厄日
「おやおや〜面白いことをおっしゃる」
一つ目はせせら笑った。
「ただの人間の子供が…わたくしのような〜女神の正規軍の紳士に向かって、倒すとはねえ!」
一つ目の雰囲気が変わった。明らかな殺意が、少年に向けられていた。
「まあ…」
突然、真後ろから声をかけられて、一つ目は絶句した。
「な!」
一つ目が振り返ると、そこにはミアがいた。
「あたしにとっては…てめえらのことなど!眼中にないけどな」
ミアは、笑顔を浮かべながら吐き捨てるように言うと、一つ目の肩を掴んだ。
「あ、あなたあ!」
一つ目の声が上ずった。
「わ、わたくしに触れたら〜」
「どこかに飛ばされるのだろ?」
ミアはにやりと笑った。その次の瞬間、ミアの姿が部屋から消えた。
「逃げたか」
ミアの行動の結果を見て、少年はため息をついた。
「これだから…女という種は、信用できない」
少年は胸ポケットに指を差し込んだ。
「あんな女がいなくても、余裕でお前を倒せるがな」
フッと余裕を見せるつもりで笑って見せた少年の表情が、凍り付いた。
「どうなさいましたか?」
一つ目が逆に、笑って見せた。
「あ、あの女か」
少年はため息をつくと、すぐに態度を落ち着かせた。
「仕方がない」
「何が仕方がないがないのですかな!」
一つ目は、少年に向かってジャンプすると、頭上から襲いかかってきた。
「あなたには、悩む時間もありません!ここで死ぬのですから!奈落の底にでも落としてあげますよ」
少年に向かって、手を伸ばす一つ目。
「舐められたものだ」
少年は、目をつぶった。
「!?」
その瞬間、少年の姿が消えた。
「まったく…今日は厄日だな」
「な!な、な、な、な、な、何いい!」
空中から、少年がいた場所に着地した瞬間、一つ目は絶句した。
「だが…たかが厄日ごときで、戸惑っているなら、我が覇道は達成できない」
少年は右手の人差し指と中指を重ね、手刀をつくっていた。
「に、人間のガキが!」
一つ目は胸から血を流しながら振り返り、少年を睨んだ。
「ガキ呼ばわにするな。俺にはちゃんとした名がある。暁直矢。のちに、新世界の王になる者だ」
暁直矢はゆっくりと、振り向いた。
「こ、ここは?」
一つ目によって、どこかに転送された僕は、闇の中にいた。周りを見回しても、何も見えない。
「会いたかったぞ」
突然どこからか声がした。キョロキョロと首を動かし、周囲を見ても、全然わからなかった。
「赤の星屑。その力を我が得たならば…この世界のすべての神を超えて、最強の女神になれる」
赤い光が、闇の中に浮かび上がった。
その瞬間、僕の心臓の辺りも赤く輝きだした。
「だが!この力…」
闇に浮かぶ赤い光が突然、輝きを失った。
「どうしても、あたしのものにならない!」
怒りのこもった声が、空間を満たした瞬間、玉座に座るエミナの姿が、僕の目の前に現れた。
右手に持った赤の星屑を握り潰そうとするが如く、エミナは力を込めていた。
「だけど」
エミナはクスッと笑うと、握り締める手の力を緩め、僕を見つめた。
「適合者であるあなたの血を飲めば、あたしも適合者になれる」
エミナはゆっくりと、玉座から立ち上がった。
「さあ〜。あたしのもとにおいで、坊や」
エミナの目が、赤く光った。
その輝くエミナの瞳に、僕の姿が映った時、僕の意識はなくなった。
「上手くいったな」
一つ目によって転送された部屋から、さらに飛ばされることになったミアは、ほくそ笑んでいた。
ここがどこかもわからない。
四方を広大な山に囲まれた場所。凍えそうな山頂にいながら、ミアは笑いを押さえることができなかった。
「こいつがあれば…ヒマラヤ山脈も越えられる」
ミアは手には、ブラックカードがあった。
「あとは、お前だけだ」
ミアはブラックカードに向かって、叫んだ。
「行くぞ!転送!」
その次の瞬間、ミアの体は…エミナの玉座の間に立っていた。
「流石…ブラックカード」
感心すると同時に、ミアの手にはマシンガンが握られていた。
「遅かったな…。小娘」
「!」
ミアは、絶句した。
目の前で、エミナに両肩を捕まれ、首筋に牙を突き立てられた後の僕がぐったりとしていたからだ。
「使い方はこうだったかな?」
エミナは、僕の肩を離すと叫んだ。
「魂を燃やせ!」
その言葉に呼応したかのように、僕の全身が炎に変わり…エミナの全身を包んだ。
そして、その炎は…鎧と化した。
「こ、これが…華烈火!」
エミナは全身から、沸き上がってくる魔力に歓喜の声を上げた。
「…」
エミナの姿を見て、ミアは銃口を下に下げ、
「やめておけ。火傷をするぞ」
ため息をついた。
「これで!あたしは、お母様を超えられた!」
エミナが右手を前に突きだしただけで、ミアの後ろの壁が一面、吹き飛んだ。
「やれやれ」
ミアの体も数メートル、後ろに下がっていた。
しかし、姿勢は崩れていない。
「このまま、魔界に攻めいってやろうかしら!」
あまりの力に喜ぶエミナの視界から、ミアの存在が意識の外に消されていく。
「…」
ミアは無言で、銃口を再び上げると、エミナに向けて、引き金を弾いた。
「?」
銃弾はすべて、エミナに命中したが、鎧の表面に触れた瞬間、蒸発した。
「そういえば〜」
エミナはにやりと笑った。
「…」
ミアは銃を捨てると、剣を召喚させた。
「ここは、いつまで〜攻め込めるように、結界を張らずにいた。退屈だったから。なのに、自ら来たのは、あなただけよ」
エミナの手から、炎が伸び…剣と化した。
「誉めてあげるわ」
「こりゃ…どうも」
ミアは、床を蹴った。
「この力で、最初に死ぬ…名誉を与えて上げる」
エミナは横凪ぎに、炎の剣を振るった。
「…最初も最後もない」
ミアは身を屈め、エミナの剣の下を潜ると、脇腹に剣を叩き込んだ。
「!?」
しかし、剣先は溶けてなくなっていた。
「さあ〜死になさい」
反転したエミナは剣を振り上げると、ミアの後ろから背中向けて、一気に振り下ろした。