表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
512/563

烈火の如く

「フッ」


楽しそうに笑うカイオウ。


魔王の居城内を迷路のように、張り巡らされた石の回廊を歩くカイオウの前に、突如…屈強な体躯をした赤髪の魔神が現れ、道を塞いだ。


「どこにいっておられた?」


魔神の問いに、カイオウは足を止めると、肩をすくめて見せた。


「大したところではございませんよ。サラ殿」


天空の騎士団長…サラ。魔王直属の部隊の最高責任者であった。


「…」


サラは、無言でカイオウの目を見た。


「御免」


カイオウは頭を下げると、サラの横を通り過ぎた。


「貴殿が、どうお思いかはわかりませぬが…」


サラは、カイオウの方を見ずに、言葉を続けた。


「人間を滅ぼすことは、我らの王が決めたこと。赤星浩一との戦いでの傷が癒えた時!」


「わかっておる」


カイオウは頷くと、回廊の奥へと消えて行った。








「それにしても…」


ミアは、カードを指先で回しながら、町を出て草原を歩いていた。


「一気にレベルが上がるとは、予定外ではあったが、嬉しい誤算だ。こういうことを、お前達の世界では、棚からぼた餅っていうんだろ?」


ミアは後ろを振り返った。


とぼとぼと、ミアの後ろを歩く僕は、周りを見回した。


すぐそばにはいないが…見たことのない動物が、こちらを観察していた。


空には、羽が生えた恐竜のようなものが飛んでいた。


「まあ〜来たのが、カイオウでよかったがな。あいつは、人間をどこか認めている。もし、サラやギラであったならば、あたし達は死んでいた」


ミアは、カードを握り締めた。


「…」


僕は、自分の胸に手を当てた。


(まだ熱い)


自分の肉体が、燃えて…尽きていく感覚は残っていた。


(僕は…どうなったんだ)


訳がわからない世界で、自らの身に起こったことすらわからない。


(だけど…生きている)


