炎を纏え
「面白いやつら?」
藤原が去った空間を見つめるジャスティンのそばに、誰かがテレポートしてきた。
「まったく〜!勘弁して下さいよ。防衛軍の長官が一人で、ぶらつくなんて」
テレポートアウトした人物は、ボサボサの頭をかきながら、ジャスティンの方に歩き出した。
手入れをしていない金髪に染めた髪に、くたびれた背広を身に付けながらも何故か、凛としたイメージを与える男の名は、轟雷光。
そして、右肩には黙の紋章が刺繍されていた。
「轟か」
雷光の登場を見て、ジャスティンは苦笑した。
「なんすか?少し機嫌が良さそうですが…。なんか、いいことありましたか?」
首を傾げる雷光に、ジャスティンは首を横に振った。
「いやいや…事態は最悪だが…。少し希望が見えたのかな」
「希望?」
「ああ」
ジャスティンは頷き、
「赤星くんがどうなったか…。君は聞いたことがあるか?」
逆に訊いた。
「赤星って、あの赤の王のことですか?」
雷光は頭をかき、
「確か…アルテミアと戦い、惜しくも敗れた…としか、聞いてませんが」
少し考え込んだ。
「そうだ。我々が知り得たのは、彼が敗北したとだけだ。しかし、公式の見解ではないが…その後、彼の復活を恐れた魔王軍が、彼を封印したと言われている」
ジャスティンは振り返り、再び海を見た。
「封印!そんな話は!」
驚く雷光に、ジャスティンは海を見つめながら自嘲気味に笑った。
「すべては、噂だ。だがな!」
ジャスティンは、雷光に顔を向けた。
「彼が復活できるならば、人類は救われる」
その言葉の重さに、雷光は思わず唾を飲み込んだが、そんな風には見せずに、ジャスティンの目を見つめた。
「所詮、終わった人間ですよ。頼りにしてどうします?」
雷光は一度力を抜くように、肩をすくめ、
「例え滅んだとしても、人間は、今を生きる人間が!生きている人間の為に戦うべきですよ」
ジャスティンに真剣な目を向けた。
「そうだな」
ジャスティンはフッと笑うと、目を閉じた。
すると、瞼の裏に…ある記憶がプレイバックされた。
裏切り者と言われても…先代の魔王との間に生まれた子供を抱く…気高い女の姿を。
(先輩…)
ジャスティンはゆっくりと目を開けると、雷光を見つめ、
「これは、命令だ。今、KYOTOにいる者達を探れ」
どこからか取り出した布に包まれた細長いものを、雷光に投げた。
「こ、こいつは!」
雷光は片手で受け取ると、布を一気に取り去った。
すると、中から黒光りする鞘が姿を見せた。
雷光は、鞘を抜いた。
「こいつを、俺に渡したということは…」
「ああ…。判断はお前に任せる」
ジャスティンは再び、海に体を向けた。
自分に背を向ける形になったジャスティンに、雷光は軽く頭を下げると、今度は彼が背を向け、歩きながらテレポートした。
「…」
ジャスティンは軽くため息をつくと、空を見上げた。
「どう転ぶか…」
そう呟くと、地平線に目を向けた。
その先にある…魔界を見つめるかのように。
「く、くそが!」
天井から床に落下する途中、ミアは猫のように空中で回転すると、足から着地した。
「舐めるな!」
僕に伸びる腕達を無視して、ミアは着地と同時に床を蹴ると、十二単の男に向かって走り出した。
「馬鹿な。小娘が」
十二単の男が扇を再び振るおうとした瞬間、ミアはトンファーを投げつけた。
「!」
回転して接近するトンファーに、十二単の男が気を取られ、それを払おうと手元を変えたのを見て、ミアは素早い動きで銃口を向けた。
二発の銃声とともに、十二単の男の手から、扇が弾け飛んだ。
