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第48話 問いかけのララバイ

僕達を乗せたヘリコプターは、落ちていく。


諦めたように、紅は操縦桿を離すと、


「やっぱり…車とは、違うわね」


軽く肩をすくめ、ロバート達に向かって言った。


「飛び降りてね」


「な!」


絶句するロバート。


「大丈夫よ」


あっけらかんと、紅は言った。


地面が、段々と迫ってくる。


「無理…」


サーシャは、窓から下を見た。


「心配しなくていいわ」


操縦席から、サーシャを押しのけて、紅はヘリのドアを開けた。


風が、機内を暴れ回る。


「ただし!落ちるとは、思わないで」


髪の毛を風で乱しながら、紅は扉に手をかけ、機内の二人にウィンクした。


「落ちてるじゃない!」


「降りるだけよ」


紅は、ヒョイと二段くらいの階段を飛ぶように、降りた。


「何!」


「ぶつかる!」


地面が、ものすごいスピードで近づいてくる。


仕方がない。迷ってる暇はない。


「…落ちるのではなく…」


「降りる!」


ロバートとサーシャは、僕を背負いながら、墜落するヘリから、飛び降りた。


「えっ…」


ヘリは、2人が飛び降りるとすぐに、砂に戻った。


飛び降りた2人は、呆気なく、地面に着地した。


「どういうこと…」


さっきまで、急降下で落ちていき、地面まで何百メートルは、まだあったはずなのに…。


階段を、一段ぐらい降りた…感覚しかなかった。


ヘリコプターだった砂が、足下に流れてきた。


「大丈夫だったでしょ」


紅は、ウィンクした。


「どういうことなの!?」


サーシャは、まだ自分に起こったことが、信じられない。


「ちょっと…地面を掘ってみて」


納得できない2人に、紅は下を指差した。


ロバートはしゃがんで、軽く手で砂を掘ってみた。


「えっ!」


地面の下に、空が広がっていた。


青い惑星に、無数に絡みつく糸。


ロバートは慌てて、空を見上げた。


地球が見える。


「どういうことだ…」


「ここに、下も上もないの…」


紅は、空を見上げた。


「ただ…砂になる前の記憶と、経験で…この世界の、自分のありようが、決定されるの」


「こんな世界…あるはずがない…」


ロバートの戸惑いの言葉に、紅は両手を広げ、2人に話しかけた。


「ここは、あるはずのない世界。あっては、いけない世界」


紅の手のなかに、砂が落ちてきた。


紅は両手に砂を感じ、ぎゅと握り締めた。


俯けた顔も、すぐに笑顔に戻し、


「さあ!帰りましょう」


まだ、安土城はすぐそばにある。


「急いで、この場を、離れないと」


サーシャは振り返って、安土城を見た。


まだ、追ってくる動きはない。


「アルテミア…」


サーシャはまだ、城にいると思われる…アルテミアの身を案じた。


「女神なら、大丈夫よ」


紅は微笑みながら、サーシャの肩を叩いた。


サーシャはコクッと頷くと、城に背を向けた。


「あたしに掴まって」


もう何があっても、驚かなかった。


紅に掴まると、一瞬にして、紅の家の前までワープした。


4人が、動いたのではない。


周りの景色が、動いたのだ。


もう安土城なんて、見えなかった。


「家の場所を変えたわ」


紅は2人に笑いかけると、


「しばらくは、見つからないはずよ。彼を休めましょう」


紅は家のドアを開け、三人を中に促した。






「信長様…」


天守閣から、光り輝き地球に纏わりつく世界達を....月に見立て、信長は酒をくらう。


「女神達を、如何致しましょうか?」


蘭丸はそばに控え、信長を見守っていた。


「蘭丸」


静かに、信長は口を開けた。


「はっ」


信長は、空と砂をじっと、見ている。


「この世界に来て…何年だ?」


「ここには、時間はございませんが…もといた世界から考えますと…何百年か…」


信長は、酒を飲み干す。


「全国統一を、目指し…」


信長の空になったお猪口に、蘭丸が酒を注ぐ。


「この世界に、来てからは…異国の…」


フッと笑うと、


「異世界の者と、戦い続けて…この砂だけの、世界の王となった」


