闇より黒く
「くっ!」
マリーとなった良子の斬撃を銃で受け止めた高坂の腕が、凍りついていく。
「あたしは生き返る!」
良子がさらに力を込めようとした瞬間、
「うっ!」
良子は餌付いた。
「無理さ」
凍りつきながらも、高坂は引き金を弾いていた。
「どんなに悔いを残していても…死んだら全て終わりだ」
「…そ、そんな」
氷が割れるようにマリーの体にひびが入ると砕け散り、良子は元の姿に戻ると、消滅した。
「君の人生は終わった。君という本は閉じられたのさ」
元に戻った腕を下ろすと、高坂は瞼を落とした。
「その力がほしかった!すべてを燃やし、蹂躙し、贖うことすらできない力!」
ネーナとなった千鶴は歓喜の表情のまま、火柱と化した須佐に接近していく。
「我が家系の恨み!魔王ライの一族に復讐を!我が恨み!」
ネーナの顔の半分が、タキシードの男に変わる。
「ライはもういない!アルテミアさえ殺す力があれば!われが王に!」
ネーナとタキシードの男は、手を伸ばす。
「無理だな」
その様子を、離れた場所から見ていた幾多は、肩をすくめた。
「え」
火柱と化した須佐から、棘のような炎が飛び出し、接近してくるネーナとタキシードの男の体を貫いた。
「ほしがるやつには、何も手に入らない」
幾多は、目を細めた。
「ば、ばかな…」
ネーナとタキシードの男の体が砕け散り、千鶴に戻った。そして、そのまま地面に落下した。
「うおおおっ!」
そそて、須佐は雄たけびを上げると、空中に浮かび上がった。
「暴走しているのか」
幾多はゆっくりと歩き出すと、地面に倒れる千鶴のそばまで行った。
「あんたが何をやりたかったか知らんが、憑かれているな」
ため息混じりにそう言うと、幾多は上着の裏からデザートイーグルを取り出し、血まみれの千鶴に銃口を向けた。
「せめて楽にしてやるよ」
引き金を弾こうとしたとき、
「また…人を殺めるのか」
幾多の視線の先に、自分に向けられた銃が映った。
「妹を殺し、多くの人を殺してきた!お前は!」
「真か」
幾多はフッと笑うと、数メートル先にいる高坂に目をやった。
「こたえろ!お前はどうして、簡単に人を殺す!」
久々に会った兄を見て、怒りをこえて、高坂の目から涙が流れた。
「それはな」
幾多は突然、高坂に向けて走り出した。
「!」
銃を向けていても、高坂は撃てなかった。
「守るべき人が多いからだ」
「え!」
自分に向かって、微笑む幾多の胸から鮮血が飛び散った。
「あははははは!神の銃!人間の血!それらがあれば!何とか復活できる!」
倒れていたはずの千鶴が立ち上がり、赤い目と牙を覗かして、高坂を見ていた。
「うわあああああああっ!」
高坂は絶叫しながら、引き金を弾いた。