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帰還

「阿蘇山が噴火しています。至急、結界士の部隊を出動させて下さい」


轟雷光は、阿蘇山から立ち上る噴煙を見つめながら、ため息をついた。


「やれやれ」


それから徐に、腰にかけた鞘に手をかけると、一気に剣を抜いた。


すると、阿蘇山から噴き上がっていた噴煙が消えた。


「神剣…無祷(ムトウ)に斬りないものはない」


結界士の部隊が来るまで、雷光は噴煙や土石流…溶岩等の噴火にする災害を…数キロ先から斬り続けた。


「それにしても…あいつらの目的地は」


雷光は、阿蘇山の遥か彼方に目をやった。


「琉球か…」


数秒後、雷光はフッと笑った。


「いや…その先にあるものか」







「ミアさん…」


倒れたミアを山道から脇に移動させると、僕は着ていた学生服の上着をかけて上げた。ミアの胸元で、カードが淡く光り、治療を続けていた。


「…」


ミアのそばで踞りそうになったけど…ここが異世界であることを思いだし、僕は立ち上がり、周囲を警戒した。魔物がいるかもしれないからだ。


緊張から力を込めると、何だか体の中が熱く感じられた。


「魔力が漏れているぞ。雑魚は寄って来ないだろうが…やつらにまた見つかるかもしれない。緊張を解け」


「ミ、ミアさん!」


足下からの注意に、僕は思わず声を上げた。


「あたしは、どれくらい寝ていた?」


ミアは体を起こす前に、傷口に手を伸ばした。


「五時間くらいです」


僕は自分のカードを取り出すと、表示されている時間を確認した。


「そうか…。結構ロスしたな」


ミアはふらつきながらも、立ち上がった。


「先を急ごう」


「で、でも…まだ傷が」


僕は、ミアの胸元に目をやった。


「心配するな。この程度で死ぬほど、やわではない」


ミアはカードを胸元から外し、僕に微笑んだ。


見た目は、小学生高学年にしか見えないが…僕の前に立つミアの微笑みには、何とも言えない安心感を与えられた。


「それにしてもだ」


ミアはカードをしまうと、顎に手を当てた。


「先程の魔神と遭遇したことといい…あたし達の動きが読まれている可能性があるな」


「で、でも!」


眉を寄せるミアの元気な様子に、僕は少し興奮気味に口を開いた。


「魔神といっても!さっきのやつも一撃で倒せたんだし!僕らの力を合わせたら、どんな敵でもやっつけることができるんじゃないかな!」


僕の言葉は自信よりも、願望だった。その願望を確信に変えたい。その気持ちが、僕に両拳を握り締めさせた。


「…」


そんな僕を、ミアは横目で少し驚いたように見つめた後に、冷笑を口許に浮かべた。


「確か…あいつは、魔神だ。しかしな」


ミアは数秒目を瞑った後に、ため息をついた。


「かつて、魔王ライの配下にいた…2人の女神、そして、7人の騎士団長と108の魔神。彼らのほとんどが、赤星浩一という男によって、倒された。まあ〜」


ミアは少し咳払いをし、


「あいつだけではないのだけどな。魔王ライの死後、現魔王が新たに、女神と魔神を創った。そいつらは、ライの創造した魔神達よりも数段落ちる」


目を細めた。


「?」


理解できない僕に、ミアは背を向けると、言葉を続けた。


「今までのやつらは、その数段落ちるやつらだ。今のあたし達に、オリジナルである魔神…いや、騎士団長には絶対に勝てない」


「え」


「やつらとやり合うなら…欠片が2、3個は必要だ」


ぎゅっと拳を握り締めたミアであるが…何故か口許は緩んでいた。


(あと一個…。最低でも、あと一つあれば…魔力は及ばなくても、戦える)


ミアは僕に背中を向けながら、遠くを見つめていた。


(お前の気性は知っているぞ。エミナ!お前が、あたし達の噂に気付いているならば、必ずあたし達が持つ…赤の星屑を手に入れようとするはずだ)


