの如く、横たわっているのは、幾多であった。
「一つの時空が消えた。所詮、急造の世界なんて脆いものよ」
笑いをとめ、無表情となったリンネが指をパチンと鳴らすと、周囲に明かりがついた。
「すぐに来なかったな?」
「だって暑いの苦手ですもの」
可愛く言ったリンネに、この前の反省から、幾多はただ頷いた。
「そうだったな」
そう呟くように言った瞬間、幾多の周りの空間が変わり、そのまま下に落下した。
「痛っ!」
背中に地面の感触を感じ、幾多は真上を見上げた。
「ブルーワールドか…」
澄み渡る空の下で、幾多は大の字になりながら、目を細めた。
「ところで」
そんな幾多のそばで、仁王立ちのリンネが彼の顔を覗いた。
「あなたの愛しい弟は、あなたが死んだと思っているわよ」
「フッ」
幾多は刺された部分に、手を当て、
「人殺しで、ついには人間じゃなくなったなんて…言えるか」
ふさがっているのを確認すると、
「いや、別に言う必要はない。例え兄弟だとしても」
拳を握り締めた。
そんな幾多から、リンネは視線を外すと、遥か彼方を見つめ、口を開いた。
「ところで、今のあなたは人間?それとも」
「人間だ」
幾多は即答した。
「どんなに罪を重ね、化け物になろうと、本質は変わらない。俺は人間だ。人から生まれ、人を殺し…人を愛し、人を守る。そんな矛盾な生物は、人間だよ」
その答えを聞いて、リンネは微笑んだ。
「だったら、好きに生きなさい。この世界は、人も魔も平等にいるんだから」
「ああ…。好きに生きるさ。生きるということこそが、最大の矛盾だ。他を食い、己を生かす」
頷き笑いながら、幾多が立ち上がったときには、リンネはそばから消えていた。
「さてと」
幾多はリンネを探さず、背伸びをすると徐に、歩き出した。
「何をしょうか」
決めてはいなかったが…決まっていないことが、幾多は堪らず嬉しかった。
城内が騒がしかった。
魔物達が飛び回り、危険を察知したのか、ところどころで奇声を発していた。
「王よ」
側近である蛙男が汗だくになりながら、玉座の間に飛び込んできた。
「何事だ?」
玉座に座るサラの隣で立っていたギラが、ため息混じりにきいた。
報告内容はわかっていた。接近する二つの魔力も感じていた。
「て、敵襲です!で、で、ですが!一人は、里帰りの…」
「もうよい!通せ!どうせ、ここにいる軍勢すべてをもってしても、止められんしな」
ギラは人差し指で、こめかみを押さえた。
数秒後、玉座の間に飛び込んできたのは、アルテミアと赤星浩一だった。
「ア、アルテミア様!お懐かしゅう!」
涙を流しながら、アルテミアに抱きつこうとする蛙男。
しかし、アルテミアは手にしたトンファーで、蛙男をボールのように打ち返した。
「あれれえええ~!」
玉座の間から、遥か彼方に飛んでいく蛙男。
「ア、アルテミア」
浩一はアルテミアのそばで、申し訳なさそうな顔をしていた。
「赤星!勝負だ!どちらが、魔王を倒すか!」
「サラ…ブレイク」
アルテミアが攻撃する前に、サラは視線を合わせず、ただ手から雷撃を放った。
「ギラブレイク!」
ギラも雷撃を放った。
「すいません」
浩一は頭を下げると、後ろからアルテミアを羽交い絞めにし、回避できないようにした。
「な!」
唖然とするアルテミア。
二つの雷撃は、アルテミアを直撃した。
「失礼しました」
浩一は黒こげになったアルテミアを抱え、頭を何度も下げながら、玉座の間を後にした。
「フン。まったく…どちらが、魔王だと…」
サラは鼻を鳴らすと、天井を見上げた。
「まあ~よいではないか。あんな楽しそうなアルテミア様は、久しぶりに見たぞ」
ギラは嬉しそうににやにやと、笑っていた。
「そうだな」
そんなギラに少し冷たい視線を送った後、サラは微笑み、玉座に座りなおし、もたれかかった。
「私には、広すぎる…」
そして、目をつぶった。
すると、サラの瞼の裏に、孤独な影が浮かび上がった。
「あの方には、狭すぎた。おそらく…アルテミア様にも」
「ああ…。我が主達には、狭すぎる」
ギラは深く、頷いた。
「さっきは、よくも邪魔をしてくれたな!バカ星!」
城のそばにある向日葵畑の中で、対峙するアルテミアと浩一。
「やはり、決着は!直接、つけないとな」
アルテミアの手には、ライトニングソードが握られていた。その剣先を、浩一に向け、
「もし!あたしが負けても!お腹の子が、必ず!仇をとってくれる!」
ゆっくりと腰をかがめた。
「どうして、自分の子供が仇討ちを?そもそも、どうしてアルテミアと!」
浩一は降参の意味で、両手を上げた。
「あたしは、自分より弱い男が嫌いだ!」
ライトニングソードが電気を帯びる。
「それに!」
「それに?」
アルテミアは、女神の一撃の構えに入る。
「異世界で、幼女といちゃつきやがって!この変態!ロリコン!浮気者!」
「あれは、俺じゃなくて!俺の無意識の欠片で…」
普段以上に、魔力を帯びた剣を見て、浩一は一歩下がった。
「やっぱり!若い子がいいんだ!この淫乱勇者!死ね!」
剣から放たれた雷撃を見つめながら、直撃するまでの瞬きの間に、赤星浩一は思った。
(別に、あの欠片…いらなかったなあ~)
よけることはできなかった。ティアナが植えた向日葵畑を消す訳にもいかない。それ以上に、この攻撃よりもアルテミアが怖かった。
(だ、大丈夫だよな…俺?一応、強くなったはずだし…)
数秒後、大地を…地球を揺るがす爆発と地震が、世界を揺らしたが、程なくして何事もなく元の静寂に戻った。
「平和なことで」
静寂を取り戻した向日葵畑の中に、ティフィンがいた。妖精であるティフィンは、小さな体で花びらにもたれながら、ため息をついた。
「惚れた女が悪いわ。ご愁傷様」
肩をすくめながら、その場から飛び去った。
ブルーワールド。
この世界に生きるものは、人であろうが魔であろうが…誰と戦い、誰を愛そうが、過酷な世界で、もがくもの達は…ただ生き、ただ食い、息をしているだけなのだ。
そして、皆は…いつか、自分が何者かを知り、ただ気づく。
生きろ。
それだけが、この世界のすべて。
死者になるな。寿命が尽きるまでは。
終わり。