表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
548/563

おかえり

「ここは、かつて梓くんが創った世界のはずだ。しかし、彼女の姿が見えない」


高坂は装飾銃を、ぎゅっと握り締めた。


「柳川さんは…」


九鬼は言葉を濁し、目を伏せた。


「生徒会長!」


高坂の手から装飾銃が消えると、その手で九鬼の腕を取った。


「かつて俺は,彼女の依頼を解決することができなかった。その結果が、この世界というならば!彼女は幸せにはならなかったのか?」


高坂の言葉に、輝が肩をすくめた。


「彼女は死んでいますよ。何百年も前にね。幸せも何も」


その言葉に、高坂は輝を睨んだ。


「死んでも、幸せになりたかった思いを馬鹿にはできん!」


「だけど、この馬鹿のいう通りよ」


腕を組んで様子を伺っていたさやかが、口を挟んだ。


「人は死んだら終わりよ。例え、意識が残ろうが、都合のよい世界をつくろうが、それはすべてまやかし。死んで幸せになろうなんて」


さやかは、そこで言葉を切り、囁くように言った。


「生への裏切り行為よ」


「裏切り…」


高坂は呟いた。それから、九鬼の腕をゆっくりと離した。


九鬼は自分から離れていく高坂の手を見つめながら、口を開いた。


「柳川梓…彼女は、今居た世界では、天照と名乗っていました。わたし達と別れた後、あの世界にいた学生達ものちに、全員亡くなりました。食べ物がない世界で、餓死して。人は、夢だけでは生きていけません。最後は、絶望して死んでいく人々を見て、彼女は後悔し、自分を責めました。その結果、彼女は自分を地獄に落とすことにしました。虐待された幼い子供。それが、天照です」


「天照?大げさな名前」


輝は、顔をしかめた。


「しかし、予想外の出来事が起こったのです。それが、須佐…赤星浩一の欠片です。おそらく」


九鬼は、高坂を見つめ、


「あなたと私は、呼ばれました。私は、闇の女神に。あなたは、柳川梓に。そのあなたの気を追って、須佐はあの世界に来た」


深く頷いた。


「どうして?俺を?」


高坂は眉を寄せた。


「それは、わからない。だけど、あなたも私も、彼の学友だったわ」


「学友?」


九鬼の言葉に、高坂ははっとした。


「浩也くんか!」


高坂の口から出た名に、九鬼は微笑んだ。


「赤星浩也」


緑は、昔を思い出していた。


「須佐と闇の女神の争いの中で、天照は死にました」


「だけど、柳川梓は死人でしょ?」


輝は首を傾げた。


「あの世界は、須佐の暴走により消滅したはずです。天照になった彼女に再び、世界をつくるほどの力があるとも思えません」

「そうか」


九鬼の考察に、高坂は後ろを振り返った。


「願わくば…生まれ変わって、幸せになってほしい」


その言葉に、カレンは大きく欠伸をし、背伸びをした。


「くだらない。魔物がいるブルーワールドでは毎日、数えきれないほど、人が死んでいる。食われたら、死んだら、殺されたら終わりだ」

 

そして、高坂達を見た。


「死後の世界で、しあわせ?違うな。生き抜くことがしあわせだ」


「いくのね。カレン」


「ああ」


カレンは、九鬼に向かって頷いた。


「危機は去ったしな」


そして、背中を向けると手をあげた。


「またな。どうせ会うのは、戦場だろうが…神となったお前が、敵にならないことを祈るよ」


「カレン」


九鬼は、カレンの背中を見送った。


カレンはピュアハートを取り出すと、空間に突き刺した。


すると、カレンの姿が空間から消えた。


「カレン・アートウッド…」


さやかは、カレンが消えた空間を見つめた。


「ティアナ・アートウッドの血筋にして、アルテミアの従妹」


「純粋な強さとしたら、人類最強の女性ですよ」


九鬼は微笑んだ。


「一応…終わりか」


高坂は、空を見上げ、


「一度は契約破棄になった依頼ではあるが…」


真上にある太陽に目を細めた。


「君を救えたのだろうか?」


高坂の悔いに、輝が背伸びをして答えた。


「部長。俺達はただの人間ですよ。そのただの人間が、他人の頼みをノーギャラで請け負い、異世界で神レベルを相手にしたんですよ。お人よし過ぎますよ。まったく」


輝の言葉に、高坂は笑った。


「それが、俺達学園情報倶楽部だからな」


そして、そう言うと学園内の部室に向かって歩き出した。


「はいはい。そうでしたね」


輝は、頷いた。


「文句をいわない」


緑は後ろから、輝の頭を小突くと、高坂のあとを歩き出した。


さやかも腕を組みながら、無言で三人の後ろを歩き出した。


そんな四人の後ろ姿をしばし見つめた後、九鬼は深々と頭を下げた。





「…」


カレンはピュアハートを突き出した格好のまま、次元の壁を破り、ブルーワールドのとある岬の上に立っていた。


「天晴れじゃた」


剣先には、カイオウが居た。カイオウはゆっくりと頷くとその場から消えた。


「帰れたのか?」


カレンは剣を下げると、周囲を窺った。


「ご苦労」


後ろから、声がして振り返ると、そこには…ジャスティンが立っていた。


カレンは鼻を鳴らすと、嫌味ぽく言った。


「馬鹿師匠」


そんなカレンの言葉に、ジャスティンは微笑みながらこう言った。


「おかえり」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