炎の絆
「く、くそが」
ミアはフライングアーマーを操作しながら、唇を噛み締めた。アーマーのサイズが大人用の為に、背中に装着というよりも、しがみついている状態に近かった。
照準を炎の鳥に合わせながらも、つねに揺れていた。
(やはり…撃てないか)
降下していく炎の鳥の背中を見下ろしながら、ミアは額から汗を流した。
「フハハハハ!」
その時、眼下の噴火口から火柱が上がった。 大気が揺れて、ミアは空中でバランスを崩した。
「チッ」
ミアは舌打ちすると、地面に落下する前に、カードにコードを打ち込んだ。
そして、照準を合わせると、上がった火柱向けて、背中のバックパックからミサイルを全弾発射した。
「我が名は、メルド!炎の騎士!?」
火柱の中から姿を現そうとしたメルドに、ミサイルは全弾命中した。
「メルド様!」
炎の鳥は、絶句した。
「か、火口に!攻撃するか!」
「フッ」
ミアは口許に笑みを浮かべ、使い切ったバックパックを外すと再び、新しいものを召喚し、全弾発射した。
「こ、小娘が!」
カルデラ全体が揺れ、爆風が下から、炎の鳥を揺らした。
噴火口の周りにヒビが走り、その隙間からマグマが見えた。
「うわあああっ!」
バランスを崩した炎の鳥は、掴んでいた僕を離してしまった。
マグマが見える噴火口に向かって、落ちていく僕。
「き、貴様!」
炎の鳥は三度、ミサイルを発射しょうとするミアの前まで移動した。
「小僧を殺すつもりか?」
「はあ?」
炎の鳥の言葉に、ミアは惚けて見せた。
「人間ごときが、あの熱気に耐えられるものか!」
「てめえこそ、あいつを舐めるな!」
ミアは、炎の鳥を睨んだ。
「!」
あまりのミアの剣幕に、炎の鳥は思わず怯んだ。
「こんなところに、誘い込んだのが、貴様らの敗因だ。今のあいつは、炎こそが」
「ひえええ!」
話の途中で、僕の悲鳴を聞いたミアは下に目をやった。
割れ目と割れ目の間に、運よく着地した僕の目の前に、全身から湯気を漂わすメルドがゆっくりと近付いて来ていた。
「アクアメイト様が気になさる…貴様らの秘密。吐いて貰おうか」
「関矢!」
ミアは慌てて、下に向かって降下しょうとした。
「お前からも話して貰おうか!」
炎の鳥が、ミアの動きを妨害した。
「ど、どけ!」
ミアはフライングアーマーを空中で外すと、炎の鳥に向けて突進させた。
「関矢!魂を燃やせ!そうすれば!お前は、無敵だ!」
炎の鳥がフライングアーマーを燃やす間に、ミアは地上に落下しながら叫んだ。
だけど、その叫びは…僕の耳には届かなかった。
「さあ!話してみろ!」
メルドは、僕の目の前まで来ると、右腕を上げた。すると、その手に炎の剣が握られた。
「話すことができないならば!死ね!話は、小娘から聞いてやるわ!」
「ひいい!」
昨晩抱いたはずの…戦う意志も消え、マグマが見える環境と熱気に、僕は悲鳴を上げるだけであった。 恐怖からの冷や汗は流していたが、熱気による汗はまったくかいていないことにも気付かなかった。
「関矢!」
メルドが剣を振り上げた瞬間、ミアが僕の前に下り立った。直ぐ様、剣を召喚すると、振り下ろしたメルドの剣を受け止めた。
「馬鹿目!」
しかし、ミアの剣は焼き斬られると、メルドは手首を返し、切っ先を無防備となったミアの胸元に突き刺した。
(うわあああああっ!)
その瞬間、僕の頭の中でフラッシュバックのように何かが浮かんだ。
「この程度で死ぬようならば!用はない!燃え尽きろ!」
メルドは、突き刺した剣に力を込めた。
(うおおおっ!)
