魔都
「行くか」
ミアは町を出ると、ぼろぼろの車を召喚した。
僕を助手席に促すと、キーにあたる部分にカードを差し込み、アクセルを踏み込むと、一気に加速させた。
タイヤがなく、おそらく…ホバークラフトの原理で動く車は、草原を疾走する。
「どうせ!乗り捨てだ!」
レベルの低い…野の魔物を見つけると、バンドルを切り、引きに行った。
「うぎゃあ!」
悲鳴を上げる魔物を引き殺す度に、ミアのカードにポイントが入っていく。
しかし、ミアの表情が優れない。
「チッ」
ミアは舌打ちすると、バンドルを切った。
「やはり…町の近くでは駄目か…」
車は急角度で曲がると、草原の向こうに見える森を目指してスピードを上げた。
そして、カードを操作し、マシンガンを召喚した。
ハンドルに片手を添えながら、マシンガンを森に向けた。
「今夜の飯代を稼ぐ!てめえも、自分の分は自分で稼げ!」
「え」
ミアの言葉に、身をふせて、車体にしがみついていた僕は絶句した。
「撃て!」
森に突っ込むと、木々の緑に隠れて、魔物が見えない。
なのに、ミアの銃弾はほとんど、魔物達に命中していた。
仕方なく…ミアに教わって、銃を召喚すると、勘で引き金を弾いた。
「本能で感じろ!」
「む、無理!」
僕らを乗せた車は、森を抜けると、再び草原を疾走する。
「やはり…この地域は、魔物のレベルが低いな」
ミアは、ナビを魔物反応から、次に休む町へのルート表示に変えた。
「明日は、海を越える!最短ルートで、魔界に行くぞ!」
「ま、魔界!?」
進んでいく先に、人工物が見えた。
「あそこで、飯を食ってから、港町を目指すぞ」
相変わらず、車はレベルの低い魔物を引きながら、走っていた。
車体がさらにぼろぼろになりながらも、何とか町へとつくことができた。
「結界内に入るぞ!」
ミアは車からカードを抜くと、運転しながら右手を外に出すと、何もない空間にカードを走らせた。
すると、車が消え…僕らは町の中を歩いていた。
突然車が消えた為に、前方によろけて倒れる僕とは違い、ミアは普通に歩いていく。
「く、車は!?」
鼻を押さえながら立ち上がった僕の質問に、ミアは足を止めると、前方を睨みながら答えた。
「ここは…外から来た乗り物は入れない。特に、魔物の血が染み付いているようなのはな」
ミアは口許を緩めると、再び歩き出した。
「ち、ちょっと待ってよ!」
知らない世界の知らない町で、ミアにはぐれることは…絶望を意味した。
慌てて追いかける僕。
「!」
だけど、すぐに足を止めた。
「こ、ここは…」
何故か…見たことがあるように感じた。
「何か感じているのか?」
ミアは振り返り、横目で僕を見た。
「え、え…」
あまり詳しくないし、行ったことは…修学旅行だけだ。
だから、合っているかもわからない。
「あ、赤い…鳥居…」
巨大な赤い鳥居が、巨人のように目の前にそびえていた。
「…」
ミアは僕の反応を確かめると、前を向き歩き出した。
「こ、ここは…」
唖然とする僕に、ミアは口を開いた。
「すべてが、お前のいた世界とは合っていないだろうが…」
ミアは鳥居の向こうを見つめながら、ゆっくりと目を細めた。
「かつて…魔都と言われた町。KYOTOだ」
「京都?」
僕は、周りを見回した。
「昔だ。魔界と違い、人間と魔のハーフが支配していた土地だった」
ミアは、鳥居をくぐった。
「人間と魔のハーフって…」
僕は鳥居を見上げながら、くぐっていく。
「もう何年も昔のことだ。今は、ハーフだったやつの子孫も血が薄まっている。純粋な人間と区別はない」
ミアは、歩く速度を上げた。
「とにかく腹ごしらえをする。あと北の港町まで何もない。食料を確保するぞ」
「で、でも!カードで食料は召喚できないの?」
僕は、自分のカードを取り出した。
「缶詰など保存食はできるが…味や賞味期限は保証できない」
ミアは、鳥居から伸びるメインストリートから外れると、土産物が並ぶ商店街に足を向けた。
「な、成る程」
僕は、カードを胸ポケットに突っ込むと、ミアの後ろまで走った。
「きえええ〜!」
奇声を上げる鶏の体に、蛇の首を持つ魔物。
「…」
その前に、学生服を着た…一人の男が立っていた。
「魔都…凶都とはよく言ったものだな」
男はフッと笑うと、胸ポケットからカードを取り出した。
「きえええー!」
魔物が口を開き、牙を見せながら、男に突進してきた。
「芸がないな」
男は何事もないかの如く、普通に前に歩いていく。
魔物は、男を頭から呑み込もうとした。
その次の瞬間、魔物の唇の端から裂けていった。
数秒で、真っ二つになった魔物の体が、男の左右に落ちていく。
「やれやれ…」
男はゆっくりと歩きながら、目を細めた。
前方には、同じ魔物が数十体蠢いていた。
「まあ〜問題はない」
にやりと男は笑った。
数分後、男のカードに…ポイントが加算された。
「意味がない」
男は、転がる魔物の死体達に背を向けた。
「あ、ありがとうございます。助かりました。この地域は、すぐに魔物がわきますもので」
すると、物影から、袴を羽織った小太りの男が姿を見せた。
「それにしても〜流石は、勇者赤星の生まれ変わりと言われるだけありますな」
その言葉に、男はフッと笑った。
「そんな大それた存在ではありませんよ。一応、空いた穴はふさいでおきますので」
男は、カードを空間に向けた。
「よろしくお願いします」
袴を羽織った男は、頭を下げた。
「また何かあったら、連絡して下さい」
「はい。暁様」
再び頭を下げると、袴の男はその場から去って行った。
「魔都の変化…。何かおこっているのか?」
学生服を着た男の名は、暁直矢。
そして、彼が手にしているカードは…黒い色をしていた。