扇の力で、飛ばされたトンファーが、左右の店のガラスドアを突き破った。
「くらえ!」
ミアは走りながら銃をしまうと、剣を召喚させた。 そのまま横凪ぎの斬撃を叩き込もうとした。
しかし、十二単の男の左袖の中から、新しい扇が現れて、ミアの剣を受け止めた。
「小賢しい小娘が!KYOTO守護代であるマロに!こうようなものを向けるなど!」
怒りを露にするマロに、ミアは笑うと、剣を押し込みながら、膝蹴りを繰り出した。
「うっ!」
マロの体のバランスが崩れたを見て、ミアは剣を床に突き刺すと、素早く銃を手にした。
「終わりだ」
引き金を三回弾くと、マロの十二単に三つの弾痕が残った。
「…人間を殺るのは、忍びないが」
ゆっくりと背中から倒れるマロを見つめながら、ミアは銃口を下げた。
すると、僕を掴んでいた無数の腕から力が抜け、式神の動きも止まった。
「人間だったらな」
ミアは突き刺していた剣を抜くと、マロに背を向けて走り出した。
「関矢!走れ!」
「え!」
戸惑う僕に向かって走りながら、ミアは動きを止めている式神達を後ろから次々に斬っていった。
そして、僕の前に来ると、左拳を握り締め、鳩尾に叩き込んだ。
「その身を燃やせ!」
その瞬間、ミアの左手の指輪が輝き…僕の体が炎と化した。
「この程度で!マロが殺れるとでも、思いおったか!」
むくっとスロー再生のように立ち上がったマロは、扇を上に払った。
すると、燃え上がった僕の体の炎が消えた。
「くくく」
笑うマロの目に、赤い鎧を身に纏ったミアの姿が映る。
「な!」
驚くマロを鼻で笑うと、ミアはゆっくりと歩き出した。
「な、何だ!この禍々しい魔力は!」
マロは、扇を左右に振るった。
しかし、ミアは歩みを止めない。 ただ…扇で煽られた方向に、鎧から発する炎の魔力が揺らいだ。
「こ、これが…」
マロは十二単の袖から、無数の紙を取りだし、宙に投げると、扇で煽った。
すると、人型の式神に変わり、ミアに襲いかかってきた。
しかし、ミアの周囲に来ただけで、式神達は灰と化した。
「赤の星屑の力!」
無意識に後ずさるマロ。
「紙切れごときが!」
ミアは走り出した。
「こ、小娘が!なめるな!」
扇を捨てたマロの姿が、変わる。
九本の尻尾をもった…狐の姿に。
「千年もの間!この地を守るマロに!」
マロは気を高めると、前に出た。そして、九本の尻尾をミアに向けた。
「守る?」
ミアは鼻で笑った。
「逃げ込んでいたの間違いだろ?」
「ば、馬鹿な…」
九本の尻尾は燃え尽き、マロの鳩尾に、ミアの拳が突き刺さっていた。
「大妖怪である…マロが…」
「妖怪?」
ミアはフッと笑うと、拳を捩じ込んだ。
「マイナーだな」
「ぎゃあああ!」
断末魔の悲鳴を上げながら、炎に包まれ、燃え尽きていくマロ。
「まったく…」
ミアは拳を解くと、溜め息をついた。
「予定外だが…ポイントが入ったから、まあ〜よしをするか」
そして、魔装を解こうとした瞬間、ミアの足下から突風が沸き起こり、凄まじい風が体を包むと、竜巻と化し、地下街の天井を突き破った。
「ははは!」
笑い声が、こだましていた。
「あれほどの魔力!嫌でも居場所がわかるわ!」
KYOTOの町の上空に、ブレイドが浮かんでいた。
「いかに、炎が強力でも、ここから落ちて無事にすむかな?」
KYOTOの前を包んでいた結界が消え、地下街から発生した竜巻は、上空に浮かぶ雲を突き破ると、いきなり消滅した。
「そ、空か…」
空中にほおり出された格好となったミアは、目を細め、呟くように言った。