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闇からの一撃

「まったく…落ち込むな」


ミアは水上バイクを消すと、カードの残高を確認した。


「食事を取るなら、ホテル内でするぞ」


落ち込んでいる僕をちらっと見てから、ミアは歩き出した。


「で、でも…ポイントを貯めないと」


僕の落ち込みを見て、ミアはカードを人差し指と中指を挟みながら考えていた。


(こいつのレベルが上がると…やはり、華烈火のレベルが上がるはずだ。まだ一欠片だけだが、もっと集まれば…シンクロ率も上がり…)


そこまで考えてから、ミアは考えを否定した。


(楽観的に考えるな。あいつとこいつは違う。あたしとあいつとは違う)


ミアはカードをしまうと、港町で一番小綺麗なホテルに目をやり、歩く方向を変えた。


海には魔物がいたが、町の中にはいなかった。治安がいいのだろう。


「…」


ミアは町中に入ると、監視カメラを横目で確認した。


(やはり…防犯は完璧か。夜中に、海を渡ってきた来訪者を監視しているはずだ。素性を一応明らかにする為にも、ホテルにすぐ入ろう。それも高めのホテルに)


ミアと僕は、汚れ一つない白いホテルの扉を開いた。


「いらっしゃいませ」


フロントのカウンターの向こうから頭を下げる従業員に、ミアは近づいて行った。


「空いてる部屋でいい」


ミアの言葉に、


「かしこまりました」


従業員は、カウンター内にあるディスプレイで空部屋を確認した。


それから、数分後…僕とミアは、ホテルの一室にいた。


「え」


だだっ広いスウィートルームを前にして、僕は絶句していた。


「心配するな。偽名だ。防衛軍に待ち伏せされたことから、あたし達は追跡されているかもしれない。まあ〜こんな夜更けにチェックインしたから、疑われるかもしれないが…昼前にはでる」


ミアは、ツインベットに横になった。


「あ、あのお〜」


ドギマギする僕とは違い、ミアはすぐに寝てしまった。


同じ部屋に、女の人と二人。


そんな緊張するシチュエーションを思い描いていたが、すぐに寝息を立てるミアを見ていると、どうでもよくなってきた。


「…」


僕は、ベットのそばにあったソファーに腰を下ろした。 何気なくベットの向こうにある窓から外を見た。


先程渡った海が…建物の向こうに見えた。


「異世界か…」


信じられないことであるが、僕は知らない世界にいるのだ。


どうしてここにいるかは、わからない。


だけど…。


(何だろう…。知っていた気がする)


そんなことを考えながら、心労から瞼が重くなってきた…僕の目に、魔物が映った。


「!?」


蝿のような姿をした魔物は、僕とミアを見ていた。


驚き、ミアの方を見たが…疲れからか…気付いていない。


その時、僕は知らなかったが…ミアはカードを警戒モードにしていた。ホテルも町も…魔物が近づけば、警報が鳴るはずであった。


しかし、鳴らなかった。


魔物は、魔力を抑えていたのだ。


「ど、どうしょう」


戸惑い、ビビる僕を、魔物はミアを見てから、指差した。


「え」


魔物は明らかに、僕を呼んでいた。


本当だったら、ミアを起こすべきであったが…ポイントを貯めなければいけない思いが、僕を動かした。


(相手は、い、一匹だ)


僕は、自分の胸に手を当てた。


(そ、それに、僕の中には…凄い力が)


そう思うだけで、手のひらが熱く感じた。


(うん)


自分でも、どうしてかわからないけど、力と勇気がわいてきた。


窓を開けると、ベランダに出た。


その瞬間、窓の上…ホテルの壁に張り付いていた別の個体が、僕の肩を掴んだ。


「え!」


魔物は驚く僕を簡単には、空中に浮かべると、そのまま海岸に向かって飛んでいった。


そして、僕を砂浜に落とすと、二体の同じ姿をした蝿の魔物は、頭上を旋回した。


「赤の星屑を身に宿す…下等動物…人間よ」


どこからか声がした。


「痛てて…」


砂がある程度クッションになったとはいえ、尻餅をついた僕は、頭に響く声に顔を上げた。


「に、二匹…」


一匹増えただけで、僕の先程の自信は揺らいできた。


「素直に、赤の星屑を渡すならば、命だけは残してやろう」


「え、え、え」


僕はパニックになりながらも、カードを取り出した。武器を召喚しょうとするけど、やり方がわからなかった。


「馬鹿が」


焦る僕を見て、蝿の魔物の一匹が急降下してきた。


「!?」


次の瞬間、僕の肩から胸まで傷が走り、鮮血が飛び散った。


「さっさと差し出せ!貴様ができることは、それだけだ」


「血?」


僕の手から、カードが落ちた。


(そうだ…。僕は、いつも守られていた)


僕の脳裏に、僕を背にして戦う…ミアの小さな背中が浮かんだ。


(だけど…今は)


僕は、肩に手をやった。血は流れ続けていて、先程とは違う温かさを味わった。


そして、ゆっくりと血がついた…自らの手のひらを見た。


血の臭いが、鼻腔を刺激した。


「う、うわああああっ!」


僕は、絶叫し…次の瞬間、意識を失った。痛みよりも、死の恐怖に…。そして、その奥には…自分でも気付かない感情が…生まれようとしていた。


しかし、その前に、僕の意識はなくなっていた。




「気を失ったか。このまま…我が城に」


蝿の魔物が、その場で崩れ落ちた僕を空中から再び掴み、運ぼうと落下してきた。


「!」


意識を失っているはずの僕の腕が動き、逆に蝿の魔物を掴んだ。


「何!?」


片手で蝿の魔物を、空中から砂浜に叩き付けた。


「き、貴様!」


残りの一匹が、空中から倒れた魔物を見下ろす僕の背中目掛けて、襲い掛かってきた。


その時、どこからか回転する2つの物体が飛んできて、空中にいた蝿の魔物を切り裂いた。


「こ、これは!?」


倒れていた蝿の魔物が、顔を上げると、目の前に立っている僕を見て、絶句した。


十字架に似た剣を持ち、妖しく光る瞳で見下ろす…僕から感じる迫力に、蝿の魔物は震えだした。


「そ、そんな馬鹿な!あり得ない!」


僕は無表情で、無造作に剣を振り上げると、一気に振り下ろした。


「あり得ないい!」


蝿の魔物は真っ二つになり、振り下ろした剣から発生した衝撃波は、その先にあった海をも一瞬…真っ二つにした。





「ば、馬鹿な…」


玉座の間で座っていたエミナの額から、冷や汗が流れた。


「あ、あやつは…何者だ?」


エミナは顔をしかめた。


「ま、まさか…」


はっとしてから、エミナはゆっくりと唇を噛み締めた。





「うん?」


妙な気を感じて、ミアはベットから上半身を起こした。


一番最初に、ミアが確認したのは、僕がいるかどうかだった。


ちゃんとソファーで横になっている僕を確認してから、ミアは窓の外に目をやった。


「夜明けは…まだだな」


まだ暗い外の様子に、少し目を細めると、ミアはもう少し眠ることにした。

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