一途な思い編 最果て
「めずらしいな」
「!」
城のそばの向日葵畑内までテレポートしたリンネは、真後ろで座禅を組み、目を瞑るカイオウの気配に絶句し、目を見開きながら、振り返った。
「お主ならば、あやつらから赤の星屑を奪い、力を得ることは容易だったはず」
カイオウの言葉に、すぐに冷静さを取り戻したリンネは笑って見せた。
「あんな不完全な力…大したことないわ」
肩をすくめて見せたリンネに、カイオウは鼻を鳴らすと、立ち上がった。
「…」
背を向けると、そのまま無言で畑の奥へ歩き出したカイオウの後ろ姿を…横目で一瞬だけ見送ってから、リンネも反転すると城向かってに歩き出した。
「まったく!」
むかつきながら、猛スピードで真っ直ぐに弾丸の如く…空を疾走するティフィンは、前方に倒れる3人を発見した。
「浩一!」
美亜と関谷には見向きもせずに、ティフィンは暁の許に急降下した。
「その名を呼ぶな」
倒れていた暁の手が伸び、自分に向かってくるティフィンを掴んだ。
「だ、大丈夫だったのか!」
涙顔のティフィンを見つめながら、暁直矢は片腕で身を起こすと立ち上がった。
「ああ…。少し予想外だっただけだ」
暁はティフィンを離すと、頭をかいた。
「まさか…リンネさんが現れるとはね」
そう言ってから、倒れている美亜と関谷浩也に目をやった。
「彼女の動き次第で、世界が変わる。今のアルテミアでは彼女に勝てないかもしれない。だとしたら…。いや、サラさんが…」
そこまで考えてから、いきなり…暁直矢の膝が崩れた。
そして、片膝を地面につけると、はっとしたかのように、顔を上げた。
「い、今のやつは!」
直ぐ様立ち上がると、手刀をつくる暁直矢を見て、ティフィンは溜め息をつくと、肩をすくめて見せた。
「もういないよ。直矢」
「そ、そうか…」
少し力を抜きながらも、周囲を警戒し、暁直矢は立ち上がった。
「…それにしても、先程のやつといい…あんなレベルの者がまだいるのか…」
倒れている美亜と関谷浩也を目にすると、直矢は歩き出した。
「だとしたら…俺は…」
目を細め、二人を見つめる暁直矢の前に、ティフィンは空中で割り込んだ。
「あそこにいっては駄目よ。彼らとあなたの道は違う。あなたの目指す道に、彼らは邪魔なだけよ」
ティフィンの言葉に、暁直矢は目を見開くと、しばし気を失ったかのように動きを止めた。
「わかった」
それだけ言うと、暁直矢は二人に背を向けた。
そして、二人を忘れたかのように、二度と振り返ることなく…暁直矢はその場から離れていく。
「…」
ティフィンはそんな暁直矢の背中を数秒見送った後、後ろを振り向いた。
「今は…これでよかったのよね」
ティフィンの視線は、美亜の手にあるブラックカードに向けられていた。
リンネにやられる寸前、ミアは無意識にブラックカードを取り出していたのだ。
「ううう…」
少しうめき声を上げ、意識を取り戻そうとするミアに気付くと、ティフィンはすぐに前を向き、暁直矢の後を追った。
「やれやれ…」
魔王の居城の離れで、ギラは肩をぐるぐると回していた。
「仮にも女神であるエミナ様が、やられるとはな。もうほってはおけん」
首も回してから、ギラは黒いマントを巨体に巻きつけ翻すと、後ろを向いた。
「!」
その瞬間、驚きの表情をつくった。
「サ、サラ!?」
「フン」
真紅の鎧で身を包んだサラが、凜とした姿で立っていた。鼻を鳴らすと、サラはギラを軽く睨んだ。
「な、何用だ?」
思わずたじろいだギラを無視するかのように、サラは視線を外すと、空を見上げた。
「やつらの許には、私がいく。お前がいけば、すべてを一撃に灰にする可能性がある。何も確認せずにな」
「確認?」
ギラは首を捻り、
「何のことだ?」
サラの横顔を見た。
「…それを確認する」
サラは呟くように言うと、その場から消えた。
「な、何だ?あいつは」
ギラはキョトンとしながら、しばらくサラがいた空間を見つめ、首を傾げた。
「カイオウの不穏な動き…何よりも、リンネの帰還」
サラは一瞬で、エミナの城跡までテレポートした。
「すべてを確認する。そして…もっとも確認しなければならないことは…赤の星屑」
サラは自らの手の中にある…赤の星屑に目を落とした。
「赤星浩一の力を五つに分け、封印したと言われているが…我々は、やつの最後を見ていない。アルテミア様と、やつとの間に何があった…」
サラはぎゅっと赤の星屑を握り締めた。
「アルテミア様…。あれほどお母様に憧れていらっしゃったのに、何故」
サラは、手のひらを開いた。そこに、赤の星屑はなくなっていた。
「人間を滅ぼすことに決めたのか」
サラは目を瞑ると、再びテレポートした。
「…く、くそ」
ミアはブラックカードを、倒れている関谷浩也にかざすと、回復魔法を発動させた。
「確認しなければならない。だから」
「!」
倒れている関谷を挟んで、突然目の前に現れた…サラに、ミアは絶句した。
「小娘。お前が知っていることをすべて、話して貰うぞ」
自分の数倍あるサラの巨体に見下ろされ、影で視界が暗くなったミアは、ブラックカードを握り締めた。