ミアは心の中で、ほくそ笑んだ。







「お呼びでしょうか?エミナ様」


水の騎士団長であるアクアメイトは、実世界で台湾に当たるエミナが統治する…もう一つの魔界にいた。ミア達を待ち構えているのだ。


そんな中、アクアメイトは突然、エミナに呼び出されたのだ。


魔界の中心にある城の最上階にある…薄暗い玉座の間に来たが、エミナの姿はなかった。


「お留守か?」


どこにも、エミナの気配を感じることができずにため息をつこうとしたアクアメイトは直ぐ様、額にある第三の目を見開いた。


凄まじい痛みが、自らの身を貫いたからだ。


「お前は…わたしを補佐する為につくられた。なのに何故…お前が、赤の星屑の一つを持っていて、あたしは持っていない!」


いつのまにかアクアメイトの後ろに立っているエミナの手刀が、背中から胸を貫いていた。


「あたしは…女神!次の王だぞ!」


「エ、エミナ様?」


アクアメイトは、その場からテレポートした。城の外まで逃げるつもりだったが、貫かれた傷口から発生する電流が、アクアメイトの全身を拘束し、神経を麻痺させていた。


いた場所から数メートル先に倒れたアクアメイトを見て、エミナは笑った。


「お主の持つ…赤の星屑の一つと!お主自身の力!貰うぞ」


「エ、エミナ様…」


アクアメイトは傷口を押さえながら、立ち上がった。


「お前は、あたしに勝てない。そうつくられている。あたしに従い、尽くすようにな」


エミナの全身が、淡く輝き出した。


「くっ!」


アクアメイトは顔をしかめながら、右手を突き出した。


「無駄」


玉座の間が一瞬、太陽よりも輝き…再び薄暗い空間に戻ったが、その中央にある玉座に座ったエミナの手のひらの上には、赤く輝く光の球があった。


「お前は、あたしの糧となった」


にやりと笑うエミナの唇の端から、血が一筋流れた。


「あの力」


エミナの脳裏に、海岸での関矢の姿がよみがえる。


「あの力があれば…あたしは、お母様を超えられる」


エミナはぎゅっと、赤い球を握り締めた。




その同時刻。


アクアメイトと同じくしてつくられた…2人の騎士団長が、阿蘇山の火口内で跪いていた。


「ば、馬鹿な…」


全身に火傷を負いながら、雷光は撤退していた。


「我が…剣技が…」


ふらつきながらも、雷光はカードを通信モードにした。


「ふ、噴火による災害を防ぐべき出動した…結界士部隊は全滅しました。しかし、噴火はおさまりました。お、恐ろしき魔神の力で!」


雷光からの報告をきいて、ジャスティンは目を伏せた。


「そうか…。生き残った者がいれば、即座に脱出しろ。彼女と戦うな」


「は、はい」


雷光は頷き、通信を切った。




「成る程…。面白いことが起こってるじゃないの」


炎の騎士団長…ライカと業火を見下ろしながら、切れ長の瞳を細め、か細い肢体でマグマに膝まで浸かりながら、女は口許を緩めた。


「は!」


ライカはさらに、頭を下げ、言葉を続けた。


「その小娘はどうやってか…赤の星屑の一つを手に入れ、その力を使って、我が同胞達を殺しております」


「どうやってかねえ」


女はクスッと笑うと、手を2人に差し出した。


「ところで、その赤の星屑ってやつを持っているんでしょ?」


「!」


二人の騎士団長の体に、緊張が走った。


「天空、水、炎。それぞれの騎士団長に渡されたはず」


女の言葉に、業火は立ち上がった。


「その通りです。しかし、貴女はそれを拒否したはずです」


そして、女を睨んだ。


「そうだったかしら?」


女は、首を傾げて見せた。


「赤の星屑は、我等が王から!炎の騎士団に託されたもの!」


業火が女を睨んだ瞬間、カルデラ内に、数万の炎の魔物が姿を見せた。


「その通りだわ」


女は、周囲を目だけで見回した。


「だからよ」


次の瞬間、女の雰囲気が変わった。


「!」


立ち上がっていた業火が、無意識に再び跪いていた。


数万の炎の魔物もまた、一斉に跪いた。


「ありがとー」


女は微笑むと、ライカと業火のそばを通り過ぎた。


その手には、赤の星屑が握られていた。


「興味があるわ。その娘に」


女が一番近くにいた魔物に、声をかけた。


「お望みならば…この炎の騎士団特攻隊隊長!バラバにお任せ下さい!リンネ様」


バラバの言葉に、女は微笑んだ。


「我は、メルドのような新参者と違います!貴女と同じ先代の王によって」

「殺しては駄目よ」


リンネは、バラバに釘を刺した。


「は!」


バラバは頭を下げると、その場から消えた。


「…」


リンネは天を見上げ、


「面白くない女になったと思っていたけど〜」


フッと笑った。


「あたしの勘違いかもしれないわね」


そして、手の中にある赤の星屑に目をやり、


「あなたもそう思うでしょ?」


妖しく笑いかけた。


「フレア」

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