闇からの光
「火柱!?」
幾多は衝撃波と熱風にやられながらも目を細め、目の前の状況を理解しょうとした。
いかに、炎の騎士団長リンネの魔力が体に混ざっているとはいえ、人の目では周囲を正確に見ることはできなかった。
(しばし待つか)
幾多は身を伏せると、爆風が終わるまで待つことにした。
「な、何故だ!君達はあの時!自ら選んで幸せになったはずではないのか!」
高坂の脳裏に、手をつなぐ佐伯良子と柳川梓の姿がよみがえる。
「例え、そこが地獄であったとしても」
情報倶楽部の部室を飛び出し、学園内を火柱の方に向けて走る高坂。その前に突然、木陰から飛び出した一人の女子高生が立ち塞がった。
その女子高生の顔を見た時、高坂は目を見開いた。
「佐伯良子君!?」
足を止めると、高坂は良子の横顔を見つめ、銃口を地面に向けた装飾銃を握り締めた。
「やはり…この世界は」
高坂は一歩前に出た。
「梓君はどこだ?なぜ、このような世界をつくった?君と梓君が望む世界とは、思えない。なぜ、魔物がいる?」
今まで感じていた疑問を、高坂は思わず良子にぶちまけた。
「…」
しかし、良子はこたえることなく、体の正面を高坂に向けた。
すると、次の瞬間…良子の姿が変わった。切れ長の目に、細身の体。か弱く見えるはずなのに、全身から漂う冷たい程の気に、高坂は思わず銃口を上げた。
「き、君は誰だ?」
高坂は、その女性の姿を知らなかった。
かつて…ブルーワールドを震撼させた、女神の一人。
「邪魔はさせない」
水の女神マリー。
「佐伯君?き、君は」
マリーとなった良子のプレッシャーに、高坂は無意識に後退りした。
「邪魔はさせない!あたしはこの力で、あたしの肉体を取り戻し」
マリーの手に、氷のサーベルが握られた。
「生き返る!」
「生き返る?どういう意味だ?」
高坂は銃の引き金に指をかけた。
「あたしは今度こそ!」
マリーのサーベルが、高坂を狙う。
しかし、高坂は撃てずにいた。
「本当の幸せを掴む為に!」
「何を言っている」
高坂は反射的に、サーベルの切っ先を銃で受け止めた。
「…」
差し出された千鶴の手を、カレンは少し見下ろした後、フンと鼻を鳴らした。
「?」
そんなカレンの反応に、千鶴は笑顔のまま眉を寄せた。
「ブルーワールドの魔王か…。笑わせる」
カレンが苦笑したその時、その後ろで火柱が上がった。
「な!」
カレンは驚き、振り返った。
手を差し出した体勢のままの千鶴はしかめた笑顔から、満面の笑みに変わった。
「こ、この魔力は!」
「いい…」
千鶴は腕を下ろすと、両手を広げ、
「これよ!この力よ!この力さえ、あれば!」
再びネーナの姿になると、蝙蝠の羽を広げ、飛び上がった。
「く、くそ!」
火柱から感じる魔力に圧倒され、一瞬動きが遅れたカレンは慌ててその場から走り出そうとした。
「!?」
その動きを邪魔するかのように、進路上に巨大な闇が現れ…その中から、一人の女が姿を現した。
「九鬼!」
カレンは目を見張ると、動きを止めた。
「…」
闇から現れた九鬼は拳を握り締めると、無言のまま、カレンに向かって襲い掛かった。
「は、は、は、は」
何とか魔物を倒した三藤明は変身を解くと、アルテミアから元の姿に戻り、そのままへたり込むと地面に両手をついた。
興奮から、すぐに周りの状況に気付かなかったが、左手の薬指に付けた指輪が突然光った為に、明は驚き、周りを確認した。
「あ、あの人は!」
「装着!」
九鬼の姿が乙女ブラックに変わると、地面を蹴った。
「月影キック!」
「く!」
カレンは顔をしかめると、遊撃の為にジャンプした。
二人の蹴りが、空中で交差した。
その様子を見た明の脳裏に、自分を助けてくれた黒の戦士の姿が浮かび、幼馴染の千鶴の顔やいろんな思い出が頭の中を駆け巡った後…すべての記憶が弾け飛んだ。
(ぼ、僕は!)
すべての記憶が消え、真っ黒な闇と化した。何もない。真っ黒な記憶。
(僕は…一体)
自分が誰かも分からなくなり、明は頭を抱えた。
その瞬間、再び指輪が輝き、真っ黒な頭の中を光で満たした。
(そうだ…僕は…)
明はゆっくりと、立ち上がった。
(あたしは!)
そして、左腕を前に突き出し、真っ直ぐな瞳で前を見据え、叫んだ。
「モード・チェンジ!」
「ま、真弓!」
九鬼がいた場所に着地したカレンは、振り返ろうとした時、突然発生した眩い光に目をやられた。
「ここは任せた」
九鬼ではない女の声に、カレンは唇をかみ締めた。
「て、てめえは!」
視界を奪われたカレンの死角に、九鬼の回し蹴りが放たれた。
しかし、カレンは本能からかその攻撃をかわした。
「アルテミア!」
「フッ」
天使の姿をしたアルテミアは、白い翼を広げると、大空に向けって飛び上がった。