こんな世界で、死にたくない…。


それだけは、心に決めていた。



「ところでだ」


突然、ミアは足を止めた。


「てめえのことだが」


ミアは振り返り、


「赤の星屑と融合したことで、てめえのレベルは数段上がっているはずだ。しかしな!」


僕を見て、目を細めた。


「てめえは、それを使う術を知らない。だから、これから徹底的に鍛えて、経験値を上げる…と言っても、てめえがその魔力を使えることはできないだろうけどな」


ミアは無意識に、左手の指輪に触れていた。


「ちまちまやっていくのは、性に合わない」


そこまで言うと、くるりと反転した。


「待ちわびたぞ。支配人殿」


「ひ、ひぇ!」


唐突に、僕の前に…昨日会った支配人と、首から上がドラゴンの人型の魔物が姿を見せた。


「ドラゴンナイトを連れてくるとはな」


ミアはカードを指に挟むと、叫んだ。


「召喚」


すると、ミアの両手にトンファーが握られた。


「昨日の痛みが、忘れられなかったか?」


フッと笑うミアを見て、支配人は着ていたスーツを破り捨てた。


「我は、水の騎士団所属!ダイザ!我が名にかけて、小娘!貴様を殺す!」


鱗に覆われた本性を露にすると、ミアに襲いかかってきた。


その動きと同時に、ドラゴンナイトは足がすくんでいる僕に飛びかかってきた。


「チッ」


ミアは舌打ちすると、僕の方に向かおうとした。


「ミアちゃん」


支配人は、ミアの前に着地すると、両手の爪を伸ばし、攻撃してきた。


「あの男は連れて来いとのご命令だ。ミアちゃんは、自分の身を心配したらどうだい?」




「ひぃ」


小さな悲鳴を上げた僕を、ドラゴンナイトは後ろから羽交い締めにした。



「我らに、歯向かったことを後悔するがいい!馬鹿な人間の男相手に、稼いでいればよかったものを!」


支配人から伸びた爪は、ミアを横から串刺しにしょうとした。


「!」


次の瞬間、支配人は目を見開いた。


伸びた爪は、ミアが持っていたトンファーを挟んで、動けなくなっていた。


「懐ががら空きだぜ」


トンファーを離したミアは地面を蹴ると、一気に支配人の前までやって来た。


「くらえ!」


身を捩り、蹴りを繰り出すミア。


「ルナティックキック!」


ミアの爪先が、支配人の喉に突き刺さった。


「クッ!」


しかし、顔をしかめたのは、ミアの方だった。


「こんな非力な攻撃がきくか!」


支配人は爪を収縮させると、目の前にいるミアを掴もうとした。


「やはり、今のあたしの力では倒せないか」


ミアは呟くように言うと、きりっと表情を引き締めた。


「な!」


自分を掴もうとした支配人の腕を取ると、ミアは身を捩り、さらに支配人に密着し、そのまま…彼を投げた。


視界が回り、背中から地面に倒れた支配人を、ミアが見下ろしていた。


「お、お前は!何者だ!」


慌てて立ち上がると、支配人はミアから距離を取った。


そんな支配人を横目で、睨むミア。


「魔力もない!何の力もない!ただの人間の!ただの小娘!無力で非力な下等動物な癖に!」


支配人の全身の鱗が逆立つ。


「ああ…確かにな」


ミアは頷いた。


「今のあたしは確かに、ただの人間だ。だがな!」


ゆっくりと構えるミア。


「無力かどうかは、試してみろ!お母様より、授かった…この体術をな」


「成る程!格闘技というやつか!しかし、そんなもので!この攻撃を防ぐことができるかな」


支配人の逆立った鱗が水平になり、ミアの方に向いた。


「チッ」


それを見た瞬間、ミアは舌打ちすると、カードに指を走らせた。


「まだ…補充していないのに!」


ミアはテレポートすると、ドラゴンナイトに羽交い締めにされている僕の前に移動した。


「逃がすか!」


支配人は体を動かすと、ミアに向けて、鱗を放った。


「燃やせ!魂を!」


ミアは左手で僕に触れると、直ぐ様移動した。


「うわああああっ!」


ミアに触れられた瞬間、僕の体のすべてが燃え上がった。


その炎に煽られて、ドラゴンナイトは思わず、手を離した。


「何!?」


僕を燃やす炎は、支配人から放たれた鱗を一瞬で灰にした。


「な、なんだ!この炎は!何だ!この魔力は!」


唖然とする支配人。


「言ったはずだ。てめえらを倒すとな」


「!」


支配人の耳元から、声がした。


「失敗だったな。自らを守る…ものがなくなっているぜ」


「き、貴様…」


いつのまにかそばに来たミアが握る剣が、支配人を貫いていた。


「無力で非力な人間の力を…思いしれ」


ミアは剣を抜くと振り上げ、支配人を頭から股下まで斬り裂いた。


「うぎゃああああ!」


断末魔の叫びを上げて、倒れた支配人に、ミアは最後の言葉をかけた。


「あんたには、感謝している。稼がしてくれてな」


ミアのカードに、新たなポイントが入った。


「あとは…ドラゴンナイトか」


ミアは、剣を一回転させると、僕の扱いに困っているドラゴンナイトに体を向けた。


「ま、まさかな…。ダイザを倒すとはな」


「!」


突然、後ろから声がした為、反射的にミアは横凪ぎの斬撃を放った。


「それに、全身を炎に変える力か…。面白い!」


剣を指先で、つまんで止めた魔神を見て、ミアは唇を噛み締めた。


「我が名は、マイロン!108が魔神の1人!」


マイロンの名を聞き、ミアは笑った。


「マイロンか…。知っているぞ。108の魔神の中で、一番弱いとな!」


「小娘!」


マイロンは指先で、剣先を砕いた。


その瞬間、ミアは再びテレポートした。


「いくぞ!」


燃え尽きようとしている僕のそばに現れると、ミアは左手を突き出した。


指輪についている赤い宝石が、輝き出した。


「我が身も燃やす炎よ!我に纏え!」


その次の瞬間、僕の体はすべて炎となり…ミアの全身に広がった。


「!」


驚くマイロンの前で、炎は…ミアを燃やすことなく、彼女の身を包んでいく。


「これが!ライフエナジープロテクター…別名!」


ミアは、マイロンに目を向けた。


華烈火(かれっか)だ!」


炎のような赤い鎧を身に纏ったミアが、悠然と大地に立っていた。


「ほ、炎を纏っただと!だから、どうなるというのだ!やれ!ドラゴンナイト!」


マイロンの命令に、後方にいたドラゴンナイトが襲いかかってきた。


「違いだと」


ミアは左足を引き、腰をねじると、回し蹴りをドラゴンナイトに叩き込んだ。


すると、ドラゴンナイトは炎に包まれて消滅した。



「ば、馬鹿な!?」


と言った瞬間、マイロンの胸から背中にかけて、炎が貫いていた。


離れた位置にいるミアの腕に握られた…炎でできた剣の刃が伸びていた。


「そ、そんな…はずがない…。我々は108の…」


ミアに向かって手を伸ばすマイロンの腕が、燃え尽きていく。


「フン」


ミアが剣を抜いた時には、マイロンは灰となっていた。


「言ったはずだ。一番弱いとな」


ミアの全身を包んでいた鎧が消えると、全裸になった僕が彼女の前に倒れていた。


「やはり…星屑一つでは、長時間、華烈火は使えないか」


マイロンを倒したポイントが、カードに加算された。



「だが、しかし!」


ミアは、拳を握り締めた。


「これで再び!魔力が使える!」


そして、遥か彼方に目をやった。


「待っていろ!必ずすべての星屑を集めて、貴様を倒す!」


握り締めた拳を前に突き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