蘭丸は注ぎ終わると、後ろに下がる。


「人生50年では…世界を統一できなかった。あの世界では、味わえないことを、味わうことができた」


信長は振り返り、蘭丸を見た。


「お主のお陰だ」


「勿体無いお言葉です」


蘭丸は、深々と頭を下げた。


「退屈せぬ…人生だった…」


「の、信長様…」


「今回の事は…お前の好きに、すればよい」


信長は、お猪口を投げ捨てた。


「信長様…」


「蘭丸!出陣するぞ!」






「くそ!」


独り毒づいていても、気分は晴れなかった。


飛んでいた翼が、崩れていく。


砂に戻っていく。


空中から、墜落するように、アルテミアは地面に、激突した。


砂にめり込み、地面を突き抜け…アルテミアは、また空から落ちる。


上も下もない世界で、何度も砂の地面を潜り抜け、何度も落ちていく。


「くそ」


数十回目で、アルテミアはやっと、歯を食いしばると、地面に激突した。砂埃は上げったが、今度は地面にめり込むことはなく、アルテミアは片膝をつきながらも、砂の上に存在することができた。


「そうだ…」


アルテミアは、自分の掌を見た。


少し砂がこぼれる体。


「砂か…」


薄々分かっていた。


この世界に来て、赤星と分離した訳を。


「あたしは…肉体を持っていない…」


アルテミアからこぼれる砂は、地面に積もっている砂よりは、輝いていた。


だけど、風により、すぐに周りと混ざり、同化していく。


「あたしも…砂…」


寂しげに、顔を伏せたアルテミアの体から落ちる砂の量が、増えていく。


「そう…砂よ!」


アルテミアは、自嘲気味に笑い、崩れる体をただ....見ていた。


近くに、赤星もいない。


もう…すべてが、崩れると、他人事のように思った時。


アルテミアから落ちる砂が、キラキラと輝きだした。


まるで、星屑のように。


それは、どこからか吹いた風に乗り、キラキラと黄金色に輝きながら、小さな竜巻のように、砂のダンスを踊る。


黄金色の砂は、やがて一粒一粒の輝きが繋がり合い…川のように流れる。


いや、それは川ではなかった。


綺麗なブロンドの髪。


アルテミアは目を見張り、そして、涙を流した。


それは、遠い昔の記憶の中、忘れ得ぬ思い出。


川の流れは止まり、風が止んだ。


ブロンドの髪は、ゆっくりと…下に流れた。


「お母様…」


アルテミアの言葉に、ただ微笑む人物。


それは、アルテミアの母にして、元安定者であり、魔王ライの妻…ティアナであった。


「お母様…」


アルテミアは立ち上がり、ティアナに抱きついた。


ティアナの体が、少し崩れた。


どうやら、体を安定することができないみたいだ。


「お母様」


砂でありながらも、母親に触れられる感触に、アルテミアの涙は止まらない。


ティアナはただ…アルテミアの頭を撫でてやるだけだった。


何か話そうと、口を動かせば…唇が崩れていく。


ティアナは、何度も唇を作るが、話せない。


「お母様!」


アルテミアも唇の動きから、言葉を読み取ろうとするが、無理だった。


ティアナは悲しげに、微笑みながら、アルテミアをぎゅと抱き締めた。


力を入れた為か、腕が崩れていく。


それでも、ティアナはアルテミアを抱き締め続け、砂に戻っていく。


「嫌!お母様ああ…」


アルテミアも、きつく抱き締めた。


だけど、アルテミアの腕の中で、ティアナは崩れていく。


「お母様アアアアア!」


アルテミアの絶叫も虚しく、ただ足下に、キラキラ輝く砂が残っただけだ。


「お母様…」


その場で両膝を折り、アルテミアは崩れ落ちた。


アルテミアの体自体も、崩れていく。


風が吹き、アルテミアとティアナだった砂が、風に飛ばされていく。


意志を失い、砂に帰化していくアルテミアの体。


完全に消え去ろうとした瞬間、アルテミアのまだ目の形をしている砂が、ティアナだった砂が吹き飛んだ場所に突き刺さっている物を映した。


それは…。


「チェンジ・ザ・ハート…」


アルテミアの体が、再び構成され…腕となった砂で、チェンジ・ザ・ハートを掴んだ。


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