赤き星
(と、とにかく…目的は果たせた)
ティフィンは暁直矢の背中を押しながら、できるかぎり遠くを目指していた。
(後は、てめえ次第だ!アルテミア!)
「ちっ」
舌打ちしながら、ミアは立ち上がった。
「ま、まさか…お前がくるなんてな!サラ!」
ミアはサラを睨みながら、ブラックカードを発動させて、体力と怪我を回復させた。
「…」
サラは眉を寄せただけで、微動だにしない。
「出し惜しみはなしだ!」
ミアは、倒れている関谷の背中に手を当てた。
「いくぞ!」
関谷の体が炎に変わり、ミアの身を包んだ瞬間、
「モードチェンジ!」
炎の翼を広げ、天に舞った。
(リンネの次は…サラだと!?情に弱いギラなら、何とか赤の星屑を巻き上げてと考えていたが…)
猛スピードで、その場から飛び去るミアの速さがマッハを超えようとした時、何かが忽然と目の前に現れた。
「天空の騎士団長である我を、振り切れると思ったか?」
空中に浮かぶサラは、溜め息をついた。
「浅はかな」
そして、指を一本だけ動かした。
「な!」
その瞬間、凄まじいGがミアの体にのし掛かると、地面に落下し、めり込んでいた。
「耐久力はなかなかのようだな」
ミアが落下するよりも速く、地面に着地したサラは、めり込む程の衝撃を受けながらも形を保っている鎧を見下ろした。
「お前が何者かは知らぬが…我々でしか相手できぬならば、見逃す訳にはいかぬ」
「く、くそ」
土を掴みながら、何とか立ち上がると、ミアを包む鎧が消えた。
「!」
サラは、目を見開いた。
(な)
そして、息を飲んだ。
自分を睨むミアの姿が、幼き頃のアルテミアと重なったからだ。
「ば、馬鹿な!」
幼きアルテミアを鍛える為の特訓。何度倒しても、アルテミアは立ち上がってきた。
今のミアのように。
「ここで…終わって…たまるか…」
ミアは拳を握り締めた。
「お、お前は…一体!?」
サラは、片手を突きだした。
「あたしは…会わなければならない…」
「サ、サラブレーク!」
サラは本能的に、危険を感じた。その本能が、サラに最強の技を出させた。
「行かないと…」
ミアの足がぐらついた。
そのまま、倒れる寸前…ミアは無意識に呟いた。
「変わってくれ…。ばか星」
「お、お前は!」
サラブレークが放たれるのと、ミアの左手にある指輪が輝くのは同時だった。
核兵器すら、比べ物にならない破壊力をもったサラブレークは放たれた瞬間、かき消された。
「!」
驚くサラ。
と同時に、遠くに離れていティフィンも気付いた。
押す力がなくなったことに気付いた暁直矢が、振り返った。
「どうした?」
振り返った暁直矢の瞳の中を見て、ティフィンの瞳から涙が流れた。
「そうか…。やっぱり…お前は、あいつの許にいくのか…」
ティフィンも振り返った。
「ばか星!」
「な、何だと!?あり得ない!お前は、死んだはずだ!」
サラの攻撃を片手で受け止めて、相殺した…人物は…。
「赤星浩一!」
ミアのいた場所に、悠然と立つのは…学生服を着た、日本人の少年だった。
「そうさ…。俺は、アルテミアに殺された。しかし、アルテミアによって生かされた」
赤星浩一はフッと悲しげに、笑った。
「どういう意味だ!」
サラの頭にある…二本の角がスパークした。
「その意味を知る為の旅だ。すまないが、サラさん」
赤星浩一は、一本前に出た。
「あなたが持つ…赤の星屑を貰うぞ」
「お、お前は!赤の星屑にされ、封印されたはずだ」
サラは、後ずさった。
「時間がない。この姿ではいられないからな」
赤星浩一のプレッシャーに、今度はサラが逃げ出した。
流れ星のように、はるか彼方に消えていくサラを見送りながら、赤星浩一は頭を下げた。
「ありがとう。サラさん」
赤星浩一の手のひらには、赤の星屑があった。
そして、微笑みながら…赤星浩一は崩れ落ちた。
地面に倒れた時には、ミアに戻っていた。
「どういうことだ!」
城に戻ったサラは直ぐ様、玉座の間を目指した。
「何故!あいつが生きている!」
「どうした?サラ」
迷路のような回廊を迷うことなく歩くサラは、途中にいた…戸惑い気味のギラにも気付かなかった。
「アルテミア様!」
玉座の間に入り直ぐ様、跪いたサラは一呼吸をおいてから、ゆっくりと顔を上げ、前にいるアルテミアを見た。
「アルテミア様!赤星浩一が生きておりました。ご存知でしたか」
この言葉は、サラの心の奥で叫ばれただけで、口に出ることはなかった。
「アルテミア様…」
サラは、絶句した。
今まで、自分は…何を見ていたのだろうか。
今まで…臣下として、自分は何を見ていたのだろうか。
「…」
サラは言葉を飲み込み、再び深く頭を下げると、玉座の間から出ていった。
無言でゆっくりと回廊を歩くサラの前に、心配そうなギラが現れた。
「どうした?サラ。何があったんだ」
「…」
しかし、サラはこたえない。
「サラ!」
思わず声を荒げたギラ。
その声に、驚いた訳ではないが…サラは足を止めた。
「サラ…」
「なあ…」
サラはギラの方を向くことなく、口を開いた。
「サラ?」
「一体…我々は、何をしていたのだろうな」
ギラから見る…サラの背中が小刻みに震えていた。
「サラ…」
「ライ様…亡き後、生かされた我々は、アルテミア様を守る為に存在しているはずなのに!な、何故!どうしてだ!」
サラの角に、苛立ちを示す電流が流れ、回廊を照らした。
「サラ…」
ギラは何もできずにも、ただ…電流を纏うサラの後ろ姿を見つめた。
「やはりか…」
城のそばにある…向日葵畑内で、再び座禅を組むと、カイオウは静かに目を閉じた。
「当然じゃない」
そんなカイオウの後ろに、リンネが現れた。
「…」
カイオウは薄目を開けた。
「私達は、ライ様に創られた。故に…愛を知らない」
それだけ言うと、リンネは腕を組みながら、カイオウから離れていく。
「そうだな…」
カイオウはぽつりと呟くと、目を完全に閉じた。
「そう…そうね」
独り呟いたアルテミアは、玉座から立ち上がった。
「あたしは…魔王。決して、勇者と交わることはない」
アルテミアのブロンドの髪が、漆黒に変わる。
「もう…あいつもいない。邪魔するやつもいない」
背中から六枚の翼が、生えた。
「あたしは、魔王としての務めを果たす」
涙を流す瞳が…赤く染まる。
「人類を終わらす時が来たのよ」
アルテミアは翼を広げた。
「あたしは、魔王ライの娘…そして、今の魔王!」
アルテミアは叫びながら、玉座の間から、空に飛び上がった。
「その定めに従うのみ!」
アルテミアの魔力に呼応して、魔界中の魔物が興奮から一斉に叫び声を上げた。