矛盾を抱えて
「相変わらず、お前は」
アルテミアの背中から白い翼が生えると、太陽のように輝き膨張する須佐の体を包んだ。
「バカ星が…」
その瞬間、太陽を包んだ翼は白い球体となり、まばゆい光を放ちだした。それは、太陽よりも輝いていたが、目にやさしく…暖かかった。
「俺は…」
球体の中で、須佐は目覚めた。周りを確認しても、光しかしかなく…自分が立っているのか、寝ているのか、浮かんでいるのかさえわからなかった。
「お前は俺」
どこからか声がした。
「誰だ!」
須佐は叫んだ。
「俺の悪意。俺の無垢な心。七つの玉にわけられた時、俺の心から弾き出されたもの。勇者でなければならない。人を守るためなら、魔物を殺す。人を殺してはいけない。バンパイアの癖に。魔王と結ばれてはいけない。僕は人間だから」
「誰だ!」
「多くの魔物を殺し、目の前で多くの人が死ぬのを見た。勇者で、いなければいけない!だけど!」
「俺は!」
須佐の声が、リンクする。
「バンパイア!人間ではない!」
須佐の姿が、変わる。
「そうさ。赤星」
赤星浩一の姿になった須佐の手を、天使の姿のアルテミアが握った。
「あたしたちは、バンパイア。人間の血を吸う!だけど、勇者として戦い、魔王として君臨する…矛盾の存在。だけど、それがどうした?善と悪。そんな簡単ではない。矛盾の存在…それこそ、人間らしい!」
「アルテミア」
「あたしは、人間から生まれ…あんたは、人間から目覚めた。悩めばいい!悩んで、自分なりの答えをだせばいいんだ!」
「そうだね」
赤星の背中から炎の翼が生え、アルテミアと絡み合うように羽ばたくと、白い光の球体がひび割れ飛び散った。そして、その中から炎と光に束が天に向かって上昇し、数秒後に消滅した。
「やったか」
撃ち抜いた空間の向こうに飛び込んだ高坂達は、見慣れた空間に立っていた。
「ここは?」
カレンだけが、すぐにわからなかった。
「おかえりなさい」
「部長!」
「…」
高坂の前に、如月さやかと犬上輝…中小路緑が立っていた。
「我が母校か」
高坂は頷いた。三人が戻ってきた場所は、大月学園だった。
「生徒会長も」
如月さやかは、九鬼に向かって微笑んだ。
「如月部長」
九鬼も微笑み返した。
しばらくの再会の余韻に、関係ないカレンが剣を碑石にしまうと、後ろを振り返りながら、呟くように言った。
「あの世界は、なんだったんだ?」
カレンの疑問に、九鬼が前に一歩でて、こたえた。
「あの世界は昔、とある人間が怨みと未練で作り出したもの。そして、その世界を人の負の心と創造力を使って、力を得ようとした闇の女神が再構築したもの」
九鬼はぎゅっと胸を握り締め、
「完全に闇の女神と融合した今だから、わかる。闇の女神は、その力をもってブルーワールドを我が手にしょうとした。だけど、それはまやかし。人の創造力はすごいけど、それを実現し実行するには、命が肉体がいる。それが、彼女にはわからなかった。こんなに、あたしの肉体を欲していたのに」
目をつぶった。
しばし、考える無言の沈黙が、その場に集うものに流れたが、それを高坂が断ち切った。
「闇の女神でもある君にきこう」
高坂は、九鬼の方に体を向けて、強い口調できいた。
「梓君はどこにいた?」
柳川梓。かつて、この世界を創った人物。