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ララバイトゥデイ

「あり得ないだろ」


カレンは明を抱えながら、どこかわからない場所を走っていた。ブルーワールドでない為に、カードを使った魔力を使えない。


「くそが!」


女の子らしくない台詞を吐くと、カレンは舌打ちし、気を張りながらスピードを上げた。


こういうときには、自力がものを言う。


軽く塀の上に飛び乗ると、高い建物の間…影になる場所を選びながら、屋根を走った。


(気を抑えろ!だけど、向こうの魔力は)


ネーナの魔力を探ろうとしたカレンは、足を止めた。


「消えている!?」


まったく存在を感じることができないことに愕然しながらも、カレンは無理に笑ってみた。冷静さを取り戻す為に。


「ここは、異世界だ!すべてを受け入れろ。そして、すべてを否定しろ」


息を吐くと、走るのを止め、普通の速度で歩き出し、カレンはじっくりと心を落ち着けながらも、戦闘体勢を保っていた。


数分後。


「ふぅ」


カレンは息を吐くと、力を抜いた。


「何とか…」


カレンは警戒レベルを下げると、明を地面に下ろした。


「撒けたか」


優しく横たえる動作の途中で、カレンは…明の指についている指輪に気付いた。


「この指輪は…」


カレンは訝しげに指輪を見ていると突然、後ろから声をかけられた。


「人間…。長生きする為には、あまり詮索しないことですよ」


(な!)


カレンは絶句した。まったく気配を感じなかったからだ。


しかし、戸惑いながらも、カレンは振り向き、斬撃を放った。無意識にも、胸に下げたペンダントに埋め込まれた碑石から剣を取り出したのだ。


「ほお〜」


カレンの後ろに現れた…シルクハットを被ったタキシードの男は、感心したように頷いた。


「どうやら…普通の人間ではないようですね」


タキシードの男はフッと笑った。カレンの剣は、タキシードの男の体を真っ二つにしていた。


「あんたもな」


カレンは横目で、ちらりとタキシードの男を睨んだ。


「実体のない私を斬るとは…」


タキシードの男は笑いながら、消滅するかのように消えた。


「何者だ。人間でもない。魔物でもない。しかし…」


カレンは、握り締めた剣を見た。


「ピュア・ハートで斬れたということは…」


それから、剣をペンダントについた碑石に戻した。


「能力を盗めたかもしれない。あとで試すか。だが、今は」


視線を明に戻すと、カレンは指輪に手を伸ばそうとした。


「明くん!」


カレンの前方から、声が聞こえてきた。


「!?」


カレンは、近づいてくる学生服の少女に気付き、心の中で舌打ちした。


(チッ。知り合いか…。今は)


こちらに気付き、走り出した少女までの距離と周りの暗さを考え、カレンは即座に判断した。


(目星はついた。今は、ゴタゴタに巻き込まれる時間はない)


そして、すぐにその場から離れることを決めた。


「明くん」


しばらくして、倒れている明のそばまで来た千鶴は、彼を抱き上げた。


「明くん!明くん!」


明にすがりつきながらも、千鶴はカレンがいた場所に目を細めた後…彼の指輪を確認した。


「明くん…」


指輪を確かめると、心の中でにやりと笑った。






「道化が…」


呟くような声が耳に飛び込んできた為、九鬼は足を止めた。


「!」


異様な気を感じ、夜の町に飛び出した九鬼は、辺りを目だけで探った。


「すいません。あなたのことではありませんよ」


何もなかった闇の空間から染み出すように、タキシードの男が姿を見せた。


「ば、馬鹿なお前は!」


九鬼はタキシードの男の姿を見て、一瞬たじろいだが…数秒で冷静さを取り戻した。


「デスペラード!」


その名を叫ぶと、九鬼はその場で構えた。


「デスペラード?その名は、私には相応しくありません」


タキシードの男は、肩をすくめて見せた。


「生きていたのか!今度は何を企んでいる!」


九鬼は地面を蹴ると、空中に飛び上がった。


「ルナティックキック!」


「いやはや」


タキシードの男は九鬼に向かってダッシュすると、そのまま身を屈めた。


「チッ!」


蹴りを出すタイミングが早かったと感じた九鬼は蹴りを止めて、空中で一回転した。


九鬼の真下を通り過ぎたタキシードの男。


その後ろで着地すると、九鬼は再び地面を蹴り、タキシードの男を追尾した。


(そうです。追って来なさい)


タキシードの男は、スピードを上げた。


「デスペラード!」


九鬼も速度を上げた。





「どうしたの?神様」


九鬼がいた場所に、学生服の男と幼女が姿を見せた。


「強い力を感じたのだが…」


学生服の男は、周囲を見回した。


「誰もいないわよ」


幼女は、キョロキョロと周りを見回した。


「お前は、俺を神と呼ぶ。ならば、名も知らぬ俺は…神になろう。その為には、力が足りないような気がする」


学生服の男は、拳を握り締めた。


そんな学生服の男の姿を見て、幼女は首を傾げた。


「そうよね〜。神様は、神様だけど…名前は、必要よね」


しばらくうーんと考えた後、幼女はあっと声を上げた。


「昔読んだ絵本に、一番偉い神様が出てきたの。その名前は…アマテラス。だけど、アマテラスは女の人だから、その弟の名をあげるわ。確かスサノオウ」


「スサノオウ?」


「須佐と呼ぶことにするわ」


幼女は、学生服の男の腕に抱き付いた。


「須佐か…。だったら、お前の名は?」


須佐は、幼女を見た。


「わたしは、名を捨てたの」


幼女は顔を背けた。


そんな幼女を見て、須佐は視線を前に向けた。


「だったら、お前に俺が名前をくれてやる」


「え」


「俺が、須佐なら…お前はアマテラスだ」


「それは、いや」


幼女は顔をしかめた。


「アマテラスは…ださいわ」


「…」


須佐は黙り込んだ。


「でも…。アマテラスは漢字で、天照と書くの。てんしょうと読めるわね。女の子ぽくないけど、てんしょうで我慢するわ」


フンと鼻を鳴らすと、幼女は照れたように顔を背けた。







「デスペラード!」


タキシードの男を追っていた九鬼は、完全に彼を見失っていた。


「どこだ!」


気を探る九鬼から、数キロ離れた高層ビルの上に、タキシードの男は立っていた。


「先程の女よりは…あの男はまずい。折角用意したフィールドが、壊される恐れがある」


タキシードはシルクハットを脱ぐと胸に当て、九鬼の方に向けてゆっくりと頭を下げた。


「すべては、貴女の為」


そして、床に膝をつけ、


「デスペラード様」


深々と跪いた。

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