僕の心の中で、絶叫は雄叫びに変わった。
「フッ」
ミアは唇の端から血を流しながらも、笑った。
「な、何がおかしい!」
苛立つメルドに、ミアは言い切った。
「もう貴様の剣は、刺さらない!」
「な、何!?」
剣先を見て、メルドは絶句した。突き刺さっているはずの炎でできた剣が、ミアの胸元から拡散し、後ろに向かって何かに吸収されていた。
「ば、馬鹿な!」
メルドは、炎の流れを目で追った。
すると、ミアの後ろに立つ者に炎が吸収されていたのだ。
勿論、後ろに立つ者とは。
「反撃だ!」
ミアの叫びに、僕は雄叫びで答えた。
「うおおおっ!」
僕の悲しみと怒りが、全身を燃え上がらせ…そして、燃え尽くす。
炎と化した僕の体が、後ろがミアを抱き締めるように包み込んだ。
「これが!ライフエナジープロテクター…華烈火だ!」
赤い鎧を身に纏ったミアは、自らを突き刺していた剣の刃を握った。
すると、炎の剣の形が変わった。
「な!」
メルドは思わず、剣を離した。柄であった部分が、刃になったからだ。
「ば、馬鹿な…」
メルドは目を見張った。握っていた自らの手が切れたことよりも、傷痕から焼けた匂いがしたからだ。
「ほ、炎で魔神であるわ、我が!」
「隙だらけだぜ!」
ミアは奪った剣で、メルドを袈裟懸けに斬った。
「ぐわっ!」
メルドの肩から脇に亀裂が走る。
「メルド様!」
空中にいた炎の鳥が、ミアの後ろから襲いかかってきた。
「…」
ミアは、振り返ることなく、 剣を回転させると、炎の鳥に突き刺した。
「メ、メルド様…」
炎の鳥は刺されながらも、人間の姿になると、メルドに手を伸ばし、消滅した。
「お、お前はな、何者だ」
無意識に後ずさるメルドの言葉に、ミアはにやけながらこたえた。
「お前達を狩るものさ」
ミアとメルドの前…地面と地面の亀裂にマグマが見えていた。
しかし、ミアは気にすることなく、マグマを踏み締めていく。
そのたびに、マグマを吸収し、華烈火の魔力が上がっていく。
「我々…炎の騎士団と同じ属性だと!?いや、それよりも上のお方…」
メルドの脳裏に、切れ長の目に冷笑を浮かべる女の姿が浮かんだ。
「炎の騎士団長!リ、リンネ様と!」
「うるさい!」
ミアは、剣を振り上げると、一気にメルドの脳天から股下までを斬り裂いた。
「わ、我が配下達よ!殺せずとも…捕らえよ!」
真っ二つになったメルドの体内から、無数の魔物達が溢れ出し、ミアの全身を覆い尽くそうとした。
「な、舐めるな!」
ミアの声に呼応して、彼女の足元を中心して新たな亀裂が走り、カルデラ内は噴火した。
「炎噴斬!」
噴き出したマグマが無数の刃と化して、魔物達を下から串刺しに、そのまま天に向かって伸びていった。
「やったか…」
ミアは技を繰り出すと同時に、テレポートしていた。
阿蘇山から数十キロ離れた山道に、テレポートアウトすると同時に、鎧化が解けた。
「ポイントゲット」
メルド達を倒したポイントが入った音を聞きながら、ミアはその場で崩れ落ちた。
「阿藤さん!」
鎧から、全裸に戻った僕は、前のめりに道路に倒れたミアに駆け寄った。
「心配するな」
ミアは、カードを手にしていた。治癒魔法が発動し、刺された胸元が淡く輝いていた。
(あと…数ミリで死んでいたな。こいつの鎧化が遅かったら…)
ミアは笑いながら…意識を